未来は名探偵

花道優曇華

第一幕「未来探偵と白銀の鏡」

第1話「未来探偵」

未来を見通せば何でもお見通し、だが世の中そんな都合の良い力は無い。

こんなことが通じるのはあくまでも物語だけ。

街角を出歩く一人の少女がいる。彼女の名前は杜若かきつばたミライの

歩く先に一台の車が停車していた。見慣れた車の助手席の扉をミライは

開いた。


「私、迎えに来て欲しいってお願いして無いけど…」


ナインを名乗る男は運転席に座っており、ミライがシートベルトを着用したことを

確認するとアクセルブレーキを踏んだ。動き出した車が向かう先は家とは別の

方向だ。


「探偵宛に依頼が届いてね」


運転席の後ろに座るのは朝桐シュウという男。彼は依頼書となる手紙を

ミライに手渡した。封は既に開けられており、彼女は手紙を中から取り出す。

鷲尾藤三郎という男からの依頼は彼が住んでいる館で起こった不思議な事件の

調査だ。白銀荘と呼ばれる別荘で起こった事件。別荘を買えるだけの資産を

持つ男からの依頼。


「何処かで聞いたことある名前だな。鷲尾藤三郎…資産家だったか」

「そうなの!?そんな凄い人が何で…もっと凄い人を雇えると思うんだけど…」


ミライは探偵業を継いでいるが、名前は全く知れ渡っていない。


「でも依頼が来た。仕事も大して無いし、良いんじゃないか」

「まぁね。あーでも、開口一番は良い言葉は出て来ないだろうなぁ…」


彼女が自分から探偵だと名乗ることは無い。過去にも何度か依頼の為に

依頼主のもとへ訪れたが、誰もが絶句していた。おちょくっているのかと

激怒し、追い出されたこともある。その度にナインたちが色々と事情を説明したり

時には影武者を担当したりして依頼を達成していた。


「その時はその時さ。困っているのだから、僕たちは手を貸しに行く…でしょ」


赤信号で停止していた車は動き出した。依頼人は白銀荘で待っている。山の中へ

車は入っていく。青々とした葉をつけた木々が眩い日光を遮っているため、

街中よりも涼しい。加えて空気も澄んでいる。木々に囲まれた道を抜けると

童話に出て来そうな館が見えた。白い壁の館、そして青い門。事件が

起こっている白銀荘。門の前に来るとメイド服を着た女性が待っていた。


「ようこそ、白銀荘へ。駐車場へ案内いたします」


鷲尾藤三郎のメイド、市姫ナナミ。彼女に案内された駐車場に車を停め、

三人は車を降りた。ナナミによって館の中へ通される。


「ひ、広いですね…!」

「藤三郎様のご自慢の別荘です。急な仕事が入ってしまい、旦那様は外出しておられます」

「そうだったんですね。それなのに、私たちがお邪魔して大丈夫だったのですか?」

「旦那様より指示が出されておりますので、事件を解決してくださる探偵様を

歓迎するのは当然の事。さぁ、どうぞ。ゆっくりなさってください」


ナナミはミライたちを大広間へ案内してくれた。莫大な財産を持つ資産家の

豪邸。何だかソワソワする。ナナミ以外にも使用人が何人かここで働いている。

客人であるミライたちに紅茶と茶菓子が出された。

ミライは用意された菓子を食べながらも、緊張していた。一生のうちに入れるか

どうかの大豪邸の中で使用人を雇っている資産家からの依頼を達成させるのだ。


「遅くなってすまないね」


やって来た初老の男は高級そうなスーツを身に着けている。ミライたちは

立ち上がる。鷲尾藤三郎はミライを見て、困惑した様子。


「はて…君が探偵なのかね。そちらの彼ではないのかね」


藤三郎はシュウに目を向けた。彼にとってはシュウが探偵に見えるらしい。彼は

先にミライたちに依頼をした人物から噂を聞いたらしい。その時は色々混乱

するようなことがあってシュウが探偵と言う名目で依頼を果たしていた。その為

探偵について彼の特徴が口伝していたのだ。シュウはミライに目配せした。


「いえいえ、彼女は僕の助手。僕はシュウ、彼女はミライ、そして彼が相棒の

ナイン。早速話を聞かせて貰っても?」


シュウは探偵だと自称し、ミライの代わりに彼に取り入る。彼に仕える従者が

消える館。白銀荘で人が消える。


「それは従者だけですか」

「えぇ、今のところは」

「旦那様…」


ナナミは何かを言いたげな顔をする。彼女の心中も察して、もう一つ事件の重要な

ヒントを提示した。


「鏡…」

「白銀荘にある大きな鏡です。その鏡がある部屋に入った者が次々と姿を

消している。部屋の掃除の際は一人でしないようにしています」


部屋に入った者が次々と姿を消す一室の掃除。一人だけに任せるとその従者がまた

消えてしまうかもしれない。通称、鏡の間。その掃除は二人で行うように彼は

言いつけている。


「ナナミ。彼らを案内しなさい。館内は自由に散策していただいて構いませんので、

どうかよろしくお願いします」


白銀荘で姿を消す住人達。彼らを見つけ出し、この謎を解かなければならない。

何故鏡の間で人が消える?消えた人々は何処へ?未来探偵は不思議な力を

駆使して解決へ導く。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る