世界のどこかに

@Atsumu_880

第1話 「僕は出会った」

中学三年生の3月、父から手紙を渡された。

綺麗にシーリングスタンプで綴じられたそれを父の前に立ったまま開けると、大きくかかれた文章が目に入る。


【マジッククラウンスクールへの入学許可証】


とても有名な魔法学校の名が書かれている。

そこに僕が入学?僕は疑問に思って手紙から目を離して父にこう訪ねる。


「お父様、僕にいつから命成術師の魔力が?」


僕はこの学校を受験した覚えがない。受験無しに入学できるのは、命成術師特有の魔力を持っていると判断された者だけのはずだ。


「お前は特別なんだそうだ。」


父のその一言を聞いて、舞い上がるようだった。僕の目は再度手紙に釘付けになった。

入学する学校はいつも勝手に父が決めているため諦めていたが、僕はこの学校にずっと憧れていた。大好きな魔法を、存分に生かせる、学べる場所。


「お父様!僕、頑張ります!」


そういいながら顔を上げると、父はもう居ない。閉じられるドアの音だけが僕の部屋に響いた。


「...相変わらずだね」


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朝が入学式の日を迎えた。鏡の前に座る僕の髪を

執事が整えてくれる。


執事の名前はクレッジ。彼の顎の下辺りまで伸びた切り揃えられたモミアゲが僕の頬にあたってくすぐったい。


「できましたよ。」


鏡に移った彼が微笑みながら言う。


僕の癖毛の銀髪がふんわりと柔らかく自然な纏まりになっていた。


その後、彼が運転する車に乗り込むと、いよいよだと武者震いがした。


空が狭い町を抜けて校門を抜けると、木々が並ぶ道になり、車窓から差し込む木漏れ日に時々目を刺されながら、暖かい太陽の匂いに包まれる。


道中見かけた生徒と思われる人を、僕は目を輝かせて観察した。

首もとから足元までを隠した、首もとにボタンがひとつの白い布を纏った人、その白い布が肘丈の人。布の下には紺色の学生ランナーが隠れていた。


しかし僕が渡された白い学生ランナーを着ている人は見かけることができなかった。


他にも、セーラー服や、まさに魔女の服のような黒いワンピースの上に白い布を着ている人もいた。


なにもかもが新鮮で、高揚するしかなかった。


校舎前までもう少しだ....!!!


「うぉおおおおおお!!!」


!?


不意に少女が車を追い越して行った。

首半分までの長さの茶髪をバサバサと荒らしながら走り抜けてゆく。車とどんどん距離が開いてゆく。僕は目を奪われた。


「恐ろしいほど速い足ですね。驚きました。」


車のミラーごしに冷や汗をかきながら苦笑いしているクレッジの顔が見えた。


「楽しくなりそうだよ...!」


「それはよかった。」


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校舎前に車をとめたところで、クレッジがなにやらスーツを脱ぎ出した。暑かったのだろうか。


しかし、クレッジはスーツの下の白シャツまで脱ぎ出した。


まてまてまて、車窓の中は外からは見えないようになっているが、、、どういうことだ!?


「く、クレッジ...?暑いのかい?」


「はい、まぁ。ヌエット様は先に車の外へどうぞ。ただし、僕の目が届くよう、車の前へお願い致します。」


ぼくはそそくさと車の外にでた。


車のカーブミラーで身だしなみを確認して待つ。


「お待たせいたしました」


クレッジの声が聞こえて鏡から目を離した


「....!?クレッジ!!」


彼は、紺色の学生ランナーに肘丈の白い布を着ていた。この学校の制服のひとつだ。


「クレッジも...!入学するのかい?」


「はい。お父様からお坊ちゃんをこの学校に推薦するとお聞きして、僕も受験させて頂きました」


なんて嬉しいことばなんだろう。僕のために一生懸命勉強したのかと思うと、胸がいっぱいになった。


「さあ、入学式場へ参りましょう。」


「うん!」


式場へ足を踏み入れた。

そこには、誰も居なかった。


「あれ、一番乗りでしょうか。式まで10分前だというのに。」


クレッジが辺りを見渡しながら広い式場の真ん中へと歩く。


「うぉおおおおおおおぁああ!!」


聞き覚えのある声が式場に響いた。


もしかして...!


「んわー!間に合った...て全然いない!」


僕たちの方を大きく見開いた目で見る少女は

右の髪が首真ん中辺りの長さ、左の髪は短かい。


なにより、その荒れた茶髪を見て、

走ってきたのだと、先程の彼女なのだとわかった。


「あの!!入学式今日であってますよね!!」


式場の入り口とど真ん中は50m程。

彼女の声が式場中に響いた。


「あっ、すみません。声大きすぎた...」


確かに静まり返った式場ではそこまで声を張らずとも聞こえていたであろう。

恥ずかしがる彼女にニッコリ微笑んだクレッジが

応えた。


「ええ。本日でお間違いないかと。」


「よかった!ありがとうございます!!」


ハツラツとした笑顔で彼女がお礼を言ったあと、

僕と目が合った。三秒間ほど沈黙が続いたが、僕は挨拶をする。


「...初めまして!」


彼女は数秒黙って息を飲んだ。


「んわーーーー!!!!!」


不意に彼女が大声を発した。

クレッジは静かに耳を塞ぎ、僕はただただ唖然としていた。


すると彼女が持ち前の足で迫ってきて、僕のてをパッと掴んだ。


「あの!え?!初めて見た!!白い学ラン!え!なになになに!何の学部なんですか!?」


「えっ...!ぁ、普通の魔法科です....!...よ?」


「えじゃあなにその制服かっこよ!!?!?」


「この制服は...珍しいんですか...?」


「珍しいも何も!見たことない!!私、小学生からこの学校だったけど、一度もないです!!」


初めての出来事に目を輝かせている彼女へ親近感が沸いた。


「そうなんだ...!あの、僕は、ヌエット·パステルといいます。あなたのお名前をお聞きしても?」


「私はレイ·マヤノです!今日から高等部一年!」


「僕も!今日から高等部一年です...!」


「え!タメじゃん!!敬語使わなくていいよ!」


「....タメッテナニ?」


僕は『タメ』の意味がわからなかった。

こっそりクレッジに訪ねると、同い年という意味なんだそう。


「わかった!よろしく!」


改めて会話を立て直すと、レイはニッコリと歯を見せて笑った。


「よろしく~!」


式の2分前になると何やらぞろぞろと人がやって来た。


「あはは、今年も皆ギリギリ~」


レイがそう笑う


「いつもこうなの?」


「そう!大体の子達は中等部から入学してるから今日も寮からここにきてて、ギリギリでも遅れる心配ない~って感じ。だからいつも日程間違えたんじゃないかって心配になるんだよね~。高等部から新規入学してくるのは珍しいんだよ?」


高等部からの新規入学...そう言えば、クレッジが言っていた。『お父様が僕をこの学校に推薦した』と。


僕に興味がなさそうな父が僕をこの学校に推薦した意味...高校生からの入学だった意味...それが気になった。


「ヌエットくん?並ぶよ~」


考え事をしていた頭をハッと我に帰した。

もう式が始まる。皆学年ごとに並んでいるようだ。


「あ、うん!」


クレッジは大学部一年として入学のため、

僕とレイとは離れた列へと並ぶ。


それぞれの列を見回していると、

白い布を首から全身に纏っている生徒の隣には必ず二人の人がいた。



式が始まった。

普通の学校となんら変わりのない様子だった。


校長の長い話に目を擦る中等部や初等部の生徒たちをチラホラみかけて可愛らしく思う。


「新入学の特待生、前へ。」


という声を聞き、僕は前へ出た。


が、前に出たのは二人だけだった。


僕のすぐ隣へ出てきた彼は淡い金髪の男の子。下がった目尻とは対照的に、青色の瞳は真っ直ぐ前を見つめていた。


『護衛生徒の紹介』


またスピーカーから音がでてきて、

さらに四人が加えて前へ出てきた。


『オリバー担当、チョン·ミン。同じくオリバー担当、レイ·ハシモト』


彼の隣に二人が立つ。

どんな人なのか観察する間もなく、僕の名前が呼ばれる。


『ヌエット担当、クレッジ·カインド』


「!!!」


クレッジ!!


『同じくヌエット担当、レイ·マヤノ』


レイさんまで!なんとも安心感のあるメンバーだ。


護衛紹介が終わり、僕たちは再度列に戻った。


『次に....』


「せんせー!!」


司会の先生が続けてなにかを言おうとしたところで男性の声が聞こえた。


同じ声が続けて式場に響く。


「トイレーー!!!!」


男性は叫びながら式場外へでていってしまった。




...式場が、先程よりも静まり返って聞こえた。


『...えー、続きまして、担任紹介』


それぞれのクラスの列の前に一人一人先生が並ぶ。


レイの並ぶ列には、ガッチリとした体型の男の先生が立っていた。


僕の列には、キラキラと光が反射している白髪に目元が隠されながら時々さらりと見える紫色の瞳がミステリアスな男の若い先生が立つ。


それぞれのクラスの先生をチラリチラリとみながら、先程お手洗いに行った先輩の帰りが遅いことを気にしていた。


お腹を下したんだろうか...?


と考え事をしていた矢先に


【ガシャーン!!】


大きな音がなって、天井から先程の先輩が降りてきた。


「ごめん!しくじった!!ネオ逃げて~!」


知らない名前を呼ぶその先輩は即座に走り出す。無造作な黄色い髪は所々姿をみせる黒髪を連れ去ってゆく。


みんなどうしたら良いか分からず立ち尽くしていたがその中から人影が飛び出した。


それは、一人の華奢な男の子を抱えて走る姿だった。


「皆も逃げろ!!特に特待生!!逃げろ!!護衛は守りを固めろ!」


式場を走り出ながら大声で叫ぶ彼の声を聞いた。


するとレイさんが僕を抱えて走り出した!!


「よーくつかまってて!!」


「え!?はい!!」


空気が、僕の髪が、僕の顔を打ち付けるように荒ぶった。


「ねえ...!これって...!、侵入者がでたってこと...!?」


風の抵抗に抵抗して一生懸命声をだした


「多分そう!!あの先輩、ネオくんのことしか守ろうとしないけどね!」


「ネオくん...?」


「先輩が護衛担当してる特待生!」


「....あッ!!クレッジ!!」


クレッジを置いていってしまったのではないかと

僕は後ろを向こうとする。


「こっから道悪くなるから!喋ったり動いたりしたら危ないよッ!!」


レイがそう言いながら突然大きく跳躍した。


天井が目の前に迫ってくる...!!!

僕は咄嗟に目をつむったが、目を開けると、

そこは校舎の屋根の上だった。





突然異世界に来たかのような、のどかな景色に

気が緩んだ。


カタカタカタと速いテンポを刻みながら

屋根が音をならしている。


レイの息づかいが聞こえる。


自分の鼓動がよく聞こえる。





「レイ...」





ふと目の前にある彼女の顔に呼び掛けてしまった


「なんも心配いらないからね!」


「え...?」


「ヌエットには、指一本触れさせないから!私が守るから!!」





いつの日か同じ言葉を聞いた気がする



『ヌエットは私が守る。指一本出させない。』


誰の言葉だったか、思い出せない。

いつも頭のなかに浮かぶのは、目元が隠れた姿。


時々鏡をみるとフラッシュバックするいつかの記憶。


「ストーップ!!」


《!?》


レイと僕は突然目の前に現れたお手洗いの先輩に

驚いた。


「お手洗いの...!」


僕はつい口が滑った


「はは!お手洗いのか!とりあえず!ちょっとそこで待っててね。」


左の手のひらを僕たちの目の前に見せて、ステッキを握った右手から人差し指を立てながら

「シーッ」


と真剣な表情をする先輩をみて、レイも僕もなにも言えなくなった。


鳥のさえずりだけが残った。








「いいよ行って!!!」


それを言い捨てて黄色の髪はまた細い黒を連れ去る。


そしてレイは再度足を回し始める。


レイの腕のなかから遠くの林を見つめると、

黄色と黒の、二人の頭が見えた。


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ちょこまかちょこまか動きやがって侵入者...

ネオが逃げてくれたらそれでいーんだけどねぇ...

ほっとくと、せんせーや他のガキが煩いし。


「お前、護衛だな。一人か?頭が悪いなぁ、もっと考えて行動しなよ。護衛は一組二人のはずだろ?一人じゃ勝てないって。」


野郎がなんか言ってる。


「君こそ頭悪いよね~。護衛対象ほったらかして総員で戦いに行くの?脳筋じゃん。」


「あぁ...?お前、殺すぞ。」


すーぐキレる。やっぱ脳筋。


「怒りのボキャブラリー少なすぎ~。君マジで脳筋みたいだから、魔法下手?素手で戦ってもいーよ?」


そう言ってやったと同時に拳が飛んできた。


「さすが脳筋、速い速い。でも当たんないんじゃねぇ~」


次は魔方陣に周りを囲まれた。


「しまった!」


俺の周りに炎が吹き荒れる。


「熱い熱い!!!」


.....なーんちゃって。


「....なに?」


「やっぱり魔法下手なの図星だったんだ~。この程度の魔方陣、一瞬で解けちゃうんだよね。つまり攻撃が読めちゃう。だから俺は氷魔法を使って防げたわーけ。」


「ぁぁぁぁあ!!!なんだこのガキァァ!!!」


あーあ、うるさ。もういいや。


「え?僕がガキ?嬉しいなぁ、まだまだ若いもんだね。おじさん。」



俺はトドメをさそうとステッキを構えた。


「えい。」


『ドチューーン!!』


大きな音が響く。めっちゃ煩いけど、五月蝿いのがずっとギャーギャー言ってるよりかマシ......


変な匂いがする。


あれ...この匂い...俺の魔法じゃないんだけど?


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「よし!」


レイは、ステッキを付き出して汗をかきながら

ぐっと手を結んでいる。


「やったの....?」


僕は座り込んだまま、レイを見上げながら問う


「うん。倒しちゃった。」


「相手は死んだの?」


「死んでないよ。」


「そっか。」


よかった。


「ねぇ」


後ろから声が聞こえて、二人で振り向いた。


声をかけてきた相手は、あの先輩だった。

恐らく侵入者であったであろう人物を雑に肩に乗せていた。


「...さっきの、君?」


先輩はレイの方を向いて言った。


「まぁ...はい。勝手にすみません。」


「別にいーけど、コレ持って帰って。」


そう言って先輩は肩に乗せていた人物を屋根の上に叩きつけるように下ろした。


「あ、あ、あああ」


滑り落ちる、落ちる落ちる。


レイが侵入者をひょいと持ち上げた。

危うく落下死させるところだった。


「じゃあ。」


先輩はレイが人物を背負い込むのを見ると、

すぐに行ってしまった。




侵入者は先生たちにつきだし、

レイと二人で式場に戻ると、誰もいなかった。


足音がしてきたので、ふりかえれば

先程の先輩...と華奢な男の子と、彼を抱えて走り出していた彼。


お手洗いの先輩と目が合うと、三人ぼっちの時とは裏腹に優しい笑顔をしてみせてくれた。


その三人組の後ろからぞろぞろと皆が戻ってくる





『さて、全員無事ですね。それでは、式の続きをさせて頂きます。』


色々なことがありすぎてまだ動機が収まらない。


だけど、僕の人生は今始まったのだと確信した。


僕は沢山の出会いをした。そしてこれからも沢山経験するんだ。


もう箱のなかじゃない...。






式が終わると、クレッジと再会することができた。


「ヌエット様!!!!」


クレッジは僕を一目みてすぐに駆け寄ってきた。


「ごめんなさい、直ぐに援護に行けなくて、本当に申し訳ありません。」


そして、レイと僕に謝罪した。


「いやいや、全然。クレッジさんも無事でよかったです!」


レイがクレッジの背中をポンポンと叩きながら

クレッジを励ます。


「うん。無事でよかった。何かあったんじゃないかと心配だったんだよ。」


僕も思ったままのことを伝えた。


「実は...人に引き留められて...」


「誰...?」


【....僕のこと....?】


クレッジの影が動いたような、喋ったような。


【ねぇ、君クレッジって言うんだ?僕はね...】


クレッジの後ろにだれかいる。



それはまるで、クレッジとまったく同じ顔。


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第一話 「僕は出会った」終。








































































































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