第18話 初めの訓練
翌日の朝、僕とソルデウスは家の外にいた。天気は昨日のパラパラと降っていた弱めの雨と違って大雨。
「こんな天気なのに外に出るのはキツイな……。
ソルデウスの言う通り、冷たい雨が身体に降り注ぐので中々寒い。下手したら風邪を引いてしまいそうなくらいだ。
だが、そのおかげで僕は外に出ることができている。雨だと基本的には太陽が雲に覆い隠されているので大丈夫なのだ。まあ、逆に言えば晴れだと出られないということだが。
「これから訓練を始めるよ〜」
家の扉を開けてこちらに歩いてきたのはティグリス。
なぜか隣が気になったので見ると、ソルデウスが全身をガタガタと震わせていた。
今日は寒いしな。体調に気をつけなければ。
「じゃあ、僕について来て」
ティグリスはそう言うと、村の門がある方角の反対側に歩いて行く。
「ソルデウス、ティグリスさんについて行かないと見失うぞ」
ガタガタと震えて動かないソルデウスに対して一応声をかけておく。後で「置いていったな!」と難癖を付けられても困るしな。
……結局ソルデウスは反応しなかったので放っておき、僕はティグリスについて行くことにした。
少し経つと、後方から「おい、待てよ! 置いていくな!」という小さな声が聞こえてきたが、振り向かずにそのまま進む。
緩やかな坂を下っているところで、何者かにガシッと肩を掴まれた。
「俺を置いていくなよ……」
振り返ると、そこには全身を濡らしたソルデウスがいた。見るからに寒そうである。
「置いていくも何も、声をかけても動かなかったのはソルデウスだろ」
「俺はお前に声をかけられた記憶なんて無いぞ!」
声をかけて知らせたのに結局は難癖を付けられてしまった。解せない。
「あ、叔父さんが見えなくなっちまった……急がないと!」
ティグリスが話を中断して走っていく。
そっちが難癖を付けてきたのに僕を置いていって走っていくのかよ……。
*
そんなことがあったが、無事にティグリスを見つけることに成功し、目的の場所に到着した。
そこは障害物(木など)がほとんど無い平たい場所で、奥に森が見える。
「今日はここを拠点にして訓練をしていくよ。では、初めにする訓練は……」
さて、一体どのような訓練が待ち受けているのだろうか?
「食料採集対決だ!」
「「食料採集対決!?」」
食料採集対決って何だ? 文字通りなら食料を採集して対決するのだが……?
「初めにする訓練が食料採集なんて嘘だろ! 叔父さん、冗談はやめて基礎体力訓練から……」
「ソルデウス、これはただの食料採集ではない!」
「それはもっと嫌だ!」
二人がやり取りをしているのに対し、置いていかれる僕。訓練をするのなら早く始めてもらいたいのだが……。
「さっきの発言から、君たちが食料採集対決のことを知らないことが分かった。なのでそんな君たちに食料採集対決について説明してあげよう」
説明は普通にありがたいな。食料採集は分かるが、どのように対決するのか分からないし、意図も見えてこない。
「食料採集対決とは、採集した食料のポイントを比べて勝敗を決めるゲーム……ではなく、訓練だ! さっきポイントと言ったが、ただ量が多ければいいってもんじゃない。質や食材そのものの美味しさも考慮されるからできるだけ良い食材を採ることが大切だぞ」
……食料採集対決をゲームと言ったような気がするが、気のせいだよな?
きっと気のせいだろう。
「ルールは簡単。レイ君とソルデウスは僕の妨害を避けて採集をし、その手に入れた物の価値によって決まるポイントの合計が多い方が勝ちだ」
ティグリスの妨害ということが気になったが、その他は特に問題はなさそうだ。
「ちなみに、採集した物の中に食べられない物があった場合はマイナスのポイントが与えられる。なので、手当たり次第に食料を集めるのはおすすめしないよ。……つまり、この訓練では体力や敏捷性が高いだけではなく、相応な知識も要求される。あと、地形も不安定な所もあるし、危険な動物や魔物もいるから気をつけてね」
……前言撤回。問題があり過ぎた。僕にこの世界の植物や動物の知識なんてものはない。青白く光る木苺や黄色のとても大きい桜桃、熊のような化け物がいる世界だ。あの世界の知識は役に立たないと思った方がいいだろう。
「美味しかったり、貴重な食料だったらポイントは高くなるからそういう物を狙った方がいいかな。一応そこら辺に生えている草もポイントになるけど、ある程度の量を集めても1とかにしかならないから集めるだけ無駄だよ」
美味しい物や貴重な物、食べられない物を知らないので結局は手当たり次第採っていくしかないな……。
「ところで、叔父さんの妨害ってどんなことをするんだ?」
「おっ! ソルデウス、いい質問だね。僕がする妨害の例は、ポイントになる物を掠め取ったり、動物を
中々厄介な妨害だな。ティグリスは避けた方が良さそうだ。……僕にそれができるかは別として。
「他に質問は……なさそうだね。じゃあ始めるよ。制限時間は日が完全に暮れて真っ暗くなるまで。昼ご飯は自力で調達してね……っと、そういえば採集した物を収納する
聞き捨てならないことが聞こえた。昼食を自力で調達するって……。
「はい、これが収納する籠だよ。これに入っている物は僕に盗られるかもしれないから気をつけてね。……あと、ここの拠点の一部のエリアには採集した物を置いておけるスペースがあるからそれも活用するといいよ。あ、それは盗られないから安心して。不正ができないように兄さんも呼んでおくし」
ティグリスから籠を渡された。背負える籠で、大きさは僕の背中ぐらい。って今はそれどころではない。昼食を自力で調達することについて……。
「では、本当に始めるよ。3、2、1、スタート!」
そう言ってティグリスは奥にある森の中に突入していった。
……初めの訓練は名前だけを聞けば拍子抜けする訓練だったが、中身は厳しいもののようだ。
この時の僕は知らなかった。本当に辛いのは……訓練ではなかったことを。
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