第4話 そう言えば



イアーゴ・ドミンゴは、2番目の彼女とのデートを終え、機嫌よく帰宅した。



今日の相手はエミリー・プラント、準男爵家の娘で、イアーゴの今1番のお気に入りだ。



少々学が足りないが、平民の彼女たちよりはましな振る舞いができるし、顔立ちもまあまあ華やかだ。

多少のマナーは知っているので、貴族街の店を連れて歩いても問題ない。


そういう意味では男爵令嬢のレアが一番連れ回しやすかったが、あと少しで彼女の婚約者が国外勤務を終えて帰って来るので、そろそろ関係を終わりにしないといけないのだ。


エミリーもレアの様に遊ぶ金目当てだろうが、呼び出せばいつでも飛んでくるし、どこにでも付いてくる。そして、帰れと言えば文句を言わずにすぐ帰る。

イアーゴにとって、エミリーはレア同様、面倒がない女だった。



・・・まあ、結婚相手には向かないけどな。


俺ならば、レアもエミリーも妻には選ばない。



そう思いながら扉を開ければ、執事たちがイアーゴを出迎えた。




「お帰りなさいませ、イアーゴ坊ちゃま」



頭を下げる執事やメイドたち。


イアーゴは小さく「ああ」と答えた。



子爵家にしては広い屋敷、美しく整えられた庭園、それなりに多い使用人たち。


両親からは自由にできる金も潤沢に与えられていて、何に使っても文句など言われない。


今日の様に婚約者でない女と遊び歩いても、叱られる事はない。



だって、叱る立場にある彼の両親は、いつも不在なのだ。



そういえば2人の顔を最後に見たのはいつだったかな、とイアーゴは思案した。


たぶん父はふた月以上は前で、母の顔は20日くらい見ていない気がする。


あの2人はイアーゴが何をしているのか知らないだろう。きっと興味すらない。


彼らは忙しいのだ、仕事でか遊びでかは知らないが。



―――いや、嘘だ。



イアーゴは苦笑しながら首を振った。



本当は知っている。



両親がどこで、何をしているのか。誰といるのか。



・・・知っていても、だから何だって話だけどね。



どうせ会えないし、話もできない。

会えたとしても、風が通り過ぎるように一瞬だけだ。



だから、あの2人の事は考えるだけ馬鹿馬鹿しい。



そう結論を下したイアーゴは、執事に言った。



「今日の夕食は遅めにして。ちょっと甘いものを食べすぎちゃって、まだあまりお腹が空いてないんだ」


「畏まりました」



どさりと椅子に腰かけ、机の上に重ねられた書類やら何やらをいたずらに弄びながら、イアーゴはつらつらと考える。



エミリーは甘いものが好きだから、会うとついついそういう店ばかりを選んでしまうんだよな。


でも、今日でめぼしい所はだいたい回っちゃったから、また別の店を見つけておかないと―――






「・・・あれ?」



机上のトレイ、イアーゴ宛ての手紙が置かれる場所であるそこに手が伸びた時に、はたと気づく。



そういえば最近、受け取っていない気がする。



いつも週に一度は届いてる手紙が。



「珍しいな。セシリエが書き忘れるなんて」



うっかりさんなところがあったとは新しい発見だ、とイアーゴは笑った。




セシリエ・ハンメル。


真面目で、しっかり者で、よく気が利くイアーゴの婚約者。



なかなか賢くて可愛い、お嫁さんにするのにぴったりの女の子。


いつも婚約者のイアーゴの事を考えてくれて、贈り物や手紙を欠かさない。



「あれ? でも・・・」



そういえば、最後に手紙を受け取ったのはいつだろう。










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