第35話聞けなくて、聞きたくて
聞きたい事は山程あるのに、言えなかった。
知るのが怖くて言葉に出来なかった。
それでも、意を決して言おうとしたけれど。
言う前に飛ばされてしまった。
「うるさい。うるさいよ奏多!!僕が悪いのはわかってる!!でもこうするしかなかったんだよぉっ!!」
そんな理久の悲痛そうな叫びが聞こえた。
魔界への入り口は探したけど見つからなかった。
凪先輩といつも一緒に来ていたからいけただけで。
俺一人で行ける場所では無かった。
何となく、そんな事はわかっていた。
けど、何か手がかりがあるんじゃないかと彷徨いた。
それで終わった。
それから、凪先輩に会うのが怖くなった。
会いに行こうとしても足が止まって動かない。
会うのが怖い。
会いたいのに会いに行かない。
会って拒絶されるのが怖かったんだ。
誰?なんて言葉を聞きたくなかったんだ。
そんな事凪先輩の口から言われたら。
きっと俺は耐えられなくなるから。
それがわかっているから。
それくらい自分が狂っている事なんてとっくの昔に自覚していた。
自覚していたから、会わなかった。
俺が弱かったから。
そのまま五年の月日が流れた。
凪先輩のいない時間はとても長く感じた。
長くて、退屈で仕方なかった。
もっと早く過ぎ去ってくれれば良いのに。
塔の方向を眺めて意味の無い歌を歌った。
効果もなんもない歌。
なんの意味もないのは分かってるけど。
それでも歌わずにいられなかった。
凪先輩を思って歌わずにいられなかった。
その時間は確かに自分のような気がした。
自分でいられた気がした。
五年の間に自分の中でも何か変化していった気がした。
五年というのは変わるには十分な長さだった。
いつの間にか俺の中には二つの自分がいた。
王宮の中で過ごす王候補としての神海 美空。
凪先輩を想っている神海 美空。
多分、外面だけ眺めるとどちらも変わらないように見えると思うけど。
内側や恋心は全然違う。
だって俺は本当は。
誰にでも優しい王子様なんてやめてしまいたいなんて思っている。
みんなの王様なんてやめてしまいたい。
そもそもそんなの俺に合わない。
お母さんの愛情だって要らない。
俺には重すぎるし、そもそもそんな目で見れない。
母親をそういう目で見れる奴の方が頭がおかしい。
それでも、表面的にはちゃんと演じ続けた。
ちゃんとまともな王子様でいられた。
周囲からの称賛と、多くの人たちからの歓声がそれを証明していた。
今じゃ学園の生徒会長だ。
まだ10歳なのに。
歴代最年少だって言われた。
「美空くんのような優秀な生徒がこの学園の生徒会長になってくれて嬉しいよ」
そう言った学園長。
手渡されたのは生徒会長専用のセーラー服。
丁度、歌を歌う時に着る服と似ていたから、乾いた笑みが溢れた。
(俺は、本当は優秀でも何でもないよ。少し他人より出来るだけ)
それだって、努力しなきゃ置いていかれるかもしれない。
きっと誰も気が付かないだろうけど。
死に物狂いで訓練しているから。
多分、本当の俺なんてものは凪先輩の前でしか存在しないだろうけど。
凪先輩の姿が見れたあの日、凄く嬉しかったよ。
凪先輩へ会えたのが凄く嬉しくて。
何度声をかけようと思ったか。
でも、声をかけて俺が凪先輩の事が好きなのがバレてしまったら、母さんに何をされるかわからない。
そう考えると、無言を貫く事しか出来なかった。
でも、見ている時間凄く楽しくて。
一生懸命目で追っていた。
一つ残らず記憶に残したいなんて思いながら。
凪先輩があの兄弟達に負ける訳が無いのはわかってたから。
そこは安心してみれた。
そもそも、凪先輩は凄く強い。
「一応武術に関しては奏多に特訓して貰ったし、理久にも魔術は見て貰ったから」
昔そんな事を語っていた。
そんな凪先輩が王宮のなかでぬくぬく育ってきたこいつらに負けるはずがないから。
ただ、凪先輩の事を玩具にしようとするこいつらの態度にはイラついていたから。
俺が王になったら纏めて排除してしまおうと思った。
凪先輩が本気をだして一掃した時。
兄たちは颯太を引きずり出した。
颯太は俺と同じ呪い持ちだから普通の人間に比べて遥かに優秀だ。
でも、そんな事に兄達が気づくはずもない。
精々肉壁として使うだけだろう。
だけど、颯太に声をかけて、颯太が嬉しそうにした時、嫌な予感がしたんだ。
どこかで、この光景をみたことあるような。
既視感を覚えてしまったんだ。
なんだか、俺の時みたいに、颯太が恋に落ちる。
そんな気がして。
当たらなければ良い。
そんな予感は。
そんのな嫌だよ。
俺だけで良いの。
けど、予感は的中した。
「最近、颯太は呪い子の塔に閉じ籠っているみたいなんだ。そう言えばお前も昔あの森によくいっていたなぁ」
なんて父さんが言った。
俺が塔に行ったことは誰も知らない。
そもそも塔自体が森の奥の方にあり、警告の看板がいくつもたてられている。
俺がそんな所に行くイメージが無いんだろう。
ずっと、優等生でいたから。
颯太は鍵を借りて会いに行っているんだ。
なんて思った。
「呪い子を手懐けてくれるなら願ったり叶ったりってところだ」
なんて言いながら夕御飯を口に運ぶ。
手懐ける、か。
そんなに簡単な生き物じゃないよ。
凪先輩は。
手懐けることなんてできないよ。
それどころか魅了されるだけだよ。
だって凪先輩は希望みたいなんだもの。
いつだって明るくて。
助けてくれて。
...、でも、凪先輩が絶望したら。
どうしようもなく絶望的な状況になって、心の奥底から絶望する時が来たら。
そしたら俺は、どうするんだろう?
ふと、そんな事を考えたけど、あり得ないと思考をそこで停止させた。
気がつくと、颯太の呪いは解けていた。
きっと凪先輩が解いたんだろうな、なんて思った。
そして、そこまで仲良くなったんだ、なんて嫉妬した。
嫉妬なんかしたって何にもなんないのは知っていたけど。
それでもせずにいられなかった。
そんな俺とは対称的に、颯太は浮かない顔をしていた。
呪いの解呪。
その結果で何かあったんだろうか?
俺のために頑張るって言ってくれた。
一番最初は俺がよかったな。
それにしても、呪いの解呪が成功しただけでも喜ぶべき事だと思うけど。
どうして颯太はそんな浮かない顔をしているんだろう。
喜ぶべきことだと思うんだけどな。
まぁ、いいか。
別に俺には関係無いことだし。
気にしていたって俺と凪先輩の関係が良好になるわけでもないし。
でも、記憶を失っても止めないでくれたんだ。
解呪。
...、凄く嬉しいな。
颯太の事なんて気にしなくていいやって思うくらいに。
それって俺との約束をとても大事な物だと思ってくれていたって事でしょ?
一番大事なものって思ってくれていたんでしょ?
理久との思い出よりも。
そうやって喜んだけれど、それでも会わなかった。
いや、会えなかった。
俺だって嬉しくて。
それならきっと会ったって思い出してくれるかもなんて浮かれていたけれど。
現実は思ったよりも残酷で。
そんな簡単なものではなかった。
久しぶりにあの塔へ訪れたら、入り口にバリアが張られていた。
触ってみると手を弾き返してきて。
元々こんなバリアなかったはずなのに。
なんだかおかしい。
手を深く突っ込んでみても、弾き返してくる。
塔の周囲を見渡してみると、何も変わっていなかった。
本格的に監禁しようと、設備を強化したのだろうか?
そんな事するはずがない。
そんな事に金を回すくらいなら、別の事に金を回すはずだから。
だとしたら誰が何の為に?
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