第13話 夜間偵察ミッション 前編

 農場からギルドに向かったゲオルグさんを追ったのだが、結果的に俺たちの依頼はキャンセルされ、無駄骨となってしまった。更にギルドマスターとの会話から、ギルドはこのゴブリンの増加現象に対して調査を行う、との事だったが。俺としてはギルドの危機感が薄いように感じていた。そして翌日、俺たちはゴブリン討伐の為の森に来ていたのだが……。



「全員ッ!今すぐ走れぇっ!!!」

 迫るゴブリンと思われる大量の足音と鳴き声を耳にした俺はすぐさま叫んだっ!ここに居たら絶対に危ないと本能が警鐘を鳴らしているっ!


「う、うわぁっ!」

「ま、待ってぇっ!」

 すると怯え切っていた4人のリーダー格らしい男が真っ先に逃げ出し、他の3人もすぐさま後に続いた。

「ミラッ!マイッ!お前たちも走れぇっ!」


 俺は2人に向かって怒鳴るように指示しながらも、手にしていたMP7の、マガジンの残弾全部を横なぎに、ゴブリンたちがいるであろう方向に向けて放ったっ。


 当てるつもりはないっ!牽制だっ!

「カイトさんっ!」

「カイトッ!」


 2人の声が聞こえた俺はすぐさま踵を返して走り出した。2人とも既に先を行く4人の後を追っていた。


 俺たち3人と前を走る4人は、森を抜けるために、後ろから迫る足音に飲まれないために、必死になって走ったっ。 


 しかし逃げる俺たちに対してゴブリンどもは諦めた様子がないっ!今も後ろから何十という足音とゴブリンどもの汚い叫びが聞こえるっ!クソッ!


「しつこいんだよっ!」

 空になっていたマガジンを抜いて投げ捨て、新しいのを差し込みボルトリリースボタンを押して初弾を装填。足を止めて振り返り、薙ぎ払うようにフルオートで全弾ぶっ放す。


 2、3発当たったのか僅かに悲鳴が聞こえるが、それだけだ。それでも連中は止まらず追ってくるっ!

「くっ!」

「何してるのカイトッ!」

「カイトさん早くっ!」

 その時後ろから放たれたミラとマイの牽制射撃。その隙に俺は再び走り出した。2人に追い付き、並んで走り出す。


 しかし、相変わらず後ろから聞こえる無数の足音と叫び声。

「どうすんのカイトッ!このままだとあいつ等を森の外まで連れてっちゃうわよっ!?」

「で、でも森の外なら遮る物が無いから、私たちの銃で一網打尽に出来るんじゃっ!?」

「いやっ!さっきまでの戦闘で弾も消費してるしっ!流石にゴブリンの総数も分からないっ!俺たち3人だけの一斉射撃で倒せる数か分からない以上、足を止めての迎撃戦は危険だっ!!」


 俺はマイの提案にそう返したっ。実際、足を止めるのは危険だっ。一か八かの迎撃戦になるし、失敗して突進してくるゴブリンの群れに飲まれたら、一巻の終わりだっ。


「だからってこいつらをこのままにはっ!」

「あぁっ!分かってるっ!」


 どうにかしてゴブリンどもの追撃を止めないとっ!何かないかっ!と、装備を見回していると、昨日取り寄せたばかりの非殺傷手榴弾2種が目に入ったっ!これだっ!こいつを使うしかないっ!


「マイッ!悪いけど俺のMP7持っててくれっ!」

「えっ!?は、はいっ!」

 俺は手にしていたMP7を、隣を走っていたマイに手渡す。マイがMP7を受け取ると、リグに装備していた手榴弾の一つ、まずはスモークグレネードを手に取り、安全ピンを抜いたっ! そして後方の、適当な場所に向かって投げたっ!握っていた手からグレネードが離れた事で、バネの圧力により安全レバーが外れるっ!


 俺は肩越しに振り返りつつ走る。グレネードは、大体安全レバーが外れてから5秒程度で起爆、もしくは作動するっ。

『5、4、3、2……』


 心の中でカウントしながら、もしグレネードが作動しなかったら、という不安に駆られていた。だがそれは杞憂に終わった。


 カウントを数え切った直後、突如として白い煙がグレネードの落ちた茂みの中から周囲に噴出した。グレネードの上部と底部にある穴から噴き出した白煙が、瞬く間に周囲に広がっていく。


『ギッ!?』

『ギギャギャッ!?』

 それに驚いたのか、ゴブリンたちの戸惑う声が聞こえると共に足音の大半が止まったっ!よしっ!


 だがあれは所詮ただの煙だっ!煙の壁さえ超えられてしまえば無意味っ!って事で、もういっちょ行きますかっ!!


「ミラッ!マイッ!絶対に振り返るなよっ!フラッシュで目をやられるからなっ!」

 俺は叫びながら足を止めて振り返り、2個めのグレネード、フラッシュグレネードを取り出し、ピンを抜いて、スモークの向こう側目がけて少し高めに投げつけた。フラッシュグレネードが白煙の向こうに消えていくのを確認すると、俺は踵を返して走り出したっ!


 数秒の間を置いた直後。後ろから甲高い炸裂音が響き渡るっ!ッッ~~~!ヘッドセット装備してるってのにあの音には流石にビビるぜっ!

『『『『『ギギャァァァァァァッ!?!?!?!?』』』』』

 さらに続いて聞こえてきたのはゴブリンどもの悲鳴だっ。だが足は確実に止めたようだっ!どんどん声が遠ざかって行くっ!


「か、カイトッ!ゴブリンはっ!?」

「大丈夫だっ!スモークとフラッシュで混乱してるんだろっ!追って来てる様子は無いっ!」

「うぅっ、びっくりしましたぁっ!」

 フラッシュに驚いたのか若干涙目のミラとマイ。

「驚くのは後だっ!とにかく逃げるぞっ!」

 俺はマイが差し出してくれたMP7を受け取りつつ叫ぶ。

「わ、分かってるわよっ!」

「はいぃっ!」

 ゴブリン連中の足は止めたが、時間が経てば視力や聴力は回復するし、スモークも風に流れて消えてしまう。とにかく今の内に距離を稼がないとっ!俺は2人を急かしながらも、とにかく森を抜けるために走り続けた。



 それからしばらく走り続けていると、俺たちはついに森を抜けた。

「ハァ、ハァ、ハァッ!」

 肩で息をするほど、荒い呼吸を繰り返しつつもすぐに振り返り、森の方へとMP7を向けつつ、周囲を見回す。


 耳を澄ませるが、ゴブリンどもの足音や喚き声は聞こえない。

「どうにか、逃げ切れた、か」

 肩で息をしつつも、連中を巻いた事で安心感と、逆にドッと疲れが押し寄せてきた。緊張状態だったし、アドレナリンの効果が切れたんだろうか。


 だが、今はそれは良い。とにかく確認しなきゃいけない事がある。

「ミラッ、マイッ。2人とも大丈夫か?怪我は?」

「ハァッ!ハァッ!だい、じょうぶよっ。何とかね」

「私も、ですっ」

 2人に声をかけ、とにかく怪我が無いか確認。大量の汗を流し、荒い呼吸を繰り返しているが、見たところ出血などは無いようだな。


「よし。もし違和感とか痛みがあったら念のため言ってくれ。軽い気持ちで大丈夫だろうって判断するのは危険だからな」

「ハァ、ハァ。わ、分かったわ」

「はいぃ」

 2人とも疲れているからか声に元気が無い。……まぁ、こっちの4人は俺たち以上に元気が無さそうだが。


 なんて考えながら、先ほど俺たちと合流した4人組に目を向けた。彼らも、肩で息をしていた。そんな彼らの元に歩み寄る。

「おい、アンタらも大丈夫か?」

 膝に手を突き、荒い呼吸を繰り返していたリーダーらしい男に声を掛ける。


「あ、あぁ。何とか、な」

 息こそ乱れていたが、森の中で遭遇した時に比べれば顔色は幾分かマシになっていた。逃げ切れた事に安堵してるのか?まぁ良い。今はそれより聞きたい事もある。


「なぁ、アンタら森の中で何を見たんだ?俺たちと遭遇した時は酷く怯えてたし、何か言いかけただろ?」

「ッ、あ、あぁ。そうだったな」

「出来れば俺たちにも何を見たのか教えてくれないか?助けたお礼、って訳でもないが。森に未知の脅威が存在してるのは俺としてもあまり好ましくないしさ」

「……分かった。確かに助けてもらった恩もあるし、話すよ」


 リーダー格の男は納得した様子で頷くと、少し息を整えてから話し始めた。ちらりと周囲を見ると、ミラとマイ、それに残りの3人も俺たちの会話を傍で静かに見守っていた。


「俺たち4人は、森の奥に向かってたんだ」

「ゴブリンを狩るために、だろ?確か遭遇した時そんな事言ってたよな」

「あぁ。浅い所じゃ他の冒険者たちとゴブリンの取り合いになるからって事でさ。でも森の奥でゴブリンを探してたら、群れを見つけたんだ」

「群れ?ゴブリンのか?」

「あぁ。チラッと見ただけでも50匹以上の大きな群れだった」


「「「ッ!!」」」

 50匹以上、という単語に俺を始めミラとマイも息を飲んでいるのが聞こえる。

「もしかして、それがさっきアンタたちを追ってたやつらか……っ!?」

「いや、違う。あいつらじゃないんだ」

「えっ?」

 もしかして、と思い問いかけてみたが、彼は違うと言って首を横に振った。


「俺たちは最初、その群れに気づいて隠れたんだ。でもあいつら、まるでどこかに向かってるみたいでさ、何かあるんじゃないかと思って、距離を取って追いかけたんだ。そこで、見つけたんだ。『ゴブリンの、集落』をっ」

「ッ!?なんだとっ!?」


 怯えた様子で話す彼の口から聞こえてきた、思わぬ単語に思わず声を荒らげてしまった。傍でミラとマイも目を見開き絶句していた。

「ゴブリンの集落ッ!?本当なのかっ!?」

「あぁっ、間違いないっ。俺たち4人とも、群れを追って行った先で見つけたんだ。森の中を結構歩いて行った先、森を抜けると平地が広がってる場所があるんだ。そこで見たんだ。ゴブリンどもが集まって、人間の村みたいに生活してたんだっ」

「……マジ、かよ」

 ゴブリンが集団で生活する魔物なのは知っていた。その生活に関しては、前世の記憶がある俺からすると、原始人のそれに近い物だった。狩猟や略奪により生活し、小さくとも10匹程度から、多ければ100匹以上のゴブリンが集まってコミュニティを作り生活している。


 そのこと自体は知っていたが……。

「なぁ、そのゴブリンの集落に、ゴブリンはどれくらい居た?」

「分からないっ。多すぎて数とか数えてる暇も無かったんだっ。実際、集落を見た瞬間、怖くなって逃げ出したんだ。でも逃げる途中で、ゴブリンの群れに見つかって……」

「それがアンタらを追って来てたって訳か」


 どういった経緯でこいつらが追われていたのかは分かった。しかしゴブリンの集落って、マジか。チラッとミラとマイの様子を見るが、2人ともゴブリンの集落と聞いて驚きつつも、危機感を募らせているのかミラは表情が険しく、マイは少し怖がっているようだった。しかしゴブリンの集落があるのなら、ギルドに報告すべきだよな。


「なぁ、アンタらはこの話、ギルドに報告するのか?」

「あぁっ、あんなデカいゴブリンの集落があるなんて、無視できないし。今からギルドに戻って報告するつもりだ。……そっちのアンタたちは、どうする?」

「そうだな」


 問われてしばし俺は考えた。まだ予定の数まで耳を集めた訳じゃないが、正直ギルドが彼らの話を聞いてどう反応するか気になる。ここは、一緒に行くか。

「俺たちもギルドに戻るよ。正直、ギルドが何て言うか気になるし。ミラとマイも、それでいいか?」

「……まだ予定ほど稼げてないけど、でも確かにそっちの話も気になるし。アタシは良いわ」

「わ、私もです。かなり、気になるので」

「分かった」


 という訳で、俺たち3人も4人組と共にギルドへと戻って行った。ギルドに戻った俺たちはすぐさまギルド職員に声をかけて、ギルマスに報告したい事がある、と伝えた。対応してくれたギルド職員のお姉さんは少し困った顔で『今は森の調査に向けての会議中ですぐには……』と伝えてきた。


 しかしリーダー格の男が小声で『森でゴブリンの集落を見つけたんです』、と報告すると、職員のお姉さんは目を丸くし飛ぶ勢いで奥へと走って行った。


 そして5分と掛からず戻ってきて、少し慌てた様子で俺たちを奥の部屋に案内した。

「失礼しますっ、例の冒険者たちをお連れしましたっ」

「来たか、入れ」

 お姉さんがドアをノックすると中からギルマスの声が聞こえてきた。それを確認すると、お姉さんが俺たちを中へと促す。


 促されるまま中に入ると、そこに居たのはギルドマスターだけじゃなかった。ギルマスの傍には4人組の冒険者が居た。これまた男女2対2の冒険者パーティーだ。それぞれが椅子に座っていたり、壁に寄り掛かっていたりしている。


 その顔に見覚えは無いが、ただ見ているだけで分かる。少なくとも俺たちよりランクが上の冒険者だ。所々使い込まれた装備や男性陣の服の上からでも分かる引き締まった筋肉。何よりギルマスが傍に居るのに気負った様子が無い。


 対して俺たちと一緒に入って来た4人はギルマスが居るからかかなり緊張している様子だ。

「まぁ、適当な所に掛けてくれ」

「は、はいっ!」

 4人組は緊張した様子でギルマスが座っているソファの、対面のソファに4人全員が並んで腰を下ろした。俺は、とりあえず適当な壁際に移動する。するとミラとマイもそれに倣い、俺の左右に立った。


「さて、早速だが本題に入ろう。先ほど職員から、お前たちがゴブリンの集落を発見したと聞いた。間違いないか?」

「は、はいっ、俺たち4人が発見しましたっ」

「ん?ちょっと待て。なら後ろの3人は?」


 話をしていると、ギルドマスターの近くにいた、大剣を背負った褐色肌の男が声を上げた。

「え、えと。彼らは俺たちが集落を発見した後、ゴブリンの群れに見つかって逃げてた所を助けてくれたんです」

「成程、そういうことか」

 褐色肌の男は、話を聞くと納得した様子で頷くとそれ以上は何も言わなかった。


 その後、4人組のリーダーの男がギルマスらに状況を説明した。


「むぅ。ゴブリンの集落、か。その規模は分かるか?」

「い、いえ。流石に詳しくは。最低でも200匹か、300匹は下らない事は分かりますが、詳しく観察する間もなく、怖くなって逃げてしまったので」

「そうか。……まぁ無理もない、か。とにかく大まかでも良い。集落がある場所を知りたい。待ってろ、今地図を持ってくる」


 そう言ってギルマスは席を立ち一度退室すると、しばらくして地図を手に戻って来た。それを2つのソファに挟まれる形で真ん中にあったテーブルの上に広げた。

「地図の見方は分かるか?大まかな位置で良い。教えてくれ」

「え、えぇっと。た、多分この辺り、だと思います」


 リーダー格の男は、少し自信無さげな様子で地図の一部を囲うように指先で円を描いた。

「そうか」

 ギルドマスターはそれだけ言うと、一度ソファに体を預け、腕を組み静かに何かを考えていたようだ。やがて、ギルマスは近くにいた中堅らしい冒険者たちの方へと目を向けた。

「ゲイル。どうやら当初の予定通り、お前たちに調査を頼む事になるな。ただし内容は変更し、連中の集落の位置と大よその数の把握、という事になるだろう」

「分かった。もとより調査に行く予定だったんだ。こちらとしては、何の問題も無い。皆もそうだろ?」

「あぁ」

「まぁ、その分プラスアルファの報酬は欲しいけどねぇ」

「もうっ、アマンダッ。不謹慎ですよ?」

 リーダー格の男に、盾と全身の金属鎧が特徴的な大男が頷く。狩人らしい恰好の女が報酬の事を口にしながら笑みを浮かべ、それをもう一人の、木製の杖を持っている女性が窘めている。


 見た目からして、リーダー格の男が剣士。盾装備のが文字通りタンク。狩人風の女は傍に弓と矢筒があるから、弓兵兼斥候と言った所か?最後の1人は、装備を見る分には僧侶か、この世界における魔法使い、『魔法士』だろうか?どちらにしてもバランスの良いパーティーみたいだ。


 ギルマスに呼び出されて調査の指示を受けている辺り、中堅冒険者なのは間違いないだろうが……。なんて考えていると。

「しかしギルドマスター、一つ良いか?」

「ん?なんだゲイル」

「こいつらの話の通りなら、ゴブリンの数は200匹を超えるそうじゃないか。しかも集落に下手に近づいて気づかれれば、こいつらがさっき森でゴブリンの群れと追いかけっこしたように、俺たちも追われかねない。となれば、見つかるリスクを少なくするために調査は夜に行う事になる。だが、4人だけだと流石に心もとない。最低限、周囲を監視する目として使える人員が欲しい」

「夜目の利く奴らを集めろ、ってのか?しかしそんな簡単にはなぁ」


 ゲイル、と呼ばれたパーティーのリーダーらしい男の言葉にギルマスは渋い顔をしている。夜目の利く奴ら、ねぇ。俺の場合はそんな話を聞いて真っ先に思い浮かぶのは暗視装置だな。まぁあれがあれば夜の森を歩くのも幾分か楽になるだろう。


 なんて考えていると。

「……お前たちはどうだ?夜での活動に自信はあるか?」

「い、いえっ!残念ですが俺たちにそんな経験は無いんでっ!足を引っ張るだけ、かと」

 ギルマスに声を掛けられた4人組のリーダーが首を勢いよく横に振っている。他の3人もだ。

「そうか。……っと、そっちの3人。お前たちはどうだ?」

 すると今度は俺たちにお鉢が回って来たな。チラリと左右を見ると、ミラとマイは俺に目を向けていた。俺が答えろ、って事か。一応、伝えるだけ伝えておくか。


「俺たちも夜間での戦闘経験とかは流石に無いですね。ただ」

「ん?ただ、なんだ?」

「俺の持ってる道具に、夜間でも昼間並、とは行きませんがそこそこ視界を確保できる道具があるんです。それを使えば、まぁ周囲を警戒する目くらいにはなれるかと」

「なに?そんな道具があるのか?」

「えぇまぁ」


 興味がある、と言わんばかりのギルマスにとりあえず適当に頷いておく。するとギルマスは少し考えた様子の後。

「ゲイル、お前の話だがあの3人ではダメか?」

「無理、とは言わないが。お前たち、ランクは?」

「全員Gですけど?」

「……」

「はぁ?」

 とりあえず聞かれたので素直に答えたが、するとリーダー格のゲイルが渋い顔をし、アマンダ、って呼ばれていた女冒険者が露骨に嫌そうな顔をした。


「ちょっとギルマスさ~。本気で言ってるんですか~?こいつら全員Gランクって。こんなのお荷物連れていけって言ってるようなもんですよ?」

「む、むぅ」

 アマンダの言葉にギルマスは俯く。一方、俺の隣にいたミラが表情を歪ませながら食って掛かろうとしたが、それを俺が手を上げ無言で制した。仮にも相手はランク上の冒険者。しかもギルド内で問題を起こせば、どんな処罰が下るか。だからこそ俺は彼女を制した。


「ちっ」

 ミラは軽く舌打ちをすると、ムスッとした表情のまま壁に寄り掛かった。

「やめないかアマンダ」

「は~い」

 一方、ゲイルはアマンダを窘めている。しかし肝心のアマンダには反省の色は見えない。まぁその辺りは気にしても仕方ない。ゲイルはアマンダの態度にやれやれ、と言わんばかりに息をつくと、今度は俺の方に視線を向けてきた。


「お前、名前は?」

「俺ですか?カイトです」

「カイト、か。ならばカイト。お前に聞くが、その夜間でも周囲が見える道具、とやらがあれば夜間でも監視活動くらいは出来るのか?」

「えぇ。少なくとも監視やら周辺警戒くらいなら出来るかと」

「……」

 ゲイルは俺の言葉を聞くと、少しばかり考えた後。


「分かった。ギルマス、調査の予定は明日の夜から開始で構わないか?」

「あぁ、大丈夫だ」

 ギルマスに問いかけ何か許可を貰ったようだ。

「よし。ならお前たち。お前たちは明日の夕方、ギルドに来い。そして俺たちと森へ行き、その時にその道具とやらを俺たちも試させてもらう。それが有用だと俺たちが判断したのなら、調査に同行してもらう。逆に使えないと判断したらそのまま帰ってもらう。それで構わないな?」

「えぇ」

 ゲイルの言葉に俺は頷いた。


「よし、なら決まりだ。お前たちは明日の夕方、ゲイル達とギルドで合流しゴブリンの集落調査に同行してくれ。その時こいつらを連れていくのかどうかは、その道具とやらの効果を見たゲイルに判断してもらう」

「分かりました」

「ゲイル達も、それで構わないな?」

「あぁ」


 と、言う事で話はまとまり、俺たちはゴブリンの集落調査に同行する事になった。


 その後俺たちは今日討伐したゴブリンの分の報酬を貰うと、適当な所で飯を食い、宿へと戻った。


「なんだが、凄い事になっちゃいましたね」

 装備を外し、3人とも息をついた直後、マイが口を開いた。

「ホントにね。でもまぁ、これで調査に参加して、実績を作って行けば、ランクアップもそう遠くないんじゃない?」

 そう言ってニヤリと笑みを浮かべるミラ。こいつは相変わらずだなぁ、なんて思いつつ笑みを浮かべる。


 っと、そうだ。笑ってる場合じゃなかった。今の内に明日用の装備を揃えておかないとな。俺は意識を集中しスキル、『兵器工廠』を発動させ、眼前にモニターが浮かび上がった。すぐに思念操作で単語を打ち込み、検索を掛ける。


 するとリストが更新される。え~っと、目的の品はっと、あったっ。これだっ。俺は見つけた『それ』と、追加でゲイル達用のヘルメット、『それ』とヘルメットを繋ぐアタッチメント、バッテリーとそれ用の電池などを次々と召喚していく。


「カイト?さっきから何してるのよ?」

 と、そこに小首を傾げながらミラが歩み寄って来る。

「あぁ、これか。こいつは、明日の夜間調査用の道具さ」

 そう言って俺は召喚したそれ、『暗視装置』、四つの筒が横一列に並んだような形の暗視装置、『GPNVG-18』の一つを手に取ってミラに見せた。

「これが?どうやって使うの?」

「こいつはヘルメットの額辺りに装着するんだ。専用のアタッチメントを介して額の辺りにセットして、必要な時は下ろして目の辺りに来るようにして、不要な時は跳ね上げておく。って具合にな」

「へ~~」

 ミラは興味深そうにGPNVG-18の一つを手に取るとマジマジとあちこちを見つめている。と、そこにマイも歩み寄って来た。


「カイトさん、これって一体どういう原理で動くんですか?」

「ん?そうだなぁ」

 聞かれたは良い物の、専門用語は2人じゃ分からないだろうから、かいつまんで説明するか。


「簡単に言うと、こいつは星や月の明かりを何十、いや、何百倍にも増幅するんだ。その増幅した光の効果で、夜でも周囲が見えるって寸法だ」

「「へ~~」」

 2人とも、俺の説明を聞くといつものように小さく声を漏らしていた。


 俺が召喚したGPNVG-18は、暗視装置の中でも『パッシブ方式』という分類に属している物だ。パッシブ方式は自然に存在する可視光を利用していて、今2人に説明したように、夜間だと星や月の明かりを増幅して視界を確保している。光を増幅して利用している事から、微光暗視装置、なんて呼ばれたりもしている。欠点としては全く光のない暗闇や構造物内部では使い物にならないが、野外なら何とかなるだろう。ダメならダメで別の暗視装置を使うだけだ。


「2人とも、ヘルメットをくれ。今の内に装着しちまうから」

「OK」

「はい、お願いします」

 俺は2人のヘルメットを受け取ると、自分のやゲイルらのも含めたヘルメットにGPNVG-18をセットしていった。知識が転生時にインストールされてるだけあって、少しすれば装着完了。


「さて。暗視装置はこれで良いとして、次はっと」

 俺は一度閉じていたモニターを再度呼び出し、今度は別のある物を検索した。

「ん?まだなんか必要なわけ?」

 と、そこにヘルメットを被り感触を確かめていたミラが声をかけてきた。


「あぁ。俺たちの武器、つまり銃は銃声がするだろう?けど、明日の夜の目的はあくまでも調査であって戦闘じゃない。かといって自衛用の銃は欲しいし、でも出来るだけ銃声の小さい銃じゃないと、ゴブリン連中に気づかれるかもしれない。そういう状況向けに使える、オススメの銃があるんだよ」

 俺はミラの言葉に答えながら、お目当ての物を見つけると、それを三つ。弾やグリップ兼用の弾倉と共に召喚した。


 召喚されたそれらを、とりあえず座っていたベッドの上に置いていく。

「な、なんですか?これ?」

「これ、ホントに銃なの?ただの鉄の棒みたいだけど」

 しかし召喚された『それ』を見つめて、2人とも不安そうな表情を浮かべつつ、訝しむような言葉を漏らしている。


「ふっふっふっ、まぁ2人が不安に思うのも無理はないが、こいつも立派な銃なんだぞ?」

 予想はしてたが、予想通りの2人の反応が楽しくて俺は笑みを浮かべた。

「でもこれ、持ち手の所とか、無いですよね?」

 マイがもっともな意見を口にする。


 確かにマイの言う通り、俺が取り出した『それ』は、一見するとただの鉄パイプ、鉄の棒にしか見えない。

「まぁ見てろって」

 しかしマイの言葉も予想済み。俺は笑みを浮かべながら、グリップ兼マガジンを突き刺した。するとどうだ?


「あっ!銃になったっ!」

 うんうん、ミラの感想実に予想通りだ。おかげでニヤニヤが止まらないが。

「ちょっとカイトッ!ニヤニヤ笑ってないで説明しなさいよっ!その銃って何なのっ!?」

 おっといかん。ミラにどやされてしまった。


「んんっ!OK、なら説明させてもらうか」

 俺は改めて2人に見えるように銃を掌の上に乗せた。

「こいつの名は、『ウェルロッドMkⅡ』。特殊作戦向けに開発された、消音拳銃だ」


 俺が手にしているそれは、第2次大戦の最中にイギリスで開発されたウェルロッド、その32ACP弾仕様のMkⅡだ。

「ウェルロッド、ね。これってどんな銃なの?」

「よくぞ聞いてくれたなっ。ウェルロッドは今説明した通り、特殊作戦、主に敵地への侵入や暗殺、破壊工作やら偵察任務なんかのために作られた銃だ。通常の銃であれば発砲時に100デシベルを軽く超える程のバカでかい銃声が響くが、ウェルロッドはその銃声を抑える機構を銃身と一体化させているのさっ!ボルトアクション方式ゆえに連射力に劣るという点もあるが、本来ウェルロッドは撃ちあうための銃では無いため、その点はこれと言って問題なしっ!夜の闇に紛れてひっそりと敵を倒すのにうってつけの銃って訳さっ!どうだっ!分かったかっ!」

「は、はい」

「アンタがめちゃくちゃ銃好きなのは改めて良く分かったわ」


 おっと、またしてもトークに熱がこもってしまった。現にミラとマイの2人がドン引きしている。まぁ良いか。


「とりあえず、明日の予定だが。ギルド集合は夕方だ。なので午前中は森でウェルロッドに慣れるための射撃訓練を行う。午後は宿に戻って一休み。夕方からいよいよ、って感じだ。2人はその辺り、異論とかあるか?」

「アタシは無いわ。大丈夫よ」

「私も、です」


 ミラは普段通りだが、マイはやっぱり緊張している様子だ。初めての夜間戦闘だもんな。無理もないっちゃないが。……まぁ、かくいう俺も結構緊張してる。ミラもその辺り、表に出してないだけかもしれないしな。


「よし。んじゃ、今日はうまいモンでも食って早めに休むか。明日は徹夜確定だしな」

「賛成。どこか食べに行きましょうか」

「うん、それが良いよ」


 話題を反らす意味でも、食事を提案した俺の話に2人とも乗って来た。なので俺たちは宿近くの飯屋で食事を済ませると、宿に戻り早めにベッドに入って眠りについた。明日の夜に備えるために。


 

     第13話 END

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