第四十七話「思いが交錯する決定と対策」


「ああっ、良かった……これで二人が助かる……」


 俺は二人の背中をさすっていたが落ち着いたのを確認すると三人で抱き合った。本当に良かった。


「なので会長これにてハッピーエンドで、何より今は別に問題が発生してます」


「やむを得んか……あのバカ者共が動き出した以上、あちらが先か」


「ええ、あの亡霊共はNCグループのアキレス腱、片付ける必要が有ります」


 鋼志郎さんが凄い事を言ったような気がした。俺達を引き離すとか兄達を亡霊と言ったり、また混乱しそうだ。




「それは、どういう意味ですか?」


 だが俺の祖父への問は、またしても鋼志郎さんが答える事になる。


「まんまだ……俺は経営顧問、会社の不利益を事前に処理するのも仕事の内さ」


「不利益って……何が?」


「全てだよ、君の兄達も、それから君が守りたい二人もNCグループから見たら不利益そのものさ」


「兄達はまだしも二人が不利益とは思えません!!」


 つまりゴシップ……スキャンダルという意味だろう。ストフリ壊滅がニュースになればグループは若干の注目を浴びるだろう。それに二人も……だが彼女らは世間的には被害者で問題は無いはずだ。だが俺の認識は甘かった。


「そこそこのグループ企業会長の孫が女二人を侍らせ、しかも例の事件の関係者なら世間はどう見る? 事件のもみ消しと口封じ? 弱味を握って孫に女を与える極悪会長? はたまた障害者の女と交際し慈善アピール? 他にも陰謀論は尽きないな……」


「そんなこと!! 俺は二人を守りたいだけで!!」


「だから世間はそんな美談を求めていない。求めるのはドロッドロのスキャンダルと後味の悪い結末。人は自分のハッピーエンドを求めながら他人のバッドエンドも望んでいる。それが人の業だ悠斗」


 そう言われて愕然とした。つまり俺といると二人に迷惑がかかる。いや、それだけじゃない自分の振る舞い一つで祖父やグループ全体にも迷惑をかけてしまうんだ。


「そ、んな……」


「だから俺は会長の計画が失敗した時のための予備でお前らを引き離す役だった。もっとも今日、大きく状況が変わったから無しだがな?」


「うむ、悠斗よ二人の件だが今は一旦保留だ。かの組織が倒れた以上、関係者の過去を掘り起こすのがマスコミの常套じょうとう手段だろう」


 これから数時間後には警察発表が有るそうだ。そうなると犯人の人物像それに部屋の様子や私物さらに卒業アルバムまで晒すのがマスコミだ。祖父が先に対策するならマスコミの方だと言うのは納得できた。


「……そこで提案します会長」


「聞かせてくれ」


「この屋敷って部屋余ってますよね? ほとぼり冷めるまで紅林ちゃんと優姫ちゃんの二人を屋敷ここで保護した方が賢明です」


 それを聞いて度肝を抜かれた。保護といってるが結果的に二人と屋敷で一緒に住むという話だ。


「なっ!? 二人と同居なんて嬉し……じゃなくて問題が!?」


「取り合えず本音は隠せ悠斗、そういうのモテねえぞ? では理由の方も説明します会長。まず第一に可能性は低いですが彼女らの家にマスコミが突撃した場合、二人には防衛手段が有りません」


「なるほど、それで?」


「なすすべなく囲まれた後は証言は加工され映像も編集により奴らの都合のいい真実が作られる……なので最初から見える範囲で守るのがベストです」


 理にはかなっているが少し慎重過ぎる気もする。だが、これがリスクマネジメントというやつなのだろう。その後も様々な応酬が続いて俺は祖父と鋼志郎さん二人の話を聞いている事しか出来なかった。




「では以上を踏まえ……それ以外には?」


「あとは彼女たちの容態ですね。中和剤が確実に手に入るまで約一週間。その時にバラバラでいるより屋敷にいた方が安全かと」


「そこまで気にする事かね? 彼女らの容態は安定していると聞くが?」


 祖父が言うと優姫と紅林は頷いていた。だが紅林はともかく優姫は爆弾を抱えているレベルだと聞いている。油断はできないと思う。


「杞憂のし過ぎとは俺も思いますが万全を期して対応すべきです」


「なるほど……リスクを極限まで減らし安全を確保したい、か」


 祖父の指摘通り、やはり鋼志郎さんはリスクに異常にこだわっている。俺は二人の事を考えているから理解できるが鋼志郎さん側の理由が分からない。


「はい会長、俺は投資する時に言いましたよね? NCグループの上がりかねが欲しい。それを守るために少しのミスも犯したくないのです、俺の大事な計画のためにもね」


「君の計画……か、あの時の約定通り成果報酬だが相場の数十倍とずいぶん高いコンサル料だと思った。それで使い道は相変わらず秘密なのかな?」


「すいませんが、秘密です。俺の野望のためとだけ言っておきます」


 だけど俺には分かった。きっと何か壮大な計画に違いない。ここまで緻密かつ大胆な人だ。それこそ世界を相手にするレベルだろう。この人はそういう大きい世界で戦う人なんだと確信した。


「案外、普通に復讐とか?」


「何となく幼馴染関係かな? さっき反応してたし……」


 だが紅林と優姫は俺とは意見が違った。だから即座に否定する。


「二人とも鋼志郎さんが、そんな小さい事にこだわる人な訳ないさ!! 世界を相手に何かデカイ事業を起こすんですよね!? 尊敬します!!」


「……ま、まあな。とにかく利害は一致してます。いかがですか会長?」


 何か視線をそらされたが言っちゃまずかったのか? まさか俺の予想が当たって照れているのだろうか? そんな中で祖父が口を開いた。


「……今はNCグループ存続の一大事。孫のワガママは後で家族会議で何とかしよう。方針はこれで決まりだが……悠斗それに二人は構わんかな?」


「「「はいっ!!」」」


 俺達の返事が響き今日の集まりは終わった。こうして、この三日間だけで俺の運命は大きく動いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る