第21話 賢黎熊
熊に邂逅した瞬間、僕は必死に生き残る方法を模索した。すると、5つの選択肢が思い浮かぶ。
①背を向け、走って逃げる
②後退して逃げる
③戦う
④死んだふり
⑤
①は襲われて死ぬので却下。②は①よりも危険性が下がるが、以前と同じように襲われる可能性があるので却下。③は自殺と同義なので却下。④は効果がない可能性が高く、襲われて死ぬので却下。⑤は現在生き残る方法を探しているのに、生き残る気がないので却下だ。
……これはもしかしなくても、人生が詰んでるのではないのか?
どんな行動をとっても「死」しか見えない。生き残る方法が全く見当たらないのだ。
生き残る方法を考えろ、考えろ、考えるんだ!
大怪我をしたっていい、生きることができるのなら。死ななければ俺は再生できる。
生き残る方法を他に考えたが、あの方法以外に思い浮かばなかった。もう、この方法しか使えないのか……!
*
……一方、熊はこちらを静観していた。零を見て何かが引っ掛かったのか、これまでの記憶を辿る。
◇
現在から56年前のある日、灰色の雄熊と茶色の雌熊の間に黒い子熊が生まれる。両親はその子熊に「エボニー」という名を与え、大切に育てることを誓った。
おっと、名乗るのが遅れてしまったようだ。私の名はエボニー、例の小熊だった者である。
今ではこんな屈強な姿をしているが、昔は人の子に負けるほど貧弱だった(人の子と戦った経験はないが)。その証拠に、生まれた頃のステータスをお見せしよう。
―――――――――
〈ステータス〉
基本情報:エボニー 雄 0歳
分類:魔物、幼獣
種族:
LV:1(0/10)
MP :8/8
筋力:10 B(上昇値評価)
耐久:9 B
魔力:9 B
魔耐:8 B
敏捷:11 A
持久:6 C
器用:3 D
幸運:−10 総合:B
ステータスポイント:10
スキルポイント:100
ユニークスキル:賢智lv1、
スキル:意思疎通lv1、噛み砕くlv1
魔法:
称号:変異種、ネームド
―――――――――
たったこれだけのステータスだ。弱いことがわかっただろう?
こんなに弱いので、親に守られながら生きてきた。親が瀕死にさせた獲物にとどめを刺したりしてLvを上げたりもした。
15年後には種族進化も果たし、更なる強さを手に入れた。
やがて20年の月日が経ち、私は20歳(人の子の年齢に換算すると10歳ほど)を迎え、親を頼らずとも生きていけるようになった。
その時のステータスはこちら。
―――――――――
〈ステータス〉
基本情報:エボニー 雄 20歳
分類:魔物、亜成獣
種族:
LV:17(259/1300)
MP :408/408
筋力:360
耐久:330
魔力:330
魔耐:300
敏捷:398(×1.25)[497]
持久:230
器用:126
幸運:−10
ステータスポイント:0
スキルポイント:75
ユニークスキル:賢智lv4、
スキル:意思疎通lv3、噛み砕くlv4、
魔法:〈火〉
〈水〉
〈風〉
〈土〉
〈雷〉
〈邪〉
称号:変異種、ネームド、
―――――――――
この森にいる生物で私に敵う相手は両親以外にいなかったので、油断や慢心をしていた。
己より弱い生物を殺して経験値を稼いだり、食料にしたりする毎日。しかし、不思議とつまらなくはなかった。
私はこれからも幸せな毎日を過ごすと信じて疑わなかった。
……しかし、ある人物がこの森に訪れた時に私の幸せな暮らしは崩れ去った。
その人物は私達の縄張りに入り込んできた。それを察知した私達はすぐに現場へ向かうと、その人物を視界に入れる。
その人物は、人の子に見える12歳ほどの少年と10歳ほどの少女だった。
少年は銀髪に青い目で、以前この森に訪れてきた冒険者のような服装をしており、少女は銀髪に紫色の目で、少年と似た服装をしている。
父親は母親と私の前に出て少年と少女を威嚇した。ほとんどの人の子はこれだけで立ち去っていくだろう。しかし、少女はビクッと肩を少し震わせただけで、少年に至ってはこちらを睨んできた。
その様子を見て怒った父親は少女に向かって突進した。それを見て母親と私は驚く。普段なら父親は、あのようなことをされても威嚇を続けるからだ。
少年は少女を抱いて転がり、突進を回避しようとした。しかし、とても速い父親の突進を
吹っ飛ばされた2人を見ると、少年は軽い怪我で済んだが、少女は重傷を負っているようだった。
これでここから立ち去ると思っていたが、それは違った。
少年は少女をここから離れたところに横たわらせてから、こちらに走ってきた。
その速度は人の子にしてはとても速いものの、私に比べたら劣っている。私達なら簡単に倒すことができるだろう、と油断していた。
「《
――この声を聞くまでは。少年が先ほどまでいた所は、風が吹いて
少年は父親の目の前に現れ、顔面に蹴りを入れた。驚いて一瞬硬直していた父親はそれを躱すことができずに直撃し、体勢を崩す。
このままだとまずい。
そう思った私は、父親を助けるために少年に突進した。しかし、少年は高く跳び上がり突進を躱わす。私は突進を止めることができずに父親に衝突してしまった。
それからはよく覚えていない。意識が
意識がはっきりとしたら、すぐに少年と両親が戦っていた場所へ走っていく。
……父親の匂いを辿っていけばそこに着くはずだ。
思ったよりも長い時間走り続け、ようやく少年と両親が戦っていた場所に辿り着いた。
しかし、私は喜ぶことができなかった。何故なら――頭部を無くした両親の死体があったからだ。
私は呆然としていた。いや、現実を受け止めることが出来なかったのだ。大好きだった両親の「死」。受け入れられるはずがない。
両親が亡くなってから数日が経った。私は己の力不足を感じたので、今まで以上に狩りに打ち込んだ。
……思い返せば、あの少年と少女は人の子ではなかった。十中八九魔族だろう。種族までは分からないが。
私は強くなるための努力を惜しまず、毎日狩りや鍛錬をし続けた。
――両親の分まで生きるために。
◇
そうだ、思い出した。この少年はとても似ているのだ。私の人生を変えたあの少年に。
この少年の見た目も気配も非常に似ている。この少年があの少年だ、と言われても信じてしまうくらい。
万が一、同じ人物、または関係のある人物だった場合は返り討ちにされて殺されてしまうかもしれない。しかし、ここは私の縄張り。私が引くわけにはいかないのだ。
それに、あの頃よりも
余談だが、この回想をしている時間は僅か数秒である。
*
この方法を使わないと生きられないが、これを使うと大怪我をする可能性が非常に高い。いや、四の五の言っている場合ではない。やるしかないのだから……!
零も熊も覚悟を決めた。両者がぶつかり合うときは数秒後になるだろう。
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次回は『第22話
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