クールなあいつをデレさせろ
すずと
第1話 カフェくーるだうんの攻防(水原蒼視点)
カフェテリア、『くーるだうん』のテラス席には常連客の女子高生が文庫本を片手で持って読んでいた。
彼女は、俺──
ミディアムロングのさらさらな髪は、太陽の光できらきらと光っている。
長いまつ毛で覆われた切長の大きな瞳は吸い込まれそうな程に綺麗だ。
筋の通った鼻筋と潤いのある薄紅色の唇。
彼女の横顔は美人の象徴とも言える完璧なEラインが出来上がっている。
なめらかで透明感のある肌。
学校指定の夏服から伸びる、スラッと長い手足はトップモデルを思わせる。
可愛いというよりは美人。アイドルというよりモデルと言った感じ。
本を読む姿はクールでカッコ良く、いかにも仕事の出来そうなお姉様を思わせる。
美少女という言葉があるが、その言葉は彼女のためにあるようなものだと俺は思っている。
俺は彼女のことが昔から好きだ。
絶賛片思い中である。
「お待たせしました。カフェラテです」
好きという感情を抑えながら志津香の注文したカフェラテを持っていく。
パタン、と器用に片手で本を閉じてテーブルに置いた。
そして俺の方を、その吸い込まれそうな瞳で物静かに見つめると小さく笑って見せた。
「蒼。私のこと好きでしょ?」
クールな彼女から放たれるクールな声で確信をつかれた俺の心臓の鼓動が一気に加速する。
ここで、ああ好きだよ、なんて言えたのなら、どれほど楽なのか……。
「志津香。いきなりだな。なんでそう思う?」
冷静を装ったこちらの態度。
声色が震えているのをバレやしないか不安になりながら、なんとか質問を質問で返してやる。
「さっきから私のこと見てた」
ああ、見てた。めちゃくちゃ見てた。もうなめるように見てたね。
好きなんだもん! そりゃ見るよ! 好きな人の顔はずっと見るよ!
「カフェラテのご注文をされたお客様の確認……ってことでなら志津香を見たけど?」
心に思っていることは言えずに、無難に逃げるような回答をしてしまった。
「そ」
「志津香こそ俺のこと好きなんじゃないのか?」
余裕ぶってる志津香に、カウンターを仕掛けるが通用しないみたい。
彼女は動揺の様子もなく、ゆっくりとカップをテーブルに置いた。
「どうしてそう思うの?」
「本を読んでいたなら俺のことなんて視界に入らないと思うが……。本を読んでるフリして俺を見てたのかと思ってな」
この答えに志津香は細く長い指を口元に持っていき、小さく上品に笑ってみせた。
「私はバスケ部でポジションはポイントガード。コート内の司令塔。視野が広くないとできないポジション。ほら、鷹の目なんて言葉があるでしょ。私の視野は鷹の目並に広いんだよ。だから、本を読んでても蒼が私のことを見てるってことは一目瞭然」
やばい。
言われてみれば、確かに志津香は女バスのポイントガード。
正直、バスケのことはあまりわからないが、ポイントガードというのは司令塔で、視野が広くないとできないポジションってのはなんとなくわかる。
ってことはなんだ?
俺がじっと恋する乙女みたいに志津香を見ていたのはバレてるのか!?
やばいやばい。これは非常にやばい。
「そんな女バスの鷹の目様がいつまでもカフェでのんびりしていて良いのか?」
今日は日曜日。午後連がある日だと聞いた。実際、制服にエナメルだし練習があるのは間違いないだろう。
ちょっと強引な話題変更は、指摘されれば好きバレに繋がるかもしれない危険性がある。
「おっと……」
スマホを取り出した志津香は少し驚いた様子で画面を見る
「もう、こんな時間なんだ」
神よ!
奇跡的に話題変更に成功した俺は、心の内で神に感謝をささげた。
「ふふ。ゆっくりし過ぎた」
彼女はテーブルの下に置いていたエナメルバックを持って立ち上がる。
「またね。蒼」
「ああ。部活がんばれよ」
一言添えてやると、クールな微笑みを見してテラス席から店内へ入って行く。
「間接ケツ……。ふふ……」
志津香が見えなくなったところで、座っていた椅子に腰かけると、やんわり彼女の温もりを感じた。あ、うん。自分でも変態的な行動だとは自負している。
「美人すぎるだろ!」
ドンッと尊さがリミットオーバーして机を叩いてしまった。
「なんであんな美人なんだ!? ええ!? そんなん好きになるに決まってるだろうがっ! べらぼうめっ! あうあー尊い!」
「なら、さっさと告って付き合えば良いんじゃない?」
こちらの尊さの叫びに答えをくれる、甘い声の男性。
振り向くと、声からは想像できない短髪のゴリマッチョが、ピチピチのウェアを着て立っていた。
「おやじ」
この甘い声と見た目がミスマッチのマッチョは俺の父親である
くーるだうんのオーナー兼店長。俺は彼の息子で、この店でアルバイトをしている。
「それはできない。デレたら負けなんだ」
「まだそんなこと言ってんの?」
呆れた甘いため息を吐くおやじは、やれやれと肩をすくめた。
そう……。デレたら負け。
それに志津香は世界一クールビューティーな美少女。
告っても玉砕してしまう可能性がある。
告白を確実なものにするためにも、志津香が俺にデレないダメなんだ。志津香の頭の中を俺で埋め尽くさないといけない。
だから、あのクールな笑みをぶっ壊して、俺無しじゃ生きられない程デレデレにさせてからアマアマな生活を送るのだ。
「って……。あれ?」
テーブルにはブックカバーの付いた文庫本が放置されている。
志津香の読んでいた本だ。
「あいつ……いつもは完璧クールビューティーな感じだけど、意外と抜けてるよな。そこも可愛いのだが」
そこで俺は名案を思い付いてしまう。
「これは届けてあげないとな。うん。大事な本だろうし。すぐに届けないと」
「ちょっと待った」
「止めるなおやじ。俺は志津香にこの大事な本を届ける使命があるのだ」
「ダメダメ。今からランチタイムに入るんだからワンオペじゃ僕死んじゃうよ。蒼の使命は僕みたいな筋肉ダルマとランチタイムを切り抜けることだよ」
「い、いやだ! 筋肉ダルマとランチタイムなんていやだ! 俺は志津香のところに行くんだ! 志津香のところに行ってデレさせるんだ」
俺はアメフトのランニングバックよろしく。おやじを華麗にかわして……。
「はいはい。何年同じことやってんの」
簡単に首根っこを掴まれて引きずられる。
「離せ!」
「どうせ志津香ちゃんは部活が終わったら取りに来るんだから、それまで待ってなさい」
「いやだー! 俺は志津香のバスケ姿を見に行くんだ! 尊い志津香のバスケ姿を見に行くんだ!」
「はぁ……。なんで僕には素直に志津香ちゃんラブを言うのに、本人には言わないのさ」
呆れを含んだ脱力した声とは裏腹に、物凄い力で俺はキッチンに連行されてしまった。
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