第7話 癒やしのハグ
「はい、立川くんのお弁当です」
「ありがとう」
弁当の受け渡しを行っている中、目の前に座る晴斗と千夏は俺達のやり取りをじっーと見ていた。
「晴斗、あの2人、知らない間に付き合い始めたの?」
「さぁ~本人達は友達って言ってるけど……」
お昼休み。3人で中庭で食べようとしていると作ったお弁当を持ってきてくれた七瀬も一緒に食べることになった。
「弘輝だけズルいよ。聖女様と知らない間に仲良くなって、お弁当まで作ってもらって」
千夏はそう言って昼食を食べ終えた七瀬の隣に座る。
「ズルいと言われてもな……」
「初めまして、杉本千夏です! 気軽に千夏でいいよ」
「は、はい……千夏さん。私も下の名前で呼んでくれると嬉しいです」
「じゃあ、これからはことりんって呼ぼうかな」
「ことりん……可愛らしいあだ名、ありがとうございます。是非そう呼んでください」
千夏が勝手にあだ名を付けて怒るかと心配になったが、寧ろあだ名を付けられて彼女は嬉しそうだった。
「弘輝もこれからは七瀬じゃなくてことりんだからね?」
「いや、俺は七瀬って呼ぶから」
女子同士ならそういうあだ名で呼びあったりしてもいいかもしれないが、男があだ名で呼ぶのはなんかな……。
千夏は七瀬に何かコソッと耳打ちし、そして七瀬は俺の近くに来てうるっとした目で見てきた。
「い、一度だけ呼んでみてください……」
(これは反則だろ……)
少し恥ずかしがっているところとか、完璧な上目遣いを見て、無理とは言いにくい。
「いっ、1回だけだからな?」
「は、はい……」
彼女は俺と向かい合わせになるようし、じっと見つめて俺が言うのを待っていた。
「ことりん」
そう千夏が付けたあだ名で呼ぶと彼女の表情がパァーと明るくなった。
「あ、ありがとうございます。千夏さん、呼んでもらえましたよ」
千夏に何やら小さな声でコソッと報告していた。すると、千夏はお母さんのように彼女の頭を優しく撫でていた。
「良かったねぇ~」
さすが千夏。もう七瀬と仲良くなっている。
七瀬と千夏の仲の良さを見ていると隣で晴斗が話しかけてきた。
「どうだ、聖女様の弁当は美味しかったか?」
「美味しかった。一生食べられる味だったよ」
「おぉ、そんなにか。まぁ、確かに見た感じ美味しそうだったもんな。美味しかったってちゃんと七瀬さんに伝えろよ」
「うん、伝えるよ」
弁当を片付け中庭から教室へ戻ろうとしたタイミングで俺は七瀬にお礼を言うことにした。
「七瀬」
教室が別々なので言うなら今しかない。彼女の名前を呼ぶと七瀬は足を止め、後ろを振り返った。
「どうかしましたか?」
「弁当美味しかった」
「美味しかったのなら良かったです。また明日も作ってきますね」
「うん、ありがとう。楽しみにしてる」
4組の教室に着き、七瀬とはここで別れることになる。手を振り、自分の教室へと帰ろうとしたその時、後ろからぎゅっと服の袖を掴まれた。
「あ、あの……」
「七瀬……?」
振り返るとそこには手を振って別れたはずの七瀬がいた。
「……今日は一緒に帰れますか?」
「今日は、バイトがあって……途中までなら帰れるよ」
「バイトですか? そう言えば昨日も言ってましたけどどんなバイトをされているのですか?」
「カフェのバイトだよ」
「そうなのですね。では、途中まで一緒に帰ってもいいですか?」
「うん、いいよ。じゃ、また放課後に」
手を振ると彼女は笑顔で振り返してくれて俺は彼女と別れて教室へ帰った。
***
「誰かと思ったら聖女様じゃない!」
バイト先のカフェへ行くと一緒に働いている高校2年の
「せ、生徒会長さん……?」
「そうよ、七瀬さん。有名人だから私、一度あなたに会いたかったの」
なこさんは生徒会長だ。そのため七瀬は初対面の先輩のことを知っていた。
「なこさん、お客様が困ってます。店長に見つかったら何やってんだとまた怒られますよ」
「あら、こうくん。今日はバイトの日だったのね。荷物を置いてきたらどうかしら? 七瀬さんの接客は私に任せて」
大丈夫かな……なこさん、フレンドリーでたまに距離感バグってるし、七瀬に困ることしなければいいんだけど……。
「前にも言いましたが、こうくん呼びはやめてください。では、お願いします。七瀬、またな」
「はい、頑張ってください」
数時間後、気付いた頃にはもう外は暗く、同じタイミングで終えたなこさんと途中まで一緒に帰ることにした。
「いや~、まさか七瀬さんとこう……弘輝くんが付き合ってるとは知らなかったよ。何でお姉さんに言わなかったの?」
お姉さんと彼女は言うが、彼女とは親戚で親しい仲なだけで本当の姉ではない。彼女が勝手にお姉さんと言っているだけだ。
「俺、付き合ってるなんて一言も言ってませんけど」
「じゃあ、付き合う予定?」
「それもないです。七瀬とは友達ですし。なこさんは、どうなんです?」
そう問いかけると彼女はいつもの落ち着いた雰囲気と一変して、顔を赤くして慌てた様子でいた。
「ど、どうって?」
なこさんがたまに恋愛相談をしてくるので彼女が誰を好きでいるかは知っている。上手くいっているか気になっていたが、この反応だと上手くいっているようだ。
「
「さ、誘えたよ……弘輝くんのアドバイスのお陰で。ありがとね」
「俺はなにもしてませんよ。けど、良かったです。では、お疲れさまでした」
「うん、お疲れ~。癒やしのハグしとく?」
「いえ、結構です」
人がいるというのにこんなところで抱きしめられるのは恥ずかしすぎる。そして東先輩に見られたらどうするんだ。
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