第22話 6人でカラオケ

 青春の高校時代、陽キャという人種は部活に入っているもので、部活内でのつるみがメインであることが多い。

 要は、友達同士で予定が中々合わないという話。


 律樹はバスケ部、宏と夕果は男女別にバドミントン部、七海はバレー部で小波は茶道部。

 ――そしてオレが帰宅部と見事にバラバラだ。

 まあ予定なんぞというものに囚われないのが陽キャらしいのか……夕果が遊びに誘ってきた。


「放課後カラオケ行こうぜぃ」

「……宏。今日って女子バド部の活動日じゃなかったか?」

「サボりだよ。俺もね」


 男子バド部の場合は、部員数が少ない上に顧問も放任主義なので、問題外だろう。

 そうでない夕果の方が言い出しっぺという部分は……止めなくていいのだろうか。

 まあいいか。

 オレにはそれよりも気になることがあった。


「小波も来るのか?」

「えぇ、偶にお誘いされますの」

「僕も一緒だよぅ」


 小波の顔に注目すると、目が合った。

 しかしすぐに逸らされ、その視線は宏の方へ向いていく。

 わかってはいたことであるが、やはりオレのことはただの幼馴染でしかないのだろう。


 オレが『徹夜狂い』だと明かすことも手だ。

 でもそれは、『コスプレを見てもらうのは人気イラストレーターになってから』という小波の信念に背くことである。

 だからオレは何も知らない……そういうことにしておきたい。


「むうっ、変なてっちゃん」


 ふと七海がオレの耳元に囁いた。

 いつもは鉄矢呼びをされているだけに、ドキッとしてしまう。


 七海のことも、けして放っておけない。

 宏経由で聞いた話だが、七海は先日の告白を断ったらしく、あれが最早イベントと化しているのだと気付いた。


「何でもないよ」


 七海には……関係がないことだ。

 小波には小波の恋があることを意識して、胸が苦しくなったことなんて、彼女にはまるで関係ない。

 ……どうせなら、小波の幸せを願って彼女の恋を応援するべきだと、心の中で何度も唱えた。


 それはそうと、放課後はこのまま6人でカラオケへ行くことが決まった。



 ***




 前のグループにカラオケ好きの男が一人いた。

 強引な奴で、歌は下手だと言ったオレを何度もカラオケに付き合わせてきた。


 だからオレも下手……ということはないのだが、緊張はある。

 グループ全員でカラオケに行った際には、ユキの目を気にして上手く歌えなかったからだ。

 好きな人の前と考えたら、どうしても緊張してしまうのである。


「小波、そこ座りなよ」

「いいんですの?」

「ああ、オレはドリンクを取りに行きやすい手前が定位置なんだ」


 適当な理由を付けて小波を宏の隣に座らせる。

 こういったところで距離が近づけるのだ。

 小波は始めこそ困惑していたが、目配せすると、なぜか苦笑いをしてから納得したように微笑み返してくれた。


「次は俺が決めていいよな? 十八番行くぜ!」

「さっきも十八番って言ってなかったか!?」


 雄叫びをあげるように宣言して、デンモクを掻っ攫う律樹。

 律樹、小波、夕果、宏の順で選曲を入れて、小波が歌い終わったばかりだが、ここでも律樹が歌に自信があるらしい。

 実際、最初の歌を聴いたがかなり上手かった。


「え~、律樹は二回目でしょ~~……。まいっか、ほいじゃ、選曲はこれでどうよ」

「うぇ、ラップぅ?」

「律樹は何でも十八番って言ってたんだぞ」

「あはっ、言われてやんの!」


 律樹は恥じらう顔で、七海にデンモクを回す。

 何となく律樹らしくないと思ったが、順番的にはまだ歌っていないオレと七海になるだろう。

 単に空気を読んだだけなのかもしれない。


「よしっ……鉄矢、この曲デュエットできない?」

「え、できるけど、いきなりかよ」


 家の外で七海と小波は、なるべくオレと幼馴染として接しないと決めていたはずだ。

 しかし七海に関しては、ノリに乗ると抑えられるものではない。

 彼女は他の目を気にせず、いきなりオレの隣に座り直すと、近い距離でデンモクの画面を見せてくるときたもんだ。


「――って、ラブソングかよ」

「何々~? 鉄矢、恥ずかしいんだ?」

「ちげぇ、七海も乙女なんだなって思っただけ」

「なーっ!? 馬鹿にされてるよぅ」


 よりによって、小波の見ている前でそういった曲を選ぶなんて……。

 つい七海をおちょくった時には、彼女はもう選曲を終えていた。


 いや……小波には小波の恋がある。

 むしろ、こういったデュエット曲を小波と宏に歌わせようとすれば――。


「…………?」


 その時、なぜだか律樹の方から奇妙な視線を感じたが、見返すと目を逸らされる。

 ……気のせいか?


「そういや宏の選曲もデュエットできるんじゃないか? 小波は知らない曲?」


 夕果に連続で歌わせる訳にもいかないし、オレと七海はその次に歌う。律樹は論外だ。

 となれば、小波をデュエット相手にしようとしても不自然じゃないだろう。


「そ、そうですわね。知っていますし、宏くんに一緒しても?」

「構わないよ」


 そうして二人が歌い始める中、今度は夕果の方から奇妙な視線が送られてくる。

 律樹と違い見返すと、彼女はどうやら不機嫌な模様……どうして?


 先日、ようやく信頼を勝ち取れた気がしたのだが、何かが琴線に触れてしまったのだろうか。

 それでも、オレのすることは変わらない。

 小波の恋を応援するのが最優先だ。


「じゃ、次は僕たちの番だね!」

「おう」


 細かいことを考えても頭を痛くするだけだ。

 歌うことに緊張こそするものの、オレは嫌いではなかった。


 こういうのは思いっきり、ノリで歌いきることが大事だと思うし、楽しい。

 それも七海と小波が一緒だ。

 この時間くらいは、かつての幼馴染のような感覚で……いつの間にか緊張なんて忘れていた。




「えっ……」


 歌い終わった時、律樹が声を漏らした。


 皆、さっきまでは歌っている途中にも普通に茶々を入れたり、歌い終わった時には色々言っていたのに……今回はしーんと、静かである。

 全力で歌ったから、みんなの反応がどうなのか以前に、自分が上手く歌えたかどうかわからない。

 七海の歌と、どこかズレていただろうか。

 ――わからなくて、怖い。


 沈黙を破ったのは、隣にいる七海だった。


「わぁっ、鉄矢と僕、すごく相性良かったよぅ! ねっ、ねっ?」

「えぇ、そうですわね」


 遅れて宏や夕果がパチパチと拍手してくれた。

 でも安心した……律樹ほどじゃないとは思うけど、どうやら上手く歌えていたらしい。


「ななみんは知ってたけど、鉄矢も実はカラオケ好きなの? 歌い慣れてる感じしたけど」

「前の学校でも、歌好きな友達がいたからな」

「俺も驚いたよ。ははっ、鉄矢って何でも出来るんだね」


 夕果と宏もまた褒めてくれる。

 正直、オレが一番下手な可能性もあったから、そうならなくて良かったと安堵の息を吐く。


「次、律樹の番だったよな?」


 なんだか照れ臭くなったので、急いで律樹へマイクを渡す。

 しかし……彼はそのマイクを夕果に回した。


「ん……どうした? 次は律樹の番じゃ――」

「いや悪い。ちょっくらトイレ行きたいからよ、飛ばしておいてくれ」

「行ってら~……んじゃ、あたしの番か~!」


 自然に律樹はボックスの外へと出て行ったが、オレには何かが引っかかった。

 一瞬、夕果が彼を目で追っていたが、すぐに切り替えて歌い始めたので、オレもそちらに聴き入ることにした。








୨୧┈••┈◇ 現時点の恋愛スタンス ◇┈••┈୨୧


・鉄矢→小波 :小波の恋を応援しつつ葛藤

・小波→宏? :片想いの自覚あり?

・宏→夕果? :自覚はあるが、徹底的に隠す

・夕果→律樹?:七海へのアプローチを妨害?

・律樹→七海 :七海→鉄矢なのかと勘繰る

・七海→鉄矢?:本人に「好き」と伝えた?


୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧

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