第21話 いざ実践
どうやら、ヤックルには回避タンクという役割ができるかもしれないらしい。
ヤックルも戦闘で活躍できそうで良かったね! めでたしめでたし――
「どういうことか詳しく説明してくれる?」
――とはならなかった。
どうやら千春が確認した時にはなかったコメントが追加されていたようで、俺がヤックルの性感帯をいじりまわしていたなどという、なんとも人聞きの悪い言葉が書きこまれていた。
「こ、これは違うんだ千春! 俺が触っていたのはあくまでアホ毛で――」
「そうです! 私がお金の代わりに身体で支払うって言ったんです! 蛍さんは悪くないです! 合意の上です!」
「ちょっと黙っとけよお前ぇえええええ!」
ボキバキと手の骨を鳴らす千春。
今からお前の骨もこんな音色を奏でるんだゾという予告だろうか。タスケテ。
「内容をまとめると、蛍は『見た目五歳児の女の子に対し、合意の上で女の子の性感帯を街の往来で弄り回していた』ということかしら?」
……言い回しに問題があるとしても、内容は合っているから救いようがない。
気が付けば俺とヤックルは正座をしていた。別に悪いことはしていないと思うんだけどね。
「この性犯罪者をどうしてくれようかしら」
「ま、待ってください千春さん! 蛍さんを責めないでください! たしかに男性に触られるのは恥ずかしかったですが、私としては気持ちよかっ――」
「黙れヤックル! お前が喋ると悪化する未来しか見えん!」
ゼーハーと息を吐きつつ、恐る恐る千春を見上げる。
彼女は腕組みをして、部屋に散らかるティッシュでも見るように俺を見下ろしていた。
いったいこれからどんな折檻が待っているんだろうか……五体満足で明日を迎えられたらいいなぁ。病院にはだれかお見舞いにきてくれるだろうか。
そう思っていると、千春は唐突に俺の右手を手に取る。ちぎられるのだろうか。
しかし俺の予想に反して、彼女はその場でゆっくりとしゃがむと、俺の手を自らの頭に乗せた。
「……え?」
「黙りなさい」
「へ? は、はい!」
反論どころか口を開くことさえ封じられてしまったので、一分ほど俺は彼女の頭に手を乗せたままになった。いったいこれが何の儀式なのかは、神と千春のみぞ知る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その後、三人でもう一度作戦を確認して、ファミレスで昼食をとったあと街の外にやってきた。
スマホでマップを見る限り街の周囲は平原で、奥に進むと森やら山やら湖やらがあるらしい。そして掲示板の情報によると、街の周囲にはレベル1~3の魔物しかいないようだった。
《森野蛍》
レベル:2
HP:150 MP:150
攻撃:25 防御:15 速さ:15
体力:15 魔力:15
固有スキル:限界突破
現在の俺のステータスは、ボスを倒したときにレベルが上がったので、僅かばかり上昇している。全ステータスが5ずつ上昇して、自由に使えるポイントが10ポイントあったので、それは全部攻撃にツッコんでおいた。他の項目はあまり必要性を感じないし。
千春もヤックルもまだレベル1だから、せめてレベルが一つ上がるまでは街の周囲でレベル上げをしたほうがいいかもな。
「よし、じゃあヤックルは避けるだけな。そのアホ毛で敵の注意を引くんだ」
「合点承知っ!」
言葉のチョイスが古いなぁ。
スライムに向かってシュタタタと全力疾走するヤックルを見送りつつ、俺は肩をすくめる。
スライムの目の前にやってきたヤックルは、スライムの周りをぐるぐるまわったり、ひょいと飛び越えたりしながら攻撃をかわしている。
「……邪魔ね」
「……邪魔だなぁ」
なんというか、思っていた役割と違った。これはマズい。
「ヤックル―! 敵の視線を一方向に誘導する感じで頼む! これじゃただ鬱陶しいだけだ!」
「鬱陶しいっ!? このキューティクルなアホ毛に向かって鬱陶しいと言いましたか!?」
「アホ毛には言ってねぇよ」
ひとまず、ヤックルは俺の指示通りの行動をしてくれた。
反復横跳びのような動きで敵の攻撃を避けつつ、注意を集めている。
俺はその隙に敵の背後に回って、前宙して踵落としをスライムにお見舞いした。
「おぉ、一撃だ」
スライムの上にある緑のHPバーが、一瞬で消える。
しかも、当たった瞬間に赤く輝いた気がするんだよな、なんだったんだろうかあれば。
「赤い光はクリティカルエフェクトっていうらしいわ。敵の不意を突いたり、弱点の場所を攻撃すると出やすいみたいね」
「? でも昨日のゴブリンの時は出なかったぞ?」
たしかに千春に言われた通りの場所を殴ったはずだが。
「確率もあるみたいだから」
ほほう、急所を攻撃しても確定じゃないのか。
このクリティカルが出現する確率も、特定のアイテムとかスキルで上がったりするのかもしれないな。
「というかさ、俺が攻撃して一撃で倒せなかった場合、敵の注意はヤックルじゃなくてこっちに向くよな?」
回避タンク、不意打ちの初撃しか意味ないのではないだろうか。
「この先敵の注意を引くアイテムもあるかもしれないし、今のところは不意打ちができるだけ儲けものじゃない?」
「まぁそうだなぁ。少なくとも、スライムを楽に一撃で倒せるのは良い」
「ですよね! 私、役に立ちましたよね! 捨てられませんよね!? まだちょっと悩んでるなら、お近づきにアホ毛触ってもいいですよ!?」
「気軽に性感帯を触らせようとすんな」
このちびっ子痴女め。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます