第26話 友達の恋愛事情1

「颯一と天川が2人で焼き鳥屋に行ったのか?」

「あっ、え、えっと、いや、その……。はい。そうです」

「……なんだよそれ! めっちゃ面白ぇじゃねぇか!」

「……え?」


 俺がばあちゃんの病院にいくため急に帰宅した後、三折も急に帰宅してしまったようで、それから颯一は天川と2人きりで焼き鳥屋に行ったらしい。


 その話を聞いた俺は、自分が天川を狙っていることなんて忘れて、ただ素直に颯一が天川と2人で焼き鳥屋に行ったことを喜んでしまっていた。


 なんてったってあの颯一だぞ? 女の子には全く興味が無いで有名(俺の中だけ)な颯一が、天川と2人で焼き鳥屋に行ったなんて話を聞いたら喜ばないわけにはいかないだろう。


 というのも、俺は今まで幾度となく颯一に、『早く女の子と付き合えよ』と勧めているのだが、颯一は俺の話に聞く耳を持たなかったのだ。


 頑なに聞く耳を持とうとしなかったので、もう諦めようかと思っていた矢先、ついに颯一が女の子と関わりを持ち出したのだから飛び跳ねて喜ぶしかない。


 女たらしの俺が、しかも自分が狙っている女の子と同じ女の子のことが好きになった颯一の恋愛をなぜ応援するのかという疑問を持つ人もいるかもしれないが、俺は颯一に恩返しをしたいと思っている。


 颯一は俺がこれまでの人生で出会ってきた人間の中で、一番いい奴だ。


 そんなことする必要もないのに俺と女の子の間に入って緩衝材になってくれたり、俺が女たらしであるという噂が広まらないよう根回ししてくれたりと、女たらしである俺が平穏な毎日を送ることができているのは、間違いなく颯一のおかげである。


 だからこそ、俺は颯一に幸せな生活を送ってほしくて、彼女を作るよう勧めていた。


 それなのに、颯一はやたらと自己評価が低く、自分に自信がないせいで女の子と付き合おうとしてくれない。


 女の子と付き合うどころか、友達すらできていない状況だ。


 俺とは偶然入学した時に隣の席で仲が良くなったものの、もし俺がいなかったら颯一の高校生活はどうなっていたことか……。


 いやまあそれは逆も然りなんだけど。

 もし颯一がいなかったら今頃女の子に恨まれまくってるだろうな俺。


 とにかく、俺はそんな颯一に自信をつけてもらい、女の子と付き合ってこれからの人生を明るいものにしてほしいと、そう思っていたのだ。


 そんな俺からしてみれば、颯一が天川と2人で焼き鳥屋に行ったという事実は、我が子が初めて歩いた時と同じ喜びなのである。


 何はともあれ、まずは本当に良かったぜ……。颯一もちゃんと女の子に興味があったみたいで。


 そのうち、『実は男の方が好きなんだ』なんて切り出されるような気さえしてたくらいだからな。


 とはいえ、このまま黙って天川を譲ってやる気はない。


 俺に勝って天川と付き合うことができれば、颯一は自分に自信を持つことができるだろう。


 こうして俺と颯一の、天川をめぐる恋愛バトルがスタートした。

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