第14話 旅立ち
「ありがとうございました」
「こちらこそ。遅くまで、本当にありがとうございました」
俺は秋瀬さんに挨拶をして、ダンジョンギルド練馬支部を後にする。
カードは思っていた以上の値段で売れたのから、収納系カードも一番に考えていたパターンのやつを無事に買い揃えられた。
俺が買ったのは装備品としても使える、籠手タイプの収納系カード。それを4つ。俺と姫の両手分。
黒の籠手は、カード状態のモノしか収納できない。けれどその分、数をたくさん入れられる。
白の籠手は、カード状態以外のモノしか収納できない。こちらも制限がある分、黒の籠手程ではないが、まあまあの数を入れられる。
俺と姫で、黒と白を1つずつ装備する。
二人分ならかなりの数が収納できるから、これで当分は持ち運ぶ荷物に関しては困らないだろう。
ただ、一つだけ。注意点がある。
「これの使い方は、説明した通り。だけどヒビが入ったりとかしたら、中身がポロポロと出てくるから。壊れた時なんか、中身が全部飛び出してくる。だからヒビが入ったりしたその時は、修理するまでは使用禁止だから。気をつける様に」
「解ったわ」
姫は返事をしながら、黒と白の籠手を交互に眺める。
気に入ってくれた様子。
結局、俺と姫のステータスを調べる事は諦めた。
顔見知りで黙っていてくれそうな佐藤さんがいないのも理由としてはあったんだけど、何より閉館の時間も間近だったから。
旅の途中でステータスを知るカードが手に入るだろうと、機会はどこかであるだろうからまあ良いかと、俺は楽観的に考える事にした。
姫は元々、気にしていない。
ダンジョンの探索基準を満たしているのかどうかは解らないけれど、満たしていても死ぬ時は死ぬ。
もし本当に駄目なら、姫を担いで逃げれば良い。
今の俺なら、逃げ足なら誰にも負けない……はず。最高の速さを手に入れたんだから。まだ試していないから、何とも言えないけれど。神様の造ったカードに今迄嘘や偽物はなかった。だからちゃんとステータスの“速さだけ”は、SSSの最高ランクになっていると信じられる。
そんな事を考えつつ。俺は籠手を眺めて歩く姫の足元も注意して、家へと帰宅した。
翌日から。賃貸の家・水道・ガス・電気の解約、姫の装備品や服、旅に必要な物の買い物等々、やる事を済ませていく。
「よし、行くか」
「うん」
思い立ってから数日が経ってしまったが、無事に旅に出られる準備は整った。
旅は姫がダンジョン地図で教えてくれた場所を、近い順に回って行こうと考えている。
現在、練馬にいる俺達。
此処から一番近い目的地は、埼玉県の秩父にあるダンジョン。名称は、秩父森林ダンジョン。
電車に乗って、その場所へと向かう。
秩父森林ダンジョンについては練馬に住んでいた事もあって、そういうダンジョンがあると耳にした事くらいならある。他人が話していたのが聞こえてきた、くらいに。
行った事はない。
いつも同じ練馬のダンジョンを探索をしていたせいで、他のダンジョンの事を俺は全く解らない。
情報収集は大事なので電車が到着するまでの間、携帯で秩父森林ダンジョンの事を調べながら行く事にする。
秩父森林ダンジョンは自然豊かなダンジョンで、上の階層を目指したり下の階層を目指す事はなく、広大なフィールドが広がっているダンジョン。空もあり、山や森の中を進む感じと同じらしい。
そして入り口からダンジョンの中心に向かえば向かう程、モンスターは強くなっていきドロップ品も良くなっていくとのこと。
気をつけないといけないのは、階層タイプのダンジョンと違って明確な境界線がないせい。その所為で、気づいた時には奥に入り過ぎてしまって、対応できない強いモンスターに殺されるという事が何件も起きている。
なかなか危険なダンジョンの様だ。
ダンジョンの探索基準としては、中心の最奥だとランクA。そこから入り口まで、徐々に基準は下がっていく。入り口付近なら、ランクF。
奥まで足を踏み入れなければ、中間辺りまでなら行けそうだ。
でも、きっと。姫が感じるカードはダンジョン最奥、中心部にある気がする。上野ハイキングダンジョンでも最深部にあった訳だし、それがお約束というものだろう。
俺は難易度が高いとされる中心部に、探索基準を満たしていなくても何とか行けないものかと、色々と調べ続ける。
「う〜ん」
コテン、と。いつの間にか隣でうたた寝を始めてしまった姫の頭が、俺の肩に乗る。
放ったらかしにしてしまっていた。
姫は相変わらず何処へ向かうにしろ、他人から注目を集めていた。
今も電車乗っている姫に気づいた人が、何人もチラチラと見ている。
旅の準備で買い物をしている時なんか、芸能人やモデルと思われたのか。写真を一緒に取ってくださいとか、よく言われた。
姫はよく解っていない事もあり、とりあえずOKしてしまったので。写真はSNSとかに上げないでねと注意した俺は、姫のマネージャーだと思われたりもした。
その内何人もの他人が私も、私もと言ってきたので。それに対して姫がイライラし始めてきて、「いい加減にしてほしい」と静かにキレていたのを思い出す。
そういう時は断りなさいと、教えてあげた。
今では習慣になった姫の情報を調べる事に関しては、相変わらず進展はない。偶に『凄い美人がどこどこにいるー!』とかは上がってたけど、多分姫の事だろう。場所がピンポイントだったから。それくらい。
他の人が姫と同じ様なカード、ランクなしカードを引いたという情報も全くない。
一体この娘は、何なんだろうな。
早く神様に教えてほしい。
そう思いながら。俺の指に自分の指を絡ませてきて眠る姫に、静かにフードを被せた。
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