追憶の日々

椿ハルン

第1話 現状

 いつからだろう。


 人間を殲滅する魔王が現れたのは。


 いつからだろう。


 魔物を殲滅する勇者が現れたのは。


 そして。


 いつからだろう。


 殲滅する者が。



 勇者だけになったのは。



◇◇◇◇◇


 勇者は歩く。無表情で淡々と。


 惨殺された魔物の死体が転がる道を。


 勇者が進む先にはまだ、魔物の集団がいた。それらが一斉にこちらへと駆けてくる。


 同胞の敵!


 その想いが魔物たちの足を動かしている。勇者はその想いを瞬時に消し去る。


 剣が大量の赤き飛沫を上げる。魔法が大量の黒き灰を生成する。


 生が一瞬にして死へと変わる。


「……」


 勇者は最後の生へ辿り着く。


 地に座り込む女性。体は振るえ、顔は恐怖に染まっている。


 勇者は戦意を感じない女性に向かって剣を振るった。


「……」


 勇者は地に落ちた顔を見つめる。


 生気が消えた瞳に映るのは、生気をなくした瞳。


「……いつになったら、私は──」


 いつも勇者──女の声を聞く者は。


 生を奪われた魔物と。



 魔王のみ。


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