第61話 母親の登場
天川の家に行くのは今日が二回目。
始めて家に呼ばれた時よりも緊張はしていないが、今日は初めて家に呼ばれた時とはわけが違う。
あの時は焼き鳥屋に行くという目的があって、焼き鳥屋が臨時休業だったせいでハプニング的に天川の家にお邪魔しただけだ。
しかし、今回は最初から天川の家に行くことを目的としている。
ハプニング的に天川の家にお邪魔するのと、天川から誘われて天川の家に行くのとでは意味が全く違う。
わざわざ俺を自分の家に誘ってきたということは、家でしかできない用事があるのだろうか。
いや、でも大抵のことは自宅じゃなくてもできると思うんだが……。
もうすぐ天川の家に到着しそうだったので、俺は今日の目的について探って見ることにした。
「今日は天川の家で何かするのか?」
「……え?」
「……え?」
俺を家に誘うからには何かしら用があると思っていたのだが、どうやら天川は特に何かをしようと思っていたわけではないらしい。
何をするつもりなのか俺に訊かれてから右腕を顎に持っていき、なんと答えようかを考え始めている。
まさか本当に用事はなかったのか?
俺が実践した『距離をとる』という方法の効果が大きくて、後先考えずにとにかく声をかけてきただけだとでもいうのか?
え、てかそれ天川の家行ったら何するの?
ただしゃべるだけなら普通に喫茶店とかファミレスで全然問題なかったんじゃないか?
家でしかできないことなんて……。
ダメだぞ俺、変な妄想をするな。
「あっ、いや、その……」
「そ、そうだ。今日もお母さんはいないのか?」
俺は気まずくなってしまった雰囲気を変えようと、質問をした。
「今日は家にいると思うよ」
「そっか。この前いなかったから今日もいないのかと思ってた--っているの⁉︎」
天川のお母さんは男遊びで家を空けることが多く、ほとんど家に帰ってきていないと思っていたのだが、今日は家にいるのだという。
なんで俺が家に誘われた時に限って母親が自宅にいるっていうんだよ……。
--いや、まさかこれ母親がいる日を狙って俺を呼んだんじゃないか⁉︎
そして体育倉庫でキスされたことについて母親に
俺を怒ってもらおうと思ってるんじゃないか⁉︎
それなら今からでも何か理由をつけて断らなければ……。
「あっ、うん。そうなの。ごめん、気まずいよね? とりあえず私の部屋に入ってもらったらもう関わることはないと思うから安心してほしいんだけど」
「あっ、天川ごめんっ。ちょっと俺急用を思い出して--」
「あら、真白じゃないおかえり」
天川の家に到着する直前でまさかの母親登場。
俺は逃げる前に完全に逃げ場を失ってしまった。
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