第3話 老い先短い地球の神



 しおりに街の地図が載ってあったので、それを頼りに俺と千春は第一公園へとやってきた。

 サッカーぐらいはできそうな広々したグラウンドのほか、隅のほうには滑り台等の一般的な遊具がある。


 しおりによると、ここはすでにダンジョンの中らしいんだけど……そうは見えないんだよなぁ。だって空が見えるし。


 公園に集まっていたのは、千人ぐらいの人々。がやがやと騒がしい。


 頭ひとつどころか身体の半分ぐらい飛び出している身長の人や、耳が横に細く伸びた人、猫耳や犬耳、尻尾が生えている人などもいた。


 俺たちの周囲にも人はいるのだけど、なぜか少し距離を取られているし、こそこそとこちらを見て何か喋っている様子。


 陰口は別に気にしないけど、なんでもう仲良さそうなんだ? あの人たち。


 メイテンちゃんは五千の世界から二人ずつと言っていたのに、どうみても一万人はいないし、なぜか四人や六人のグループが出来上がっている。


 異世界人、コミュニケーション能力バケモノぞろいか?


「ここは十ある会場の一つ。それと、私たち以外の人は一ヶ月前からこの場に呼び出されているらしいわよ。地球のモノに慣れるためですって」


 しおりに視線を落としたまま、千春が言う。

 俺の脳内の声でも聞いたかのような話しっぷりだ。


「へぇ、それでか」


「今回の主催が地球の神様らしいから」


 なるほどね。地球の中でも日本っぽいのは、神様が俺たちに配慮してくれたのだろう。

 異世界の街並みを見てみたかった気持ちもあるけど、まぁ慣れていた街並みのほうが安心するか。


「というか、なんで俺まで地球代表になっているんだろうな? 千春はともかくさ」


 臼井千春は弓の名手だ。


 弓道では全国大会を何度も優勝しているし、百年の一度の天才と言われているような人物である。

 天才というありきたりな言葉では言い表せない、鬼才といった感じ。


 それに千春の場合ただの優勝ではなく、いつも他の追随を許さない圧倒的な優勝だ。テレビに出ているのも何度か見たことがある。


「そう? 私は蛍が適任だと思うけど?」


「え? もしかしてデレ期ですか? 結婚する? 子供は何人がいい? 通わせる学校はどこにする?」


「タンスに小指ぶつけて死になさい」


 相変わらず千春はツンデレで素直じゃないなぁ。


 まぁそれはいいとして、俺は毎日親父にボコボコにされているだけの人間であり、少なくとも親父よりは地球代表にふさわしくないと言える。


 周りを見てみると近しい年齢の人ばかりっぽいから、もしかしたら年齢制限みたいなものがあるのかもしれないが。


 そんな風に千春とイチャイチャ?していると、人垣の向こう、遠く離れた場所でふわふわと老人が空に浮かび上がった。

 へぇ……魔法みたいなやつなのかな。


「皆さんがある程度静かになるまで、五分かかりました」


 ある程度でいいんだ。


 というか浮かんでるおじいちゃん、格好はギリシャ神話に出てきそうな神様っぽいけど、言っていることは校長のそれだ。


 校長(仮)の言葉は、なぜかすぐ傍で喋っているかのうように聞こえてくる。きっとこれも魔法の一種なんだろう。


「えー、皆さん、地球産の物はお楽しみいただけているでしょうか。今回は私が主催ということもあり、ふんだんに地球の物を取り入れた世界を構築しております。私のオススメは、アジの開きです」


 どうやら、あのおじいちゃんが地球の神様らしい。なんだかこう言っちゃ悪いが、どこにでもいそうなおじいちゃんだ。


「普通のじじいね」


「もう少し言葉を柔らかくしような千春。それに君は笑ったほうが可愛いよ」


「老い先短そうなご老人ね」


 表情は穏やかになり、言葉は柔らかい雰囲気だが内容はよりひどくなってしまった。もはや何も言うまい。


「各世界から選ばれた代表者たちよ、持てる才を存分に振るい、上位入賞を目指してください。しおりに書いてある通り、上位十名にはなんでも願いを叶えてあげましょう。十位以下にも賞品はありますし、たとえ最下位でも参加賞がありますので、どうぞ最後まで頑張ってください」


 町内のボーリング大会かなってぐらいの緩さだ。

 これって各世界の代表者たちの集いなんだよな? もっとバトルロワイヤルとかそういうシリアスな雰囲気になったりしないんだろうか?


「本日九時より、街の東西南北にある門が開放されます。この第一エリアに散らばる四つの宝玉を集めると、第二エリアに転移が可能となります。他のワールドに負けぬよう、みなさん頑張ってください」


 町内の大会というより小学校の運動会みたいな雰囲気に思えてきたな。


 校長(仮)は、そんな風に挨拶を締めると、パッと光の粒となって消える。


 ざわざわと騒ぎ出す人々に紛れ、俺も千春に声を掛けようとしたところ、なぜか彼女はふふんと勝ち誇った表情で俺のことを見ていた。


「ほらね、老い先短かったでしょう?」


「いや死んでないだろ」


 平常運転すぎる千春に、俺は深いため息を吐くのだった。

 

 

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