寝れない夜
ルビ
強の扇風機と床の私
夜でも蝉が鳴いている。今日はいわゆる熱帯夜と言われるような夜だ。
私の部屋は西日が最後まで当たり、夜遅くにならないと冷えない。
我が家のエアコン、いや私の部屋のエアコンは故障してしまって明日には業者の修理がやってくる。
頼りになるは扇風機。中でつけようか、強でつけようか悩みどころだ。
転んでから考えることにしよう。
スマホを手に取り、明日のタイマーをセットする。
私は通知が溜まっている状態が嫌だってなる人だ。
同じ思想の人が周りにいると思う。
溜まっている通知すべてを確認し、寝転ぶ。
扇風機は強、あまりにも暑いので中では無いに等しかった。
電気の消えた部屋では、扇風機の音と外で鳴く蝉の声だけが聞こえる。
ただ天井の方を向いて、目を閉じる。
あとは夢の世界に連れられるのを待つだけ。
そのはずだった。
『寝れない』
掛けているブランケットを剥ぎ取る。
無理だ。暑い。
ただそこにいるだけでベッドは私の熱を吸収していく。
いる場所が蒸し器のようになるので寝返りをうち移動する。
これもまた少しの動きで熱を発する自分の身体によって暑さを感じさせる。
手詰まりかもしれない。
親や妹はエアコンのついた部屋で寝ているのだろう。
そこで寝させてもらうのも良いのだが、絶賛反抗期かつ妹に嫌われている現状の私に行き先はない。
まずいことになった。
先程剥いで投げたブランケットを回収する。
くるくると巻いて厚みをもたせる。これで枕の出来上がり。
これを床にしいて寝てみよう。身体は痛いだろうが。
転んでみる。
床のひんやりとしたのが触れた肌から伝わってくる。これはこれは気持ち良いものだ。
だがやっぱり身体は痛い。思春期に入り丸みを帯びた身体が忌々しい。
主に腰、床に面する面積が小さいので横を向いて寝ることが出来ない。
まったくため息ものだ。
こうして時間を浪費していてもあまり時間は経っていないことが多い。
スマホをまた手に取り時間を見る。
さっきからまだ30分しか経っていない。早く寝たいものだ。
目を閉じる。でも寝ることは出来ない。
無心。小さい頃何も考えずに目を閉じていれば寝れる。と両親が教えてくれたものだ。
実践してみるがこれもまた虚しい。
どうやら目を強く閉じすぎているようだ。
今度は少し優しく閉じてみる。だが開く。
寝れない。
あぁそうか。今日はコーヒーを飲んだんだ。
カフェインを寝る前に摂取してしまった。
そりゃあ寝れないわけだ。
なんで人間はカフェインを摂取すると眠れないのだろう。これも忌々しい。
この部屋が暑いのもあるが無性にイライラしてくる。
湿気の多いこの国も嫌なものだ。
ジトジトした感触もまた床から伝わる。
うん?こんなに考え事しているのは無心でないということでは?
そうだ。無心。無心無心無心無心無心無心無心無心無心無s…
うん百回繰り返し。羊を数えるのと大差はない。
駄目だ。やっぱり無心の連呼は考えてる状態と変わらない。
もうどうしたらいいんだろう。
天井を見つめることしか出来ない。
あぁ。このまま朝まで寝られないのかな。
自分で自分の眼を見ることは出来ないが、たぶん虚ろな眼をしているのだろう。
くそぉ…コーヒーなんて飲むんじゃなかった。
人生を悲観してしまいそうなくらい気持ちは沈んでいる。
もう嫌だ………
爆音でタイマーが鳴る。蝉も鳴いている。
ドタバタと階段を駆け上がる音が聞こえる。
「お姉ちゃん朝だよ。」
「あっうん。」
朝、どうやら乗り切ったようだ。
人生の悲観が始まったあの時に無に達したのか。
やれば出来るじゃないか私。
寝不足って言うわけではないが微妙な疲れが身体に残っている。
床で寝たからなのだろう。
立ち上がり大きな伸びをする。
ラジオ体操の最初のフレーズがあるじゃないか、「ああ素晴らしい朝だ。希望の朝だ。」って。
全くそのとおりだ。素晴らしい。
私は寝る前にコーヒーを飲まない、と決心して階段を降りた
寝れない夜 ルビ @hushihikage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。寝れない夜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます