第3話 幽霊に遭遇その1~おじさん編

 これは私が服飾科の学生だった時のお話です。

 学園祭のファッションショーのためだけでなく、毎授業ごとに、いついつまでに完成させるという課題があり、小説の執筆速度と同様に仕上げることが遅い私は徹夜をして間に合わせることもよくありました。


 当時は怖がりだったので、家族が寝静まった後はテレビをつけて気を紛らわしながらミシンをかけたりしていました。

 合間合間で友達から「ここの部分はどう縫えばいいの?」という質問メール(L○○Eがない時代)に答えながら、私なりに必死に頑張っていました。


 深夜での作業と、友達の質問になるはやで詳細に答えるという私にとっては大変な毎日で、まだ10代で若かったのですが少し疲れを感じていました。

 竹下通りもいいけれど、自室のベッドの上で雑誌を眺めながらポッキーを食べることに幸せを感じていた時代でした。


 そんなある日の夜。一度休憩しようとベッドに寝転ぶことにしました。

 本当に休憩のつもりだったので電気もつけっぱなしだったのですが、その日はうっかりそのまま眠ってしまったのです。

 するとあれが起こりました。

 このコンディションであれというのは、そう。皆さんも経験があると思われる金縛りのことです。


 金縛りは入眠の仕方や疲れで引き起こされるもので、幽霊の仕業(恥)ではないことは知っていました。

 だけど実際に起こると、頭では理解しているつもりでも恐怖が押し寄せてきて、それこそ私はなるはやで金縛りを解こうとしました。


 胸に重みを感じて苦しいですし、「うーう゛ー」とうめき声をあげることしか出来ませんでしたが、動かない体に力を入れて、何とか眠りから覚めようとしました。

 ですが私は、不意に目を開けてしまったのです。


 するとあったのは顔。おじさんが私を見ていました。

 そしてなんと私が「わ!」と心の中で驚いたように、おじさんも「わ!」と驚いたかのような表情で顔を引っ込めたのです。


 ですが懲りずにもう一度おじさんがひょっこり顔を出して覗いてきたので、私はすぐ目を瞑って金縛りを解こうと必死にもがきました。

 そこで思い出すのが、小学生の時に読んだ学校の怪談。

 幽霊を見ようと遊び半分で来た子ではない、偶然居合わせた子が幽霊と目が合っただけで亡くなってしまうという理不尽な内容です。

 私は「それが今の私だ!」と思って、半泣きになりながら抵抗し続けました。


 やっとの思いで金縛りを解くことが出来た私は、怖かったのでベッドから離れる時は目を瞑ったままで立ち上がり、でもこのままだと部屋から出れないので勇気を振り絞って目を開けました。

 もちろんおじさんはいません。でもだからって、このままこの部屋にも居れません。

 私は枕を引っ掴んで隣の両親の寝室へとダッシュ。

「おかーさぁん。おじさんがびっくりしてたぁ」と母親を起こした後、迷いもなくベッドに潜り込みました。


 でも熟睡中の犬の下で蹲りながら思ったのです。なんであっちが驚いているんだと。

 段々と腹が立って来て、でもまだ怖くて、あと狭いしって思いながらその夜は眠りにつきました。


 翌日。私はこの経験ほやほやの恐怖を共有しようと友人に報告。しかし、

「え? あんたちゃんと戸締りしたぁ? 本当に男の人が乗ってたんじゃないの?」

 と呆れられてしまいました。

 ち、違うもん! 本当に居たもん! トトr……!

 そんなまるでジ〇リ作品に登場する女の子のような台詞を、ちゃんとまともな友人へナチュラルに叫び出してしまいそうになる私なのでした。


 ……まぁ入眠時幻覚ってやつでしょうね。

 胸に重みを感じる+金縛り怖い=おじさんが乗っかっているに違いない

 と知らず知らずのうちに定義して、私は幻覚を見たみたいです。


 ですが、自分の姿が生きている人に見えていると思わないで近付いて、いざ目が合ってしまうと“「わ!」返し”をしてしまうおっちょこちょいな幽霊がいる、というお話もあるらしいので、もしかしたら本物の幽霊だったかもしれません。


 けれどもしそのおじさんが幽霊なら、成仏が出来ていないってことですよね?

 私を覗くおじさんからは悲壮感が見られませんでしたが、そう考えるとなんだか切ない気もしました。

 みなさんも幽霊を見てしまった経験はありますか?

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