第8話 自殺

  朝になった。


 ジェミニは一人で目を覚ました。隣にツインはいない。

 ――ツインは行ってしまった。

 ジェミニは何かを決心するように起き上がり、自分の顔を鏡で見る。

 夜の事は後悔はしていない。


 その時だった。

 家に誰かが訪ねてきた音がした。


 偉い魔女の一人がジェミニの部屋にノックもせずに入ってきた。

「ジェミニ、急いで支度をしなさい」

「…何かあるんですか」

 随分と急いだ様子の魔女に、ジェミニは不思議そうにたずねる。

「僕を消すのは午後のはずでは?」

「事情が変わった。お前は消さない事になった」

「どうして」

 ジェミニは緊張しながらたずねる。


 ジェミニの赤い目にじっと見つめられ、魔女は少したじろいだ。


 そして、少し言い淀んだが、すぐに答えた。


「ツインが、自殺した。今朝、毒を飲んで自宅で死んでいるのが発見された」


 魔女の事務的な声だけがハッキリきこえ、その他音は全く聞こえなくなった。


「自殺ですか」

「…思ったより冷静ですね」

 魔女はそう言ってジェミニを見た、が、その表情にギョッとした。

 恐ろしいほどの無表情。

 不気味な赤い目が、死んだように光を失っていた。


「それで、僕は一体何をしに?」

「ツインの自殺について、大騒ぎしている者がいるんだ。ツインの母親なのだが。ツインが自殺したのは、ジェミニ、お前のせいだと喚いている。こちらとしてもツインの件は青天の霹靂で。一応お前に話を聞かなくてはならないんだ」

 魔女は説明する。

 その間も、ジェミニはずっと何を考えているのか分からない顔をしたまま、すっとどこか一点を見つめたままだった。


「ともかく、一緒にきてもらうよ」

「……わかりました」

 ジェミニは素直に頷き、魔女についていく。


 家を出る時、ジェミニの母親がチラリとジェミニを見た。

「命拾いしたのね」

「残念でしたか。僕が消えなくて」

 ジェミニのその言葉に、母親は少し驚いた顔をした。

「そんなこと思ってないわ」

「え」

 ジェミニは驚いて母親を見つめた。

 しかし、魔女に急かされてしまい、その後何も話をすることもなく家を後にした。


 ずっとジェミニは母親に疎まれていたという自覚はあった。一緒に食事をした覚えはほぼ無く、話もほとんどしなかった。

 自分が邪魔なんだと思っていた。


 …いや、邪魔だったのかもしれない。しかし母親なりに一応情はあったのかもしれない。


「もう少しわかりやすい人であってほしかったなぁ」

 ジェミニは魔女に付いて歩きながら大きなため息をついた。




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