第2話 お別れします



衝立で仕切った奥の席に座っていたのはセシリエと彼女の兄ハワード、そしてハワードの親友でエーリッヒの兄でもあるアーノルドだ。



たまたまイアーゴと同学年だったというだけで、今日この場に駆り出されたエーリッヒ。ほぼほぼ初対面なのに出張ってくれた彼に、セシリエは礼を言おうと口を開きかけ。

けれど、「ばっちりだったぞ、弟よ」と言った兄アーノルドの方が早かった。



「ほら座れ。約束通り、好きなだけここのケーキを注文して食べるといい。お代は全部、金持ちのこいつが払ってくれるから」



こいつ、と指さされ、向かいに座っていたハワードは反射的に眉を寄せる。だがすぐに笑顔でエーリッヒに「君には感謝している」と話した。



「ケーキくらいお安い御用だ。お陰でイアーゴの考えを知れた。あんなくだらない言い分で妹を蔑ろにしていたとはな」


「ホントホント、こんな可愛いセシリエちゃんと婚約できたのに、何バカなことを言ってんだろうね。なあ、お前もそう思うだろ? エーリッヒ」


「うん、まあそれは・・・」



気まずそうに同意するエーリッヒに、セシリエはカフェメニューを差し出した。



「エーリッヒさま。今日はご協力いただき、本当にありがとうございました。どうぞケーキをお好きなだけ食べて下さいね」


「あ、ありがとうございます。僕も、この話は男としてちょっと見過ごせないと思ったので、お気になさらず・・・ええと、セシリエさんの役に立てたならよかったです」



エーリッヒが席に着いたのを確認すると、セシリエの兄ハワードが気遣わしげな視線を妹に向けた。



「セシ、どうする? あいつはお前を蔑ろにして女遊びを続けるつもりでいるくせに、結婚だけはする気でいるぞ」


「そうですね。今日はイアーゴさまの名言を聞けてよかったです。お陰で目が覚めました」


「名言?」



ハワードは微妙な顔で聞き返す。それに同意する様に、向かいの席に座る2人の頭も上下に動いた。


セシリエは苦笑する。



「名言ですよ。恋人にしたい人と結婚したい人とは別と聞いて、なるほどと納得しちゃいましたもの。確かに、恋人の場合は少しくらい冒険しても取り返しがつきますけど、結婚となったらそうはいきませんよね」


「それは・・・まあ、そうかもしれないが」


「結婚で冒険はできません。だから結婚するなら真面目で頭がよくてしっかり者と―――ええ、イアーゴさまの言う通りです、同意しかありません。私だって、結婚するならそのような方がいい。イアーゴさまみたいな人なんて、夫にしたくないですもの」


「セシ・・・」


「だからお別れします」



そうか、とハワードは妹の手を握った。



「・・・うん、そうだな。そうした方がいい。あんなろくでもない男なんか、こっちから捨ててやれ」


「はい、そうします。といっても、これからの話し合いにかかってますけどね」


「あ、そういう事なら」



頬杖をつき、黙って話を聞いていたアーノルドが手を上げる。



「俺も力になるよ。情報ギルド勤めのアーノルドさんは頼りになるよ? さっきの会話だって、ちゃ~んと記録石に収めておいたしね」



そう言うと、アーノルドは胸元のポケットをぽんと叩いてみせた。


すると、メニューを見ていたエーリッヒまでもが顔を上げ。



「ぼ、僕も何かできる事があるなら協力します」



と意気込んだ。




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