懐中時計
懐中時計が手に入れば
時間が巻き戻ると信じていた
一からやり直せたら
総ての過ちを正せるのに、と
未練も後悔もなく
瞋恚もなく悲哀もない
完璧な人生を取り戻したい
執着があればこそ、
分かれ道に置いてきた
半身の行く末を想う
望まぬ別れを強いられて
だからこそ 今も ずっと
分かれ道で手を振った
わたしとわたし
世界がふたつに裂けて
真夜中の対岸のような、もう一つを、
ずっと探していた
──ああ、そんなの有り得ない
わたしは、わたしだからこの道を選んだ
もう一つなんてない
あのときなんてない
未練も、後悔も、瞋恚も、悲哀も
選び取った わたし自身だ
この手を血に浸して
灼けた鉄を握りしめて
焼け爛れる皮膚に泣き叫びながら
掴み取ったのだ
燃えるような怒りに
目を赤く染めて、
ドス黒い後悔に
胸を焦がしながら、
尽きぬ涙の如き
雨に凍えて、震え、
砕け散った鏡のような
心を繋ぎ止めていた、
絡まった糸に
鋭利な時計の針を添えて
たやすく、やさしく、摘みとる
止まらない震えに体が強張って
でも、どこかで安堵していた
たとえ針を巻き戻そうと
畢竟、同じように生きただろう
すべてはわたしであればこそ
在るべくして生まれ
有るべくして生きた
だから、一秒を想う/一秒を刻む
どこから来て、なにをして、どこへ行く?
分かれ道などない
世界の境界まで続く、
透明なエーテルが光る、銀河の浅瀬を踏み締めた
手に持った懐中時計が、針を廻している
一秒を想う
/一秒を刻む
一歩踏み進む
/一秒を刻む
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