第27話 ひどいものをみた
お金を稼ぐという理由で配信をする予定だったけど、この世界にやってきた他の参加者たちにヤックルの凄さを見せつけるためにも、配信はするべきだ――そんな話になった。
休日二日目は他の配信者の動画を見て勉強し、それから数日間はレベル上げに専念。
結果――俺たちは全員がレベル4に達するまでに成長していた。
「初撃破報酬は残念だったけど――前情報があるのはありがたいよな。楽できるし」
「大丈夫よ。私があなたを後ろから撃ち抜いて難易度調整してあげるから」
「千春が敵になんの!? ボスも急に味方ができてビックリだよ!」
「私も蛍さんになら攻撃できそうです!」
「ダメに決まってんだろ! ヤックルの中の俺って魔物より優先度低いわけ!?」
街の外の平原を歩きながら、いつもと何も変わらない会話をする。
ここ数日でヤックルは完全に俺たちと打ち解けていた。
彼女自身がとても社交的であり、年齢差もあまりないから友達感覚でいられるということが大きいのだろう。
「えーっと……ボスは倒すのか?だって? そりゃ倒すよ。タイトルに書いてるだろ」
現在、配信中である。
俺はスマホの配信画面でコメントを読み上げ、それに対する返事をした。
本日は俺と千春とヤックルで、街の南西にある洞窟にいるボスを討伐する予定だ。
残念ながらこのボスは昨日、トルテさんを含む別の参加者に倒されてしまったので、初撃破報酬はもらえない。
だが、参加者にとって一度目の討伐であれば確定でドロップ品が手に入るらしいし、経験値もわりと多い。それに加えて、配信映えするだろうということで、報酬は少なくなっているが予定通り決行することとなった。
「だめですよ蛍さん。リスナーさんには媚びを売らないと――ほら、私の上下に激しく揺れるアホ毛を見ていいですよ! カメラさん! 映してください!」
ヤックルがその場でピョンピョンと跳ねながら言う。
すると、宙にふわふわと浮かんでいた紫のテニスボールほどの球体がヤックルに近寄っていった。
ダックスたちの配信では気付かなかったが、配信を起動しているときはこの物体がカメラの役割を担っているらしい。ちなみに触れなかった。
コメントでは『アホ毛助かる』だとか、『これを見に来た』などいうふざけたコメントが飛び交っている。さすがに冗談だよね?
「アホ毛じゃ普通の男は釣れないぞ。男は揺れる胸に釣られるもんだ」
「そ、そんな……揺れる乳なんて高齢者になってからでしょう!?」
アホゲスト族は高齢者になると胸が膨らむのか。相変わらず謎の多い種族だなぁ。
「胸なら家で好きなように見ても触ってもいいから、そろそろ気を引き締めなさい。洞窟に入るわよ」
「本当か千春!? いまの言葉忘れるなよ!? 冗談だったとか言うなよ!?」
聞き間違いじゃないよね!? ハッキリと言ったよね!?
配信のコメント欄もかなりのスピードで流れて行っているけど、今はそんなことよりも千春だ。俺はとうとう大人の階段を昇ってしまうかもしれない。
「えぇ。自分の胸を鏡で見て、好きなだけ揉めばいいじゃない。私は止めないわ」
「あぁ……そういう」
たしかに千春は誰の胸とは言っていなかったな……しくしく。
ガックリと肩を落として配信画面に目を向けると、『見舞金』というコメントとともに五百円が投げられていた。君たち、結構優しいよね。
それ以外にも俺を慰めるコメントがいくつも散見された。
「アホ毛、揉んどきます?」
「引っ込んでろ痴女」
「黙りなさい痴女」
「ひどいですっ!」
このやりとりに関しては、『もっとヤックルに優しくしなさい』だの『アホ毛触らせてもらえるなんて羨ましい』などというコメントが届いたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
高さ五メートルほどの岩山があり、そこから下に降りるような形で洞窟は広がっている。
内部はかなりゆとりがあって、地球にある三車線道路のトンネルよりも広いぐらいだ。
配信を見ている時は気にしていなかったけど、天井や壁に光る植物が自生しているおかげで、暗くて困るということはない模様。
事前に手に入れた情報によると、この中にいる魔物はゴブリン、ロックゴーレムという岩の魔物、そしてスケルトンという名の骸骨だ。レベルは5から7となっており、ボスのスカルアーチャーもレベル7である。
「ヤックル、頼んだ」
「合点承知っ!」
洞窟の通路に半透明のドームが形成されると同時、俺はヤックルに声を掛ける。すると、彼女は脱兎の如く駆け出して、敵のゴブリンの前で反復横跳びを始めた。
躱すというよりも煽っているようにしか見えないんだよなぁ。
俺は物音を立てぬように――そして気配をできるだけ消してからゴブリンの背後に回り込み、『ギギィッ』と苛立ちの声を挙げているゴブリンの頭上に、鉄パイプを振り下ろした。
後頭部を思いっきり殴りつけられたゴブリンは『ギャ』という声を漏らして地面に倒れる。
自由に割り振れるポイントは今のところ全て攻撃に振っているので、敵のHPの半分以上は一撃で削れた。
「とどめよ」
そこに千春がやって来て、至近距離で頭と首と背中に弓を打ち込む。ゴブリンは『グゲッ』という断末魔とともに光の粒子となって消えていく。
『ひ ど い も の を み た』
『俺、ちょっとゴブリンが可哀想になってきたよ』
『ヤックル素敵! 大活躍じゃない!?』
『目の前で鬱陶しいものを見せられたと思ったら、背後から鉄パイプで殴られ、倒れたところを急所に弓三発撃ち込まれて昇天ww』
『いや凄いとは思うよ、振り下ろしも綺麗だったし、矢をつがえるスピードも狙いも正確だ。ただちょっとねアレだね……悪魔かな?』
自分たちよりレベルが上の魔物を完封したというのに、コメント欄ではかなり不評だった。ヤックルをべた褒めしている人はいたけども。
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