赤ちゃんポスト
@chromosome
第1話 匿名出産
赤ちゃんポストで有名なあの病院が、また新たな対策を講じ始めたようだ。ようだというのは、テレビで、そのニュースを知ったからで、具体的に中身がどうだとは知らないからだ。
それにしても、赤ちゃんポストでも、そういうことで困っている女には、朗報なのに、今度は、匿名で出産することができるらしい。出産は、人をこの世に送り出すことだから、自分からは出産届を出さないなどということができるとは思ってもみなかった。
赤ん坊を産んで、一週間もしたら何もせず、退院できる病院があるというのは心強い。子供の数が減少し続けてることを憂慮した特定の病院が、国に先んじて対策を講じていると言ったら、言いすぎかな。
厚生省は、なぜピルを解禁しないのだろう。まあ、産婦人科に行けば、ピルは簡単に入手できるから、実質解禁されているとは言えるのだが。
思い出すのは、五年前のことだ。同級生のあいつが、車で、あそこまで送ってくれた。送るのは当たり前だ。この子の父親なんだから。夜間、人目につかないようにして、あいつが先になり、その後を私が赤ん坊を抱えて病院に近づいた。JK病院というのが、そこの名前だ。
そこの入り口は、狭く誰にも見えないように塀で囲まれていた。預け口の扉には、二羽のこうのとりが、眠っている赤ん坊のゆりかごをくわえている絵が描かれている。
私の赤ちゃんも、このゆりかごで遠くへ運ばれるのかな。赤ちゃんポストというから、なんか赤く塗られたポストの大きいものがあって、差し出し口から赤ん坊を入れるもんだと思っていた。宛先は、天国かな、でもそれは死ぬことだ。切手を赤ん坊の額にでも貼っておこうかなんてふざけてみたりする。
こうのとりと言ったって、本当の所は、誰かが、自分の子として育ててくれることはわかっている。それが、この子のためであることも分かっている。育てられないし、他に捨てれば、誰かが見つけてくれるとは限らない。それで死んだら、殺人だ。そこまではしたくない。だから、こうするのが一番いいんだ。
その扉には、「手紙を取ると扉のロックが解除され、扉を横に開くことができます」と書かれていた。そこに置いてあった手紙を詳しく読んでいる時間の余裕はなかったが、もう一度考えてくださいと書いてあるようだ。自分だって、こんなことはしたくない。でも、こうするより仕方がない。仕方がないって言葉は、便利だよね。そういえば、何でも許されるとか。
私は、扉を開けて、赤ん坊を毛布の上にそっと置いた。幸い眠っている。赤ん坊の顔をもう一度見つめて静かに扉を閉めた。
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