第5話【急募】義兄からプロポーズの言葉が届いた時の対応
※クロエ視点
土曜日の夕暮れ、お母さんに連れられて顔合わせの食事会をする洋食店にやって来ました。そのお店は神楽坂の石畳沿いに佇む一軒家の小洒落たレストランで普段ファミレスしか行かない私にとっては無意識に背筋が伸びてしまう雰囲気のお店です。
お相手の家族の方はすでに到着しているとのことで、お店の人に案内されて会場の個室に入ったのですが、その光景を私の脳が処理できません。もちろんこれから家族になるかもしれない人と初めて会うわけですから、緊張と不安が入り混じっていましたが、それが原因ではありません。
部屋の中にいたのは二人の男性で一人はお母さんと同じくらいか、少し年上の方で爽やかなブルーのシャツに紺色のジャケットを羽織っています。
問題はもう一人です。
事前の情報では私より少し年上で男の子ということでしたが、そこにいたのは、身長が一八〇センチ以上の長身で、初対面ではちょっと怖い人かもと思ってしまうような目つきのクラスメイトだったからです。
「よ、四元君!?」
ど、どうして、四元君がこんなところに!? お店の人は私達を案内する部屋を間違えたのでしょうか。
一瞬、お母さんの方に目をやりましたが、お母さんの様子を見るに部屋を間違ったということはなさそうです。ということは、お母さんの再婚相手というのは四元君のお父さんということになります。
「あら、知り合いなの」
お母さんから四元君との関係を聞かれましたが、何と答えればよいのでしょう。友達とまで言うと言い過ぎな気がします。逆に知合いとだけ答えては素っ気なさすぎというものです。
私が何と答えればいいか迷っていると、四元君の方から自己紹介と一緒に同じクラスだということを答えてくれました。
学校ではほとんど話すことはないので同じクラスだという間柄はその通りだと思うのと同時になんだか胸が小さくチクっとします。
しかし、これ以上取り乱してはいけません。今日はお母さんの再婚に向けた大事な両家の顔合わせの日です。粗相のないように行儀よく愛想のいい子でいなければと事前に自分で決めていましたから、そのとおりに振舞わなくてはいけません。
席について前菜が運ばれてくる頃には、私はだいぶ落ち着きを取り戻してきました。お母さんから再婚の話を聞いた時に少し年上の男の子がいるということで不安に思っていたのですが、今ではそれもありません。
でも、不安な気持ちがどこかに行ってしまったのと同時に、どうして今日はこんなに地味な服にしてしまったのだろうと急に後悔の気持ちが沸き上がってきました。
もっと可愛い服も持っているのに。そっちを着れ来れば良かった。
もちろん、今日は両家の顔合わせの場ですから目立つようなことをする必要はありません。そう、お弁当のパセリくらいの存在感であれば良いと思ってこの服にしたのです。
とはいえ、四元君に私服が可愛くないと思われていないか、ちょっと心配です。
やっぱり、悩み事はなかなか減らないようです。
●
ボフッと枕に顔を埋めて、大きく息を吐き、そのまま身体の力を意識的に抜いてリラックスしようとしました。
会食は和やかな雰囲気のままお開きになったので、成功と言っていいと思います。
帰り道でお母さんから相手の家族についてどうだったと聞かれて、いいと思うよと答えました。お母さんと四元君のお父さんはいい雰囲気だったと思います。
ただ、私と四元君はというと、当然ですがお互いに学校にいる時よりもぎこちないものでした。
枕の横に置いていたスマホを手に取って仰向けになるとRineを起動させました。
新しく登録された四元君のアイコンを見ながら、何か挨拶の一つでも送った方がいいなと思ったその時、着信音と同時に四元君とのトーク画面にメッセージが表示されました。
『一緒に幸せになろう』
「ふぇぇっ!?」
思わず普段出さないような声が出てしまいました。
このメッセージって……。
いくら学校で背が低いからといってお子様扱いをされるような私でもこの言葉がどういうときに使われるくらいかはわかります。
ど、どうして、四元君はいきなりこのようなメッセージを送ったのでしょう。私と四元君はお付合いもしていませんし、デートをしたこともありません。それなのにいろいろすっ飛ばしてしていきなりプロポーズの言葉なんて……。
普通は初メッセージでいきなり『一緒に幸せになろう』などと送られれば秒でブロックしてしまうくらい引いてしまうものです。それなのにどうして私がそうでないかといえば……、好きだからです。
私は四元君のことが好きです。
この気持ちは誰にも話したことはありませんし、バレないように細心の注意を払っているつもりです。それにもかかわらず、四元君からこのようなメッセージが届いたということは、私の知らないところでこの気持ちがバレてしまっているのでしょうか。
取り留めなくいろいろな考えが次から次へと浮かんできますが、まずは何か返事を送らなければいけません。
返事のメッセージを考え始めてすぐにふと思ったのです。
本当に四元君はこの言葉の意味をわかっているのだろうかと。
あの四元君なら深い意味なく『一緒に幸せになろう』というメッセージを送ってくる可能性があります。ここで私が『不束者ですがよろしくお願いします』と送ってしまっては、告白しているのと同じようなものです。
冷静さを取り戻した私は両方の可能性を考えながらぎりぎりのメッセージを作成しました。
『こちらこそ末永くよろしくお願いします』
メッセージを送信すると、すぐにスマホの電源を切って鞄の中にしまいました。こんな状態で枕元にスマホがあったのでは落ち着いて寝ることなんてとてもできませんから。
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たくさんの応援ありがとうございます。★★★が100を超えた記念で書き始めたらいつの間にか150くらいまで増えていました。
連載化希望のコメントありがとうございます。
気付けば、お試しのプロローグにもかかわらずたくさんの声援をいただき本当に嬉しいです。
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