第7-3話 勇者

 いつか、殺してくれる魔王が現れるのを。


 そのいつかは、数十年経っても。数百年経っても訪れなかった。


 そして、今回も……。


 夢魔である魔王なら、勇者の力を糧にできる。勇者の力を超えられるかもしれない。


 希望。には見えなかった。溺れている所に一本の藁が流れてきた程度の無に等しい希望。


 実際、魔王は勇者の希望になれず、去って行った。


 たった二カ月。数百年生きている勇者にとっては、記憶にも残らない時間のはずなのに。


 勇者の脳裏に焼き付いている。


『ふふ。楽しみ。あなたのパン。美味しいから』


 少女の笑顔が。


『あなたとの生活。楽しかったわ』


 少女の悲しみを隠そうとする笑顔が。


 ……いつからだろう。


『少女の笑顔が見たいと、願ったのは』


 女の瞳に、光が灯った。

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