第33話 いつも通り……なわけねぇだろ(水原蒼視点)
朝のちょっとした時間にカフェの手伝いをして、常連さんといつもみたく楽しい雑談をかわしてから学校へ行く。
今日は朝練の日だろうから志津香はやって来ず、途中まで紗奈と一緒に登校。
途中、中学と高校の分かれ道にて妹と分かれ、ひとり高校を目指す。
いつもの学校。いつもの教室。いつもの朝。
──んなわねええええ!
なんか、爽やかな朝を演出したけど! したけども!? 無理無理無理! 無理だっての!
俺、昨日、なにした!? ええ!? なにした!? 言ってみろ!
チューだよ! クソボケがっ!
なんで、唐突にチューしたよ!
つか、俺って接吻のことチューって言う派なんだね。自分でもびっくりだわ。
とか、くっそどうでも良い現実逃避はやめて、現実を受け止めろ。
いきなりキスとか、まじで、俺はなにをやってんだ……。
いや、あれは志津香がやってみろみたいなノリで……。
怒ってることに対して、わからなかったから聞き出そうとしたというか。
でも、いくら幼馴染だからって、いきなりキスってはどうなんだ?
俺が完全にデレてるというか……。好き全開なのバレバレでは?
この場合、そんなことを言っている場合でもないような……。
ま、ま、まぁね、一旦クールで誤魔化したのは誤魔化したよ。
通用してるかどうから微妙なラインだけど。
「ぬんあああぁぁぁあ……」
「ちょっと。朝からなんちゅう声出してんのよ」
自分の席にて、この世の終わりと言わんばかりに頭を抱えて項垂れていると、隣の席から呆れた声が聞こえてくる。
「あ、昨日、なんか良くわからん行動した隣の席の成戸さん」
「悪かったわね! うん! 悪かったわよ! こっちもよくわからん行動だってことはわかってるわよ!」
「なんだ。それなら良かった。自分が異端児だということに気がついて」
「そこまでは言ってないわよ!」
なんかこの子、朝からテンション高いな。
絡む前は男に人気のあるモテる女の子って感じだったけど、隣の席になってから本性が出たって感じか。
もともとこんな感じだったってこったな。
「というか、あんたはなんで私に惚れないのよ!」
ビシッとこちらに指を突きつけて言ってきやがる。
「はい?」
しかし、内容の意味がわからなかった。
「私の膝の上に乗って惚れなかった男はいないの。それなのに、なんであんたは私に惚れてないか聞いてるのよ」
「いや、異端児の膝の上に乗ったからって惚れるわけないだろう」
「こんな美少女の膝の上なのよ!?」
「あ、異端児なの認めた」
「きいい! 言葉の揚げ足を取るんじゃないわよ!」
「きいい。って悔しがる人初めて見たわ」
「こんの、クール系イケメンめ……」
「ども、クール系イケメンです」
「あー! 褒めちゃった! 褒めちゃったじゃない! ばか!」
「この子はバカの子かな?」
「なんだか、私があんたを好きみたいじゃない!」
「え? 俺のこと好きなの? ごめんなさい」
「なんでフラれた感じ出した!? 違うわよ! あんたが私を好きなの!」
「いや、微塵も好きじゃないぞ」
「うるさーい! これから好きになるんだから! 覚悟しなさいよ!」
「いやだ」
「いやだじゃなああい!」
朝からテンションたけぇ……。
この子はなんでこんなにもテンションが高いのだろうか。
こちとら、自分の席で昨日の懺悔をしたいだけだというのに。
とか、なんとか思っていると、志津香が登校して来た。
なんかガッツリと目が合って、こちらにドスドスと怒ったような歩き方でやって来る。
かと思ったら、急旋回。
急激に弧を描いてこちらの席に来ることはなく、自分の席へと向かった。
なんだ……? もしかして、避けられてる?
そりゃいきなりキスしたら、避けもするか……。
なんだか悲しくなって、俺は立ち上がり志津香の席へと向かった。
なにを喋るのか自分でもわからないが、このままじゃダメな気がする。
席に着くと、イケメンの横溝と一言、二言やり取りをしている間に入る。
少しばかり気まずい空気が流れたが、ちょっと強気に言葉を発した。
「志津香。お前の機嫌の悪い理由、聞いてないんだけど」
あ、うん。なんで昨日の話題をぶり返す言葉を発したかのは自分でもわからん。
思春期の失敗として、この先の未来、ふと思い出して悶えることだろう。
志津香は珍しく目をまん丸にすると、プルプルと震えて立ち上がる。
「うるせえ! この男版の天然ジゴロ!」
「くっくっくっ」
志津香の言葉に横溝が怪しく笑う。
「陸奥さん。ジゴロはそもそも男のことを差すから、男版はいらないよ」
「うるせぇわ! なんちゃってイケメンがっ!」
「あー、確かになんちゃってイケメンだな。横溝」
「なっ!? んだと……。異性、同性からもイケメンと名高い僕が、なんちゃって、イケメンだって?」
「そりゃ、なぁ」
「うん」
志津香と顔を合わせて頷くと横溝が、「ばかなあああ!」と教室を出て行った。
それを生温かい目で見送ると、互いに我に返った俺たちは、顔を慌てて逸らす。
「このアバズレがあ!」
志津香が恥ずかしそうに言い残して横溝の後を追った。
「志津香……アバズレは女に使う言葉だぞ」
なんか、とりあえず言葉の間違いを正すことしか俺にはできなかった。
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