第1話 旅立ち 【語り手:ガーベラ】
あたしの名前はガーベラ。
それと、紹介するわ。双子のお姉ちゃんのガザニアちゃん。
あたしたちは、すごく深い森の真ん中にある村の、領主の館で育ったの。
森の名前はシュバルツヴァルト(黒の森)、村の名前はクロイツ(十字架)。
お父さんとお母さんはいない。村の皆と「イザリヤ叔母様」が親代わり。
あたしたちは人間の両親から生まれてきたわけじゃない。
イザリヤ叔母様が、あたしたちを「作って」くれた。
遥か昔のご先祖様から、あたしたちの種?を取って育てたんだそうだ。
この森の管理者アーデルベルク子爵家(今のままだ)はあたしを当主に。
森を抜けた先にある本国、北の大国グリューエンのオルデノクライム侯爵家はガザニアちゃんを当主にするんだそう。
だから、あたしとガザニアちゃんは、イザリヤ叔母様に厳しい教育をされてきた。
代々アーデルベルク家とオルデノクライム家は、こうして作られた当主を頂いてきて、当主はイザリヤ叔母様に教育されてきたらしい。
イザリヤ叔母様って何歳なんだろう?
とと、今はそういう事を言っている場合じゃない。大変なんだ。
イザリヤ叔母様に、外に行け、一人前になるために冒険に出ろって言われたの!
準備をして3日後の朝にイザリヤ叔母様の所に集合。今は3日目の朝。
あああ、準備、これで大丈夫かなあ!?
あたしの技能は魔法使い兼盗賊。
恰好もそれらしく、濃紺の上下にソフトレザーアーマーをあわせたモノ。
杖は盗賊するのに邪魔なので、魔法発動の起点(発動体)は杖でなく指輪だ。
他の荷物は普通の旅人が持つものと何ら変わりない。
いくらかのお金と、食料。簡易テント、寝袋、火打石、着替えにタオルなどなど。
冒険者の使うようなものは冒険の現地、南の大国カルドセカリナの都市、貿易都市エカルドに着いてから買い揃えればよろしいと言われているからだ。
うん、これでいいよね―――と再確認した時、ドアがノックされた。
「ガーベラ、そろそろ時間だ。いいか?」
ガザニアちゃんだ。
「うん、いいよ」
がちゃりと扉を開けるガザニアちゃん。
ガザニアちゃんの顔はあたしと瓜二つ。これもそっくりな金髪は、肩までで切り揃えられている。あたしは腰まであるロングヘア―だ。
やっぱりお互いそっくりな色の青い瞳は、ガザニアちゃんはきりっとしたツリ目。
あたし?ぱっちりしてキラキラしてるとよく言われるよ?
ガザニアちゃんは全身を、ハードレザーアーマーで覆っていた。頭以外ね。
背中に負うのは大きなクレイモア(大剣)だ。
ガザニアちゃんの技能は戦士兼神官。
信仰するのは戦女神ラスティスだからこういう装備。
「お前も準備は良さそうだし、イザリヤ叔母様の所に行くか」
「うん!しっかし、15歳の誕生日に旅立ちって。イザリヤ叔母様シビアだよねー」
「イザリヤ叔母様はシビアな人だが、優しい人だろう」
「そんなこと言われなくてもわかってるよー。ちょっとした愚痴じゃん」
「愚痴を言う余裕があるなら大丈夫だな、早く行くぞ」
「はいはーい」
あたしの部屋から出て、領主館の最奥………と言ってもそこまで広くはないんだけど、とにかく一番奥の部屋に行く。
イザリヤ叔母様はいつもその部屋に現れるのだ。普段から村にいるわけではない。
一度現れたら、村の皆に挨拶して回ったりするので、奥の部屋に縛られているわけではないみたい。村では守り神という扱いを受けている。
奥の部屋はイザリヤ叔母様のいつもいる異次元からの通路ができているんだって。
最奥の部屋をノックする。
「ガーベラとガザニア、入室してもよろしいですか?」
「入れ」
返事が返ってきたので、部屋の扉を押し開けると、応接間のような部屋が現れた。
イザリヤ叔母様は、暖炉の横の壁に背を持たせかけて立っていた。
あたしたちに座るよう促すと、自分も対面に腰を掛けた。
イザリヤ叔母様はあたしたちを20歳代にしたような見た目の人。
目が紅いのがあたしたちと唯一違う点かな。
あたしたちと同じ色合いの金髪は膝までのびている。
あたしたちと似た顔立ちなのに、圧倒的美人。
だけど、鋭い目つきをした貫禄のある人よ。
あたしたちもいつかこんな風になれるかなぁ?
「うむ、装備と持ち物はそれで大丈夫だろう」
あたしとガザニアちゃんの装備と持ち物を点検し、イザリヤ叔母様はそう言った。
「イザリヤ叔母様、森からどうやって出て行けばいいんですか?」
うん、ガザニアちゃん、あたしもそれは聞きたかった。
だだっ広いんだもんこの森。
「地図とコンパスはやる。基本川沿いに進めば、そのうち街道に辿り着く」
大雑把だ。川ったって何本もあるよ?
それに帰って来れるように道を覚えていかなきゃならない。
そんな考えが顔に出ていたのか
「地図は詳細だ。何枚もある。よーく読みながら進めば大丈夫だ」
と言われてしまった。はい、頑張ります。
「あと、南の大国カルドセカリナ帝国の都市、冒険都市エカルドまでの地図がこれだ。基本街道沿いを進めば迷う事はない。シュバルツヴァルトから出る方が大変だろうな。どちらにしてもお前たちの頑丈さなら問題なかろう」
そう、あたしとガザニアちゃんは「なんちゃって人間」だからか、異様に頑丈だ。
剣が直撃しても、よっぽど当たり所が悪くなければ平気。
ついでに食べ物も、2日に1回ぐらいで大丈夫だ。
食べるの好きだから、ついつい食べちゃうんだけどねー。
「そんなことより、修行の達成目標を言っておく。冒険者ギルドに登録してプラチナ級になること、それと「青睡蓮の輝石」を2つ、手に入れる事」
「イザリヤ叔母様、「青睡蓮の輝石」というのは確か………」
「そうだガザニア。代々の当主たちの胸元を飾ってきた石だ」
「あたしたちの目の色と同じあの石?肖像画で見たやつ」
「そうだガーベラ。代々当主は一人前の試練で同じものを持ち帰る」
「「青睡蓮の輝石」はどうやって手に入れるの?」
「それはお前たちで調べるんだ」
「はーい」
「イザリヤ叔母様、森でいちばん気を付けるものは何ですか?」
「………くまだな」
「え?クマ?森でよく遭遇しますが問題ありませんよ?」
「ここから南への道で、普通の3倍はデカいのがいる………私も若い頃難儀した」
「………心しておきます」
領民―――村の人たち―――がもう見送りに出てきていると言われて、焦った。
「このまま出発なの!?」
「………イザリヤ叔母様にそう言われてただろ?ガーベラ」
「忘れてた!」
イザリヤ叔母様とガザニアちゃんが呆れた顔になった。
けど、忘れてたものは忘れてたのだ。
あらためて覚悟完了してから領主館の外に出たら、歓声に包まれた。
お店の人なんかも仕事を横に置いといて、駆けつけてくれたみたい。
「みんな、立派にやり遂げて帰って来るからねーっ!」
「待っていて欲しい!」
そう声をかけると
「ガーベラ様、ガザニア様、寂しくなります!」
「お腹壊さないようにね!」
「へこたれねえで下さいよ!」
なんていう声が返ってきた。
「何があってもへこたれないよ!行ってきまーす」
「ありがとう、行ってくる!」
そう言って、あたしたちは村の外に出た。
森を抜けるには2週間はかかる。
最初の1日は見知った、遊び歩いていた森の中。
南に向かって進むのは初めてだったから、ちょっと難儀した。
「一緒にがんばらないとね、ガザニアちゃん」
「ガーベラが一緒なら、何でもできる気がする」
「ん、もう。真顔で言わないでよ、口説いてるんじゃないんだから」
「自分と同じ顔を口説く趣味はないぞ?」
そう言ってあたしたちは笑い合った。
明日からは見知らぬ土地を進むんだ。気合入れていこー!
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