火の閻魔

1話

「時子~、何処へ行った、時子~」

 葉月達は新しい街に辿り着くと、女性の名を叫んでいる男性がいた。

「どうしたんだろう?」

「あの男性、何か嫌なものを感じるわね」

 モモちゃんが霊感センサーを働かせて言った。

「嫌なもの?」

「とりあえず話を聞いてみましょう」

 葉月達は男性を落ち着かせて、近くの公園のベンチに座らせて話を聞いた。

 男性の話は、こうだった。


 男性の名前は光央といって普通の会社員として働いていた。

 ある日、職場に時子という女性が新しく入社してきた。

 光央は時子の教育係となり、交流を深めていった。

 二人が親密な仲になるのは、そう時はかからなかった。

 二人は恋人同士のような関係になり、逢瀬を重ねた。

 光央は時子のために金を使った。借金までして時子の気を引いた。

 時子は仕事を辞め、光央の家に入り浸るようになった。

 二人は結婚間近かと思われた時、ある日突然、時子が「探さないで下さい」という置手紙を残して消えた。消息は今も不明である。


「それで、その時子さんを探してるという訳ね」

「そうなんです! 何か知りませんか?」

「何かと言われても、その時子の顔も知らねえしなあ」

 ノインがそう言うと光央はスマホの待ち受け画面を見せてきた。

「こちらが時子です」

「綺麗な人だなあ」

「でも、まあ知らない人だな」

「ねえ、時子さん探すの手伝ってあげようよ!」

「いいわよ。お尋ね人を探すには呪文の書を使いましょう」

 葉月はエンジェルフォンから呪文の書を出して命じた。

「我の求める者の元へ導け。神の名の元に我は命ず」

 葉月が呪文を唱えると光の矢印が出て、時子がいる場所に向かっていく。

 矢印を追いかけていくと、アパートに辿り着いた。

 葉月は矢印が止まった部屋のインターホンを鳴らす。

「はい、どなたですか?」

「時子!」

「み、光央さん⁉」

 時子はドアを閉めようとするが、光央が靴の先を差し入れ、葉月達も手伝ってドアを開けさせる。

 観念した時子は光央達を自室に招き入れる。

「何で俺の前から姿を消したんだ、時子!」

「私は火の閻魔なのです」

「火の閻魔?」

「魅入った男の心を迷わせて身を滅ぼし、家を失わせ、最後には命を奪う妖怪よ」

「時子、お前、妖怪だったのか……」

 光央は驚きの表情を隠さない。

「私の特性上、これ以上、一緒にいると光央さんを破滅させてしまいます」

「だから離れたんだな」

「ええ」

「時子が妖怪でも、魅入られてもいい! 僕は君を死ぬほど愛してるんだ!」

「光央さん……」

 光央の思いに心打たれた葉月はモモちゃんに問う。

「何とかならないかな?」

「人間になれる薬があるわ」

「そんなのあるのか、すげえな」

「ただし高いわよ」

「時子と一緒にいられるなら、いくらでも出す!」

「その薬が売っているのは、あやかし横丁にある『あやかし道具屋 黒蜥蜴』って場所よ。デリバリーもしてるから頼んでみるわ」

「よろしく頼む」

「その前に、お金ね。薬1瓶で大体1か月分。20万円ってところね」

「に、20万……。給料と同じくらいか……」

「どうする? 止める?」

「いや、俺はそれでも時子と一緒にいたい! 20万が何だ! 俺がもっと稼げばいい話だ!」

「光央さん、そんな私のために……」

「心配しなくていいぞ、時子。金は必ず用意する」

「微力ながら私も働きます!」

「これでお金の件はクリアね。それで、あやかし横丁には、そこ専用の通貨があるのだけど、両替は私の方でするわね」

「分かった」

「まずは20万用意してくれる?」

「ああ」

 光央は銀行に行って、20万を下ろしてきた。

「じゃあ、両替をして、商品のデリバリーを頼むわね」

 モモちゃんはエンジェルフォンを操作して、両替をし、デリバリーを頼んだ。


 1時間後。

「こんばんは! あやかし道具屋 黒蜥蜴、配達員の梅村まゆりです!」

 時子の家のインターホン越しから元気な声が聞こえた。

「来たわね。はい、ありがとう」

 モモちゃんが受け取りのハンコを押して荷物を受け取った。

「これ代金の20万」

 光央は、まゆりに代金を渡す。

「はい、ありがとうございます! 店主からの注意事項なんですが、強い薬なので絶対に1日1粒までを守ってください、とのことです」

「はい、分かりました」

 時子が返事をする。

「では、お邪魔しました~」

 

 まゆりが帰った後、一同はテーブルの上の薬瓶を見詰めていた。

「これが人間になれる薬……」

「とりあえず飲んでみましょうか」

「はい」

 時子は水と一緒に薬を1粒飲み込む。

「何か変わった?」

 見た目的には何も変化はない。

「私の火の閻魔の力がなくなったように感じます」

「そうね。妖気がなくなってる」

「これは人間になれたということで良かったのでしょうか」

「ええ、問題ないと思うわ」


 モモちゃんは「あやかし道具屋 黒蜥蜴」の連絡先を二人に教えた。

「これからは自分達で薬を頼んでね」

「お二人の人生に幸あれ!」

「はい、ありがとうございました!」

「本当に、ありがとう!」

 

 葉月一行は、この街を後にしたのだった。


 

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