魔法の検証
「ルース兄様!」
僕は夕食を前にルース兄様の所に駆け込んだ。
「どうした?リック」
「それが、かくかくしかじかで……」
僕はルース兄様にさっき起こった出来事を報告した。
ルース兄様は、話を聞き終わると、「ふむ……」と顎に手を当てて何かを考えている。
「……実際に見てみよう。それが一番早い」
「はい!」
僕とルース兄様は、公爵邸に併設してある訓練場に足を運ぶ。
ルース兄様は、その場にいた兵士たちに命じて人形を用意した。
「リック。あれにめがけて魔法を使ってみよう。やり方は俺が教える」
そう言ってルース兄様は右手を人形に向ける。
「アンレントルミカエリアス。ファイア!」
ルース兄様の右手から火の玉が飛び出し、人形にぶつかって霧散した。
「今のが、火の基本攻撃魔法、『ファイアーボール』だ。呪文を知っていて魔力さえあれば誰でも放てる」
「な、なるほど……」
ルース兄様は僕の方を見てにっこりと笑って言う。
「さぁ、やって見せてくれ。別にできなくたって問題は無いからな。当たって砕けろだ!」
「分かりました、ルース兄様!」
僕はさっきルース兄様がしていたように右手を人形に向けた。
確か、呪文は……。
「アンレントルルア<黒点>エリアス!ファイア!」
「あ、おい!リック!」
「え、うわぁ!?」
ルース兄様が叫んだと同時に、人形から炎柱が立つ。
そして、しばらくの後、火が消えると、人形が灰になって消えてしまっていた。
僕は、おそるおそる兄様の方を見る。
……やばい、人形壊しちゃった……。
ルース兄様はすたすたとこちらに歩いてくると、僕の体をあちこち触り始めた。
「大丈夫か!?けがはないか?体に異常はないか?」
「あ、えっと……」
「今のは消費魔力が1000とかいうバカげた魔法だぞ!?大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……」
僕がそう言うと、ルース兄様はほっとしたようだった。
「良かった……。魔力を1000も使う魔法なんて見たことが無くてな。不安になってしまった」
そう言うと、ルース兄様は僕の頭をポンポン叩いてくれた。
「何はともあれ使えたな、魔法」
「あ……」
「これでお前の憂いは無くなっただろ?だから安心していい、リックの居場所はここだ。何も気にすることはないさ」
「……うん」
僕はそのままルース兄様の胸に顔を埋める。
ルース兄様は優しくぎゅっと抱きしめてくれた。
——良かった。
しばらくルース兄様に抱きしめてもらった。
「ルース兄様、僕、魔力があるから勘当を解消してもらえるのではないですか!?」
僕がそう目をキラキラさせて言うと、ルース兄様は頭を掻いていた。
「いや、まぁ、ワンチャンそうではあるが……」
そう言いながらルース兄様は首を横に振った。
「いや、ダメだな」
「どうしてですか?」
ルース兄様はぴしっと指を2本立てると僕に詳しく説明してくれた。
「まず、一つ。一旦は必要ありません~って勘当しておいて、魔力があったから戻ってこいはクズの所業。俺は許せん。ケジメ付けろよちゃんとと兄様は思います」
「でも、貴族であるのと無いのとじゃあ、やっぱり今の状況も違ってきますし、そこは飲み込むべきだと思うんです」
僕がそう言うと、ルース兄様は頷いた。
「俺もそう思う。でも問題は二つ目だ。あいつが間違いを認めるとは到底思えない。下手すれば恥かかせたってことで平民のお前を処刑するー!なんて言い出しかねない」
「そ、それは……」
僕はその言葉を否定できなかった。
「確かに有用な駒として勘当を取り消す可能性もあるが、正直マイナスの可能性がある以上、この手段はとるべきじゃないと思う」
「……」
僕は沈黙するしかなかった。
「でも、僕とルース兄様やミケアとの縁が切れたみたいで——」
すると、ルース兄様は僕の頭をなでる。
「心配するな!勘当されてたって、リック、お前は俺の弟だし、ミケアの兄ちゃんだ。俺はそう思ってるし、ミケアも絶対にそう思ってる」
そう言って、ルース兄様は笑った。
「それに心配せずとも俺が何とかしてやるから!ほら、今日は大量に魔力使って疲れただろう?夕食を食べた後はゆっくり休みなさい」
「……はい!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本日の分はもう一つあります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます