第3話 開封はいつも通り?

「さて、と」


 寝間着に着替えた俺は布団の上にあぐらをかき、目の前に神様のガチャで手に入れた未開封カード、100パックを広げる。


 最終確認。


 風呂は済ませた。晩飯は秋葉原で食べた。明日のスケジュールは祭りの疲れもあるだろうと、ダンジョン探索は休みの予定で組んでいる。


「よし!」


 今日やらなければいけない事は、特にもう思い当たらない。


 いざ、開封式だ。


「どれにするか……なっ!」


 綺麗に並べた未開封のカードの一つを勢い良く適当に取り、開封するモノを決める。


「記念すべき神様のガチャ、100周年一発目。どうか何かしらの当たりカードが出ますよう、にっ!」


 そう言ってパックの袋を開ける。


 最初に出たカード。


「とうもろこし【10キロ】か」


 普通のとうもろこし10キロ分。Fランク。

 どうせならダンジョンとうもろこしが良かった。ダンジョン産の食べ物は一味違う。

 コレは今度、食品取扱ギルド組織に売りに行こう。


 自分で食べても良いけど、10キロは流石に多い。カードの状態を解除すると食べきれなくてきっと傷める事になる。

 元のカード状態に戻すにしても戻す為のカードが必要になるから、売った方が正解だろう。


 食品取扱ギルドとは名前の通り、食品を取扱う卸市場みたいな場所と言えば解りやすいだろうか。食品関係の品を売買している場所。


「どうせなら、米が良かったな」


 俺はめげずに二つ目のパックに手を伸ばす。


「二酸化炭素吸収【微少】……」


 これもFランク。

 説明欄には【使用方法︰屋外の広い場所にカードを置き、半径10メートルに誰もいない条件下でのみ発動】と書いてある。


 利用方法としては、地球温暖化の原因の一つを少しだけ勝手に解消できるくらいだろうか。


 俺の頭ではそれくらいしか使い道が思いつかない。


「これは……さすがに売れないか。売れても二束三文だろうし、今度どこかで使ってしまおう」


 さて、次だ。次。


 三枚目。


「おっ!こいつは良いな。かなり使える。って言っても、いつ使おうか」


 三枚目に出たカードは調合カード。


 調合カードは素材カード同士を組み合わせて別のカードを生み出す為に使う。

 調合は本当に色々と生み出せるから、ハマる人はハマる代物。自分も使った事があるから解る。意外な物が出来たりして、なかなか面白い。


 俺は流石にそこ迄は趣味の範囲を広げられないので、カードをコレクションする趣味に落ち着いている。


 今出た調合カードはDランクだから、需要はかなりあるだろう。

 売るとしたら調合マニアの人達にそこそこ高く売れるだろうし、自分が使ってみても良い。


 今度調合マニアの人達がSNSに上げていた色々な素材を使った調合レシピとか、何ができるかとか、チェックしてみるか。


 四枚目を開封する。


「イタリア語【聞ける】か〜。ダブった。どうせなら、持っていない【話せる】とか、【読める】【書ける】が良かった」


 同じ言語でも四種類あるというのに、まさかの被り。

 Fランク。


 言語系のカードは大体Fランクだけど、【聞ける】【話せる】【読める】【書ける】が全て合わさった【マスター】だけはなかなか出ないのでDランクに該当する。


 言語系は通訳・翻訳、世界各国を飛び回る仕事をしてる人達には必需品のカードになる。

 だからFランクだとしても、需要があるおかげで中々の値段で売れるから外れではない。


 日本から出た事のない俺には、出る予定のない俺には今の所、必要がないけれど。


 ダブってしまった事だしこれも売ってしまおうか、念の為に取っておこうか、悩みどころ。

 一旦は保留かな。


 因みに、神様のガチャから出てくるカードはガチャを回した地域の言語で出てくる様になっている。

 利用者に優しいシステム。


「100周年記念で少しは出てくる物が変わってるかなとか思ったけど、あんまり内容は何時もと変わらないな」


 4つのカードを開封したが、普段と大差がなさそうだ。

 そう思ったら、一枚ずつの開封が少し面倒に思えた。


 俺は残った96パックを重ねて四等分にする。一組24枚の山が4セット。そして一気に24枚分の袋をハサミで切っていく。

 そして袋から取り出した96枚分のカードを重ね、1つに纏める。


 この時カードの中身が視界に入らない様に、少しでも楽しみが減らない様に、しっかりと目を瞑りながらやる。


 一先ず袋の開封だけは終わらせた。


 後はカードを順に捲りつつ、珍しいカードや新しいカードが出たらじっくり見ていこう。


「よし」


 気合を入れる。


 勿論意味なんてないのは解っているが、気分の問題。


「いくぞ!」


 ヘアカラーチェンジ【ゴールド】、Fランク。

 砂金【小粒】、Fランク。

 薬草【HPヒットポイント回復微少】、Fランク。

 薬草【HP回復微少】、Fランク。

 ニンジン【1キロ】、Fランク。

 火魔法【初級】、Eランク。

 牛肉ロース【1キロ】、Fランク

 短剣、Fランク。

 ダンジョン地図【ワンフロア】、Eランク。

 薬草【HP回復微少】、Fランク。

 薬草【MP回復微少】、Fランク。

 副流煙カット【5分】、Fランク。

   ・

   ・

   ・

   ・

   ・


「うげっ。コレはハズレだ」


 次々と見ていくが、普段からよく見かけるカードばかり。その中から危ないカードを見つけたので、別に避けておく。


 モンスターカード。

 テイムできないやつ。


 モンスター系のテイムできないカードを、昔誰かが本当はテイムできるんじゃないかと街中で使った事件があったらしい。けれど結果は、テイムはできず。ただイタズラに周囲を危険に晒しただけ。

 それからはテイムできないモンスターカードは手に入り次第、処理する決まりになった。ダンジョンギルドの闘技場まで行き、討伐しなければならない。


 テイムできるモンスターカードは、モンスター名の後ろにテイム用の【テ】のマークがある。それがないのであれば、テイムはできない。

 そいつはマークのある・なしの意味を、全く考えていなかったんだろうか。


 話を聞いた時は、無謀な奴がいたもんだと思った。


 俺のコレはとりあえず、明日忘れずにちゃんと処理しに行こう。


 出たのはFランクのモンスター。ベビースライム。

 こういう時に限っては、低ランクのカードを引いて良かったと思う。これなら自分で処理ができるからだ。


 万が一、自分で処理ができないモンスターカードを引いた場合。その時は金を支払い他の人に討伐依頼を出さなければならない。

 即時処理が義務づけられているため、三日間以上の保管も禁止。開封した日付もギルド調べられるので、誤魔化しは効かない。

 破れば罰金が待っている。


 余計な出費がかかる事にならなくて、本当に助かった。


 できる事ならテイムできないモンスターカードには、運を使いたくはない。引きたくもない。


 ダンジョンソロ探索の俺は稼ぎが多くはないから、モンスター次第では依頼料で借金になる事だってあるだろう。

 まあ。モンスターを倒した後にドロップ落とすするモノ次第では、回避できる事もあるんだろうけれど。あまりそれはアテにしたくない。運頼みになるからだ。


 神様のガチャで唯一、利用者に優しくないデメリットだと思っている。

 けれどそれはどこぞの誰かのせいでできたルールだから、神様のガチャのせいではないから仕方がないか。


 モンスターカードを避けたその後は、何故か茸系のカードが13枚も続き気分が凹んだ。


 見てないカードの残りは、もうそれ程ない。


 結局カードはいつも通り、低ランクばかりのモノになってしまった。

 仕方がない、そんなものだ。そう割り切ってカードの残りを捲っていくと。


 突然、異質なカードが現れた。


「な、なんだ。これ」


 ランクがない。書いてある文字は読めない。他のカードとは違い、背景が真っ黒。

 いつものカードと比べて、明らかに雰囲気が違っている。


 そしてカードの中心に描かれている、凛とした姿の綺麗な女性に、俺は一瞬で惹かれたのだった。

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