マジッカー・クリッカー!~魔力が回復しない世界で僕は無限の魔力を手に入れる~

青猫

勘当

「今日はいよいよ入学式だな!お前と同じ学校に行けるのが楽しみだよ!」


そう言ってくるのはルース兄様。僕の兄だ


「お前も我が家に恥じることのない人間になるのだぞ」


冷たく厳格にふるまうのは父のハウスト。

今日は僕が王立ネルスト魔法学園に入学する日だ。

いよいよ始まる学校生活と、そして“アレ”の測定に、今も僕の心臓はドキドキだ。


「はい、ルース兄様、お父様。僕、リック・ラインストはラインスト公爵家の名に恥じぬように精進します!」


学園へと向かう道中、馬車の中で僕はそう宣言する。


「はは。でも無理はするんじゃないぞ」


ルース兄様はそう言って僕の頭をなでる。


「も、もう!僕だってもう15歳ですよ!いい加減に子供扱いするのはやめてください!」

「いいじゃないか、ほーれ!」


そう言ってルース兄様は力を強くしてわしゃわしゃと僕の頭を掻きまわす。

ルース兄様は、弟妹にすごく甘い。

今回はどうしても来られなかった妹のミケアにも同じようにやる。

妹はこれが好きみたいだけど、僕はちょっと苦手だ。


「おい、ルース。お前は次期当主としての自覚を持て」

「いいじゃないですか、このぐらい」

「いいから離れろ」

「……はーい」


ルース兄様は明らかに不満を隠せない顔で僕から手を離した。

父は苦手だが、今回は助かった。

でもルース兄様は、少し父を敵視している節がある。

僕にはよく分からないが、何かしらが二人の間にあるのだと思う。


そうこうしているうちに馬車は学校に到着し、僕たちは入学式の会場へと足を運んだ。

入学式の会場には、大きな水晶が鎮座しており、今から入学する同級生たちは、若干緊張しているみたいだ。


――この水晶は、魔力を測るためのものだ。

魔力というのは、魔法を使う源みたいなもの。でも、使うと無くなってしまう為、どれだけ多くの魔力を持っているかが、貴族としてのステータスになるらしい。

そしてこの水晶は、今持っている魔力を数値化する役目を果たしている。

なんで入学式でこんなことを行うか、ルース兄様に聞いてみたら、


「こんなん自分の地位をひけらかすためのものに決まってるだろ?」


と笑って言ってた。

ルース兄様は、その年最高の百万を記録したらしい。

10年に一度、あるかないかの魔力量だそうだ。

これだけあれば、たくさんの魔法を生涯使うことができる。

その時は、僕もミケアも、「兄様すごーい!」と手を叩いて喜んだ。

その時ルース兄様は胸を張って「凄いだろ、お前たちの兄は!」と言っていた。


そして今年、僕の番である。

ルース兄様は、「低くても生きていけるから問題なし!」と言っているけど、僕だってラインスト公爵家の一員だ。

少しでもいい結果を残してルース兄様の役に立てるようにしなければ!


そう思っていたらいよいよ僕の番になった。

僕は、唾を飲み込んで、水晶の前に足を運ぶ。

そして、覚悟を決めて、手を触れた。


0/∞


水晶に表示されたそれを見た瞬間に場の空気は凍る。

左が保有魔力量、右が限界魔力量。

右に書かれているこのマークが何なのかはよく分からないが、左に書かれているこの数字は分かる。

0。

つまり、魔力が無いってことだ。

それを理解した瞬間に、息が詰まった。

何で?僕は魔力を持ってない?こんなこと聞いた事が無い。

思考はぐるぐると回っていくが、何の案も思い浮かばない。

その時だった。


「おい、邪魔」


そう言って僕は水晶から引っ張り降ろされた。

その勢いで尻餅をつく。


「痛っ……」


周囲に人が集まってくる。

周りの人たちがクスクスと笑っていることに気づく。


「ねぇ、あれ、魔力が0って本当?」

「公爵家の次男でしょ?」

「落ちこぼれね……」


向けられたことのない好奇な視線。

僕は、父様なら何とかしてくれるんじゃないかとキョロキョロ見回す。


そこに父様の姿を見つけた僕は、なんとか、父様に手を伸ばした。

しかし、その手は父様に届くことは無かった。


「ふん」


父様は触るのも嫌だと言わんばかりに僕の手を払った。


「え……」

「まさかお前がこんなゴミだとは」

「父様……?」

「お前から父様などと呼ばれたくないわ」


そう言って僕に冷たい目を向ける父。


「お前はラインスト公爵家から勘当する。どこへなりとも行くがよい」

「そ、そんなっ!」

「……平民が私に物申すか?……衛兵、こいつをこの会場から外に出せ。ここは貴族が集まる場だ。平民如きがいていい場所ではない」

「そ、そんな、父様っ」


僕が言葉を続けようとした瞬間、僕の目の前に剣が向けられた。


「黙れ平民、二度とその口で私を父とのたまうな」


凄まじい殺気が僕に向けられる。

……僕は何も言うことができなかった。




――僕は、雨降る街を一人とぼとぼと歩いていた。

行く当てもなく、どうすればいいのかも分からない。

しかし、それでもお腹はすく。

思い出したのは、兄妹のことだ。


『リックお兄様、これ、トマトが入ってますの……』

『……僕が食べたらいいの?』

『こら、ミケア。ちゃんとトマトも食べないと立派なレディにはなれないぞ』

『むー……ルースお兄様が意地悪を言う……』


父は公務で忙しく、僕の母は病気で他界。二人の母親もあまり家庭を顧みず、自分の実家で遊び惚けているらしい。

だから、ご飯もいつも三人で食べていた。

いや、もっと昔は一人で食べていた。

でも、ルースお兄様が『一人より、二人だ』なんて言って僕と一緒に食べ始めたのだ。

妹が生まれてからは、妹も一緒に。

どこか、いつもピリピリしている公爵家で、唯一の楽しみだった。


……でも、もう、それも叶わないのかな……。

このまま、のたれ、死んで……。

遠くから誰かが走ってくるのが、一瞬見えた、ような。

そう思っているうちに、僕は意識を失って倒れ込んでしまった。


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