第9話 朝の貴重な時間(水原蒼視点)
住宅街にある俺の自宅兼カフェから学校までは徒歩数十分。
学校側が指定する自転車通学区域にギリギリ入っていないため、徒歩通学になってしまった。
まぁ、数十分くらい歩いてやるという気持ちなので、そこまで問題視してはいない。
駐輪場の数とかあるだろうし、本当に自転車で来ないといけない人のためだと思ば、ちょっとした慈善活動って感じだ。
歩き慣れた住宅街を抜けると、河川敷へ繋がる階段を上がって行く。
別に河川敷を通らなくても着くのだが、自転車だったら通ることのできない通学ルートだ。せっかく徒歩だけでしか使わない道ってことで、河川敷を通学ルートとしている。
ここの河川敷は全国的にも結構有名で、春になると見事な桜のトンネルができる。それを見に観光客も来たりして春先は盛り上がっている。今年も盛り上がっていたが、季節はすっかり6月。
桜並木道の桜達は葉をすっかり緑色に染めてしまい、ピンク色の花びらは一枚も見れない。
また来年には綺麗なピンクの花びらを咲かせてくれるだろう。
その桜並木道を通る志津香がまた凄く神秘的なんだ。
舞い散る桜の花びらの中、髪をかき分けて歩く志津香の姿は、そりゃ芸術的である。
息を呑むなんて言葉は彼女を見た時に使うのだろうね。
その楽しみもまた来年というわけだ。
河川敷を歩いて行って、途中の階段で降りて行く。
階段を降りるとすぐに国道へと出て、河川敷の風景を忘れるくらいに近代的になる。
朝の通勤ラッシュの車やバイクが走る音。マウンテンバイクやママチャリが走る音。俺達と同じような制服を着た学生がそこら辺に見えてくる。
国道の街路樹を進んでいくと、俺達の最寄駅と、駅に隣接したショッピングモールが現れる。
バスロータリーには行列。駅の改札の方へは早足の人が見られる。
そんな人達の流れに乗らずに、逆らうようにショッピングモール横にやって来る。
そこに俺達が通う
通称、デレ高。
略し方の由来はわからないが、デレ高と呼びなれているので、由来なんて気にしたこともなかったな。
学校までの通学時間は、志津香と他愛もない話しをしたりして歩く。
出来ることなら、毎日でも一緒が良いのだけど、志津香はバスケ部の朝練があるし仕方ないだろう。
今日みたいな朝練がない日はとても貴重な日。志津香との通学時間は、常にデレさせるチャンスと意識はしているのだが、本日も、志津香との朝の通学時間が楽しすぎてデレさせるのを忘れちゃったよね。
♢
デレ高、二年八組。
そこが俺と志津香のクラスだ。
進級して2ヶ月が経過して、すっかり馴染んできている今日この頃。
あのガッツポーズからもう2ヶ月経過したのかとしみじみ思う。
一年の頃は志津香と違うクラスになってしまった。
志津香と違うクラスなんて醤油抜きの醤油ラーメン。豚骨抜きの豚骨ラーメン。味噌抜きの味噌ラーメンと同じだ。
あの絶望の一年から、這い上がるため、俺は色々と同じクラスになれる方法を試行錯誤してみせたんだ。
選択授業。文系理系。先生へのごますり。なんでもしたさ。
結果はご覧の通り。
見事、同じクラスになれることになった。
この衝撃の嬉しさ。
クラス表を見た時、ついガッツポーズをしてしまった。
「もしかして、私と一緒になれて嬉しいのかな?」
当時、そんなことを言ってくるもんだからテンション上がり過ぎて、
「おう!」
と答えたのはちょっと失敗だったかも。
しかし運の良いことに、志津香がそれをネタになにか言って来るってことがなかったな。
「じゃあね。蒼」
「ああ」
教室に入ると、志津香が簡単に別れの言葉を放ちつつ、真ん中の一番後ろの席へ向かって行った。
俺の席は廊下側の真ん中の席。
流石に席まで近くとはいかない。
同じクラスになれただけで神ってるレベルだから、これ以上は贅沢ってものだ。
自分の席に座って、チラリと志津香の方を見る。
クラスメイトの女子達が志津香の方へ集まっていくのが見えた。
女バスの人達だ。
志津香はクール系美少女だが、不思議と人が集まってくる体質らしい。それは良い意味でも、悪い意味でも。
変な男も寄ってくるもんだから人気者も困ったものではある。
俺は部活もやってないし、人が集まって来るようなタイプじゃない。
正直、その点が羨ましいとは思う。同時に、やっぱり志津香は凄いと感心して、また彼女を好きになる。
あ、いや、ね。俺がボッチとかってことじゃないから。それは間違いだから。ちゃんと友達はいるよ。多分。
ただね、はい、一人で過ごすことは多いです。
べ、別に悲しくなんかないんだからね。
こういう一人だからこそ、志津香をデレさせる作戦を練ることができるってもんだ。
テッテレー。
プロ野球名鑑。
「復習、復習」
改めて、プロ野球選手の年棒を暗記しないとな。
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