第4話 ナニカ

 結局はデュアルホーンラビットが木っ端微塵になっただけで、時間を無駄にしてしまった僕達だが、再び歩みを始めた。

 そうは言っても、僕は荷車に乗っているので歩いているわけではないのだが。


 それから少しすると、ホーンラビットを見かけた。色はスカイグレー(曇り空のようなわずかに青みを帯びた明るい灰色)、つまり初めて見たホーンラビットと同じ色だ。ちなみに角は1本。


 そのホーンラビットはこちらを見ると、体を震わして逃げていく。


 以前は逃げずに襲いかかってきたのにな。性格に違いがあるのか?


「――はあんまり―――そうじゃ――な……―――もいっか。――めても兄――と―イとその―――は―――ないだろうし」


 ホーンラビットが逃げた方向を見つめていると、ティグリスが何やらぶつぶつと呟いていた。


 ……あ、そうだ。村がどんな所なのか訊いていなかったな。


「ティグリスさん、現在向かっている村はどのような所ですか?」


「むや――――見せる――にも――――からな……」


 僕が声をかけてもティグリスはまだ何かを呟いたままだった。


 ……村のことを訊くのは諦めよう。着いたら分かることだし。それに、集中しているところを邪魔するのも悪い。


 ゆったりと景色でも眺めるか……。先ほどからずっと眺めているけどな。


 なお、ゆったりとしているが油断はせずに常に警戒している。ティグリスの目的もはっきりとしていないので、急に襲いかかってくることも視野に入れなければならないからだ。また、熊のような強者が襲いかかってきた時の備えでもある。


 結局、森から出た時もティグリス襲ってこなかった。


   *


「お〜、森から出られたよ!」


 ティグリスはそう言って歩く速度を上げた。早く村に行きたいようである。

 ……僕も早く村に行きたいけどな。


 身体が限界なのだ。何せ、木製の荷車である。木製の。クッションも何も置いておらず、物を運ぶための荷車だと分かる。そんな荷車に人を乗せたら……そう、身体を痛めるのである。結構揺れるので、荷車にどこかをぶつけそうになったりぶつけたりしている。


 そして、座るだけでも辛い。こんな硬い床(?)に座っていたら脚を痛めてしまう。ただでさえボロボロな身体に追い打ちをかけられている気分だ。


 ただ、そんな辛い時間も残り僅かだけ。ティグリスが「あと十分くらいで着くよ」と言っていたのである。この情報が嘘でなければ十分で着くのだ。

 森から出て、草原にある道を歩いている僕たち。道のおかげか、更に速度が上がっているように感じる。


 そう思っていた矢先、ティグリスの足が止まった。


「ティグリスさん、どうしたのですか?」


 ティグリスは奥の方をじっと睨んでいる。いつもとは全く違う雰囲気だ。その雰囲気に違和感を抱きつつも、ティグリスの真似をしてみた。しかし、奥には何もなかった。


「うん、やっぱり気のせいだった。奥に何かあると思ったんだけどな〜」


 いつもの雰囲気に戻って何事もなかったかのように歩き出したティグリス。


 その瞬間、ビュウッと強い風が吹き、奥からズドンッという小さな音が聞こえた。


「どうしたんだい? 何かあったのかな?」


 驚いた僕を見て少し足を止めたが、ティグリスは再びに歩き出した。


   ***


 村に向かって伸びている道の近辺に、豚のような醜い魔物――オークが7体ほどいた。


 そのオーク達は何かに取り憑かれているようなおぼつかない足取りで村へ向かっていく。


 ゆっくりな歩みだが、着実に村との距離を縮めていき、村の門が見えたその刹那、赫色あかいろの閃光がどこからともなく飛んできた。


「グォ?」


 オーク達がその光を認識した時には、オーク達がいた一帯が吹き飛んでいた。


 ――オークの死体は跡形もなくなり、地面は深く抉れる。この閃光の威力はとてつもないものだった。


   ***


「この閃光は――赫灼かくしゃく騎士王きしおうのものか。面白くなってきたなぁ。レイ君の周りにどんどんと玩具がんぐが集まってくる。さて、何をしようかな……」


 黒と赤がベースになっている立派な城の玉座。それには不敵な笑みを浮かべた黒髪の男が座っていた。


「ここにルナちゃんがいればもっと面白くなるのに。……そうだ! この2人が接触するようにスタンバイしよう!」


 舞台の下準備は着々と進んでいく――




――――――――――――――――――


 今日は余裕があるので投稿します。明日も頑張って投稿しようと思いますが、できなかったら申し訳ないです……。

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