変わらない日常

@desao

日常の変化

 ふぅ、と一息つき今日も店の締め作業を行う。人生は全く同じ日がないから面白いという言葉を以前耳にしたことがあるが、自分だけは例外なんじゃないかと思う。

 起きて高校に行って授業を受け、部活をして帰路につく。部活が無い日は家に帰り、準備をしてから近所の喫茶店でアルバイト。いつか自分にも人生の岐点となる日はくるのだろうか、なんて考えながら作業をしていると「今日もお疲れ様です。」とキッチンから声が飛んでくる。キッチンの方を向き「お疲れ様です。」と一言。この喫茶店は二人体制でキッチンとホールに分かれている。今日のキッチンは金子さん。「今日も人あんま来なかったね」「そうですね」と、こんな他愛も無い会話が好きだ。この瞬間は少しだけ、非日常を感じられている気がする。締め作業を終え店の清掃を終えると、仕事は終わり。「お疲れ様です」と言い、自転車に乗って家までゆっくり漕ぐ。夜の爽やかで、深く、終わりのない風が気持ちいい。家に着くとすぐに風呂に入る。入浴後は寝室に向かう。ベッドに寝転び部屋の電気を消し、また明日。

 今日はいつもよりも早く学校に着いた。だからって特別なボーナスがあるわけじゃなく、ただいつも通りの時間が流れていく。いたずらに来る眠気という名の悪魔たちと戦いながらなんとか午前の授業を乗り切ると、友人たちと一緒に昼食を摂る。相変わらず作業みたいな毎日だな。と自分で自分を嘲笑していると「食事中ごめんね。ちょっといいかな」と普段の日常にない音が聞こえる。少し動揺しながら席を立ち、要件を尋ねると、どうやら次の授業で使う辞書を借りにきたらしい。自分が出来る最大限の愛想と共に辞書を差し出す。

午後の授業はなぜか身が入らなかった。いつも通りの毎日のはずなのに。自分でも理解できない恥ずかしさを感じ、逃げるように家に帰り適当に時間を潰す。

 夜になり、ベッドに入り少し考えてみる。なぜこんなに小さな非日常で、こんなにも胸の高鳴りを感じるのか。暗く、深く底の無い夜で一人考える。幾度も考え、答えは一つの終着点を迎えた。それは毎日がいつも通りだから。いつも通りだから小さな日常の変化に気付くことができて、それに特別な感情を持つことができる。

 きっと明日もいつも通り。ただ不思議と嫌では無い。変わらない毎日に希望を乗せて、いつかくる小さな非日常を待ち望んで、また明日。

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