01-05「現状の確認と立場」
放課後、化学部の部室へ連れてこられた
「最初に聞いておきたいんだけど、君達は一体何者なの?」
良祐が今最も知りたかった疑問はコレである。昨日のような非常識、本来なら夢や幻、あるいは妄想という形で片付けられてしまうような、そんな科学の発展したこの平成の時代では通用しないような非科学的なオカルト。しかし、それがさも当たり前のように話すこの集団に対し、恐怖とまではいかないまでも、何か不安を感じるのは仕方のないこと。
彼の質問に答えたのは、説明を押し付けられた翡翠であった。
「わっちらはね、【
「みょ、みょうがし……?
想像して微妙な気分になる。
「あはは、違う違う」
良祐が考えていることを察しているのか、笑いながら彼女は前に出て黒板の
「【
「【
「大丈夫、順番に説明するよ。えっとね、冥加って言うのは、神や仏の
「だから”
「そう。でも、
そこで「だけど……」と言葉を
「
申し訳なさそうに頭を下げるが、すぐに切り替えてたのか頭を上げる。
「話を戻すけど、代々神に
「え、じゃあどうするの?」
「一般の人達からも信仰を得るんやよ。神社やお寺を参拝してもらって、手を合わせる。あるいは、普段から神や仏に感謝をして生活するとかやね。でも、今の科学技術が発展した時代では、純粋に神仏を信じる人は残念だけど減っている。佐藤君だってそうでしょ?」
確かに昨日の出来事がなければ、良祐が神や仏といったことはオカルトと一まとめにして信じることはなかっただろう。元々否定していたわけではないが、どちらかと言えば存在して欲しいだとか、存在していたら面白いだろうという、エンターテインメントとしての視点で見ていたことは否定出来ない。
それに、本当にいると信じていたとしても、神や仏に思うのは自らの願望であることが多いのは確かで、実際に自身もテストの前には良い点数が得られるよう神頼みをすることはある。
しかし、そういった願望ではなく決意や感謝を常日頃から胸に
「人々の信仰のおかげで、わっち達【
「宣伝とかはしないの?」
「昭和の頃とかはやっていたみたいやけどね。でも平成になってからは、宗教に関するトラブルって世間の目が厳しいからね。それに、特定の宗教に入信するんじゃなくて、ただ純粋に存在を信じた上で日頃の感謝などを天に向かってして欲しいというだけやから、あんまり響かないんやよね」
「まぁ確かに」
宗教への知識も興味もないが、願えば叶うことを
信仰心が重要なのは分かった。では、最初に言っていた正統な血統とは何だろうか。その疑問をぶつけると、翡翠は「それなら簡単やよ」と答えた。
「神仏に仕える職業を先祖に持つ人とかが例えばわっち達に
「【
「そうやね。冥加の範囲って結構広くてね、神だけじゃなくて仏の加護も含まれているんやよ。何て言うか、信仰ある所に
「武家……武士もってこと?」
武士と言えば戦いで刀を振り回して敵を斬るイメージしかない中学生の少年からすると、武士が神仏の加護を得るというのはいまいちピンと来ない様子である。それに対して翡翠は笑いながら否定する。
「武士って結構信心深いんやよ。
「そうなんだ。例えばどんな人?」
「うーん……有名所だとやっぱり、貴族の
「
「吸血鬼から神託受けたら駄目なんやないの?」
途中
良祐はとりあえずスルーすることにして、神仏の違いについて聞くことにする。
「違いとかあるの?」
「正直よく分かんない。どういった経緯で加護が宿るとかも
「【
「まぁそうやね。まぁ、ただそれだけでは駄目で、一応、
「少子化だからな……ちなみに俺ら高屋家はその量の方だ。数だけなら芝原家と戸田家を足しても勝てるぞ。質で大きく
「俺んとこもその高屋家の
説明は翡翠に丸投げしていたはずの
「安定した強さなら、芝原家現当主の芝原さんとウチの本家の次期当主の
「まぁそうかもな。まぁ
まだ聞きたいことが多くあるが、優先して聞いておかなければならないことを良祐は質問する。
「それじゃあ、【
「わっち達【
「それって元は人ってこと?」
「そうとも限らないかな。そりゃ人間の魂、
「害って、災害とかのこと?」
「まぁ大きな物ではそういう感じかな。と言っても実際は小さな
「例えば?」
「一七三一年、四月一二日」
聞き覚えのない年月日に、首を
「えぇと……?」
「『円鏡寺』の
「はい、確かにそうです。『円鏡寺』の
翡翠の話に光久が
「でも、芝原さんってこの中では一番強いって言われているんでしょ? そんな人でも倒せないくらい強かったあの、【
「あぁそれはね、佐藤君気付いていないかな? あの時、わっちやあの
「え?」
そう言われてみて思い出そうと考えるが、当時は翡翠の戦闘の様子に目が釘付けで、そこまで周りを見ることが出来ていなかったように感じる。
(そういえば……)
彼女がドラッグストアの壁に叩き付けられたあの時、確かに壁には傷一つなかったように思える。
「まぁ細かい物とかは飛んでたと思うけど、重要な部分、土地とその土地に固定されている物体、この場合は建物とかやね。あれはちょっとした
それを聞いて、良祐は昨日のことを思い出して一つの考えが浮かんだ。
「並行世界ってこと?」
「うーん、似ているようで違うかな。わっちらはこちらを【
【彼世】とは本来は死後の世界という意味もあるが、翡翠達【
「発生日は毎日。特に決まった時間はないんやけど、
「確かに、怖い目に
その言葉に同意した彼女は話を続ける。
「そうやって毎日逢魔時に【現世】と【彼世】が繋がった時、【現世】の世界を【彼世】に写し取ることから、【
そこまで一気に話した翡翠は一呼吸置く。
「とにかく、本来なら
ちょっと蝋燭を倒す程度、そんな小さな干渉なんてと思っていたら、意外と大変なことになっていることを教えられる。
「君達は、それを阻止するために活動している?」
「そう。元々この北方の地は特に狙われやすいからね。狭い町なのに神社も寺も密集して建っていたり、わっちら芝原を初めとした三家があったりするのも、全部この土地を守護するためなんやよ」
「え? 狙われやすいって……どうして?」
「それもちょっと分かっていないんやよ。昔の天皇家は奈良や京都を拠点していて、そこから鬼門の位置にある位置に、北方町があるからって云われているけど、本当かどうかは分かんない。鬼門の方角ってだけだったらもっと色々あるのに、何故か北方町に【
「そうなんだ……」
「もうしかしたら
「いや、あそこはもう歴史的なものはもうほとんど残されていない。元々条里家こそが最大派閥だったのに、今じゃぽっと出の俺ら高屋家の傘下で細々と活動している程度に弱体化しちまった」
「やよねぇ、そう都合良くないか」
条里とは北方町の南部、高屋地区の中にある高屋条里という地区のことである。そこを治めているのが条里家とのことだが、良祐にとってはちんぷんかんぷんな会話である。そもそも北方町では小学校は三校に分かれているため、他校の事情に詳しくないことはさほど珍しくない。
狭い町であるが、小学校が別々であり中学校に進学して初対面という人が多くいるのが当たり前なのだ。
「あ、そうだ。佐藤君に聞いておきたかったことがあったんやよ」
話題を変えるためか素で忘れていたのか、いずれにせよ何かを思いだしたという表情を翡翠は浮かべる。
「昨日のは、たまたま巻き込まれただけの一般人だったのなら、この部活の本当の役割は明かさないつもりだったんやけど……どうも気になってね。あの時、
「ごめん、やっぱり分からないや?」
「そっかぁ。でも、あなたには多分だけど何かあると思うの。昨日のだって外部からの干渉という感覚じゃなく、あくまであなたの中から感じられたし」
「そう言われても俺には何とも……」
「まぁいいや。今はそれで良いよ」
「今は?」
「ね? 部長?」
「いや、俺に振るんじゃねぇ」
そう文句を言いつつも、溜め息混じりにだがしっかりと良祐を
「正直俺は昨日何があったのかなども含めて、全てが
そこで一度切って、周りを見渡す。それぞれ表情や姿勢は様々であるが、無視して良い案件ではないと
「その、芝原が感じた何かをお前が持っていて、もし、昨日の【
「はいはーい」
「はい」
呼ばれた二人が立ち上がる。
「護衛を頼む。少なくとも昨日の【
「それを決めるのは、分家の僕じゃなく本家なんですけど……まぁ、そうですね。はい、多分大丈夫です。千歳さんだけじゃなく、芝原当主
「俺の所には回さなくて良いぞ。まぁ全く知らぬ存ぜぬという訳にはいかないだろうから、高屋当主の方に回してくれ。必要があれば俺の所に降りてくるだろう。それまでは関わりたくない」
「あはは、分かりました」
「ということだ白木、池之頭。こっちは
「うぃーっす」
「
「その場のノリと勢いだけで適当な言葉並べんな。お前分かっていないだろ」
「否! 我はっ」
「あぁもういい」
そう言って話を強制終了させられたアリサは「聞くヨロシ!」と抗議の声を上げるが、誰も同調する人がおらず、ションボリと席に座り込んだ。しかし「いずれ
「よし、今日の所はここまで。解散。早く帰れよ?」
部長の締めの言葉によって部活動は終わりを告げ、各々帰り支度をする中、発した本人である伸介は
「それじゃあ、わっちらも帰ろうか」
「しっかりと護衛、
「あ、はい。よろしくお願いします」
部長の後ろ姿を呆れた様子で眺めていた良祐に、翡翠と友希道が話し掛けてきた。また襲われるかもしれないという不安を抱えつつも、今後も自身の運命を左右するであろう少女二人に、頭を下げる彼であった。
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