弱者の牙

@NANTAI

始まり

 こんな話を聞いたことはないだろうか?

「笑みとは、本来攻撃的な物であり、獣が牙を剥く行為が原点である」と。

 だが、この話には特に科学的根拠もなく、ただの与太話であるとされている。

 しかし、笑いの全てに攻撃性がある訳ではないが、確かに一部「攻撃的な笑み」は存在する。

 この話は、そんな「攻撃的な笑み」をきっかけに始まる物語である。









 ある日差しの強い夏、その日私は1人の友人と共に、学校の屋上にいた。


 彼とは仲がよく、クラスでもいつも一緒に居て、よく軽口を叩き合う関係だった。


「オマエはやっぱりバカだなぁ〜」

 これは、一週間ほど前に期末テストがあり、友人のテストの結果が中々に酷いものだったので、少し馬鹿にしてやろうと言った冗談だった。      冗談のはずだった......


 突然、友人が声を荒げた。

「いつもいつも馬鹿にしやがって!!

      もういい加減にしてくれ!!」


 咄嗟のことだったので、私は理解出来ずにいた。 いつも温厚で、私が馬鹿にした様なことを言っても、笑って返してくれる友人が何故?

 そんな疑問がうっすら浮かんで来た頃に、友人が口を開いた。


「オマエはいいよな、人気者で、頭も良くて、運動もできて、ジョークも上手い。そんなオマエと比べて、俺はどうだ? クラスの噂じゃあ、オマエの人気にあやかってる、バカでのろまな金魚のフンだとよ」

 友人は更に続けた。

「金魚のフンなのは本当だ、オレも分かってる。だけど...だからといって....毎日毎日ずっと馬鹿にすることはないだろ!!」


 そこでようやく状況を理解した私は

「冗談だよ、全部冗談だったんだ」そう、友人を諭すように言った。

 そこですかさず友人は「冗談でも言っていいことと、悪いことがあるだろ」冷たく、そう吐き捨てた。


 正論だ。 私は何も言い返せずに言葉を詰まらせる。

「こんなことを言っても、オレにお前を殴る度胸はない、人気者のオマエにそんなことをしたら、オレみたいなバカはすぐにいじめられるのが目に見えてる」

 その時、友人の目が ぎらりと鋭い眼光を放った。


「だから、もっと違う方法でオマエに復讐することにした」


 彼は何をするつもりだ...? とにかく謝ろう。

「すまなかった、悪気はなかったんだ、これからは気を...「うるさい!!」

 私の声は怒る彼の声にかき消された。

「今更謝ろうなんて思うな、バカなオレがいつまでもオマエの都合のいい友達だと思ったら大間違いだ」


 そして友人は、いや、友人だった彼は、最後にこう言った。

「今からオレはここから落ちる、おそらく死ぬだろう、だけど、これは自殺じゃない、殺人だ。オマエがオレを殺したんだ」


 その後、彼は歯を剥き出しにして、まるで獲物を狩るライオンの様な笑みをこぼし、学校の屋上から滑り落ちる様に、宙を舞った。

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