『おかいもの』

やましん(テンパー)

『おかいもの』


 びーちゃんが、洗剤の詰め替えを買ってこいと、命令を発したのである。


 ガンと診断されているぼくを、奮い立たせようという作戦であろうか。

 

 ただし、費用はぼくもちである。


 渡されたメモだけでは、あまりに、頼りないから、スマホで写真も撮影したのであった。


 完璧だ。


 しかし、世の中には、熱中症警戒アラートとやらが出されていた。


 暑いなんて生易しいものではないぞ。


 外に出たとたん、身体中から煙が立ち上りそうだった。


 初期高齢者がうろうろするのは、禁止ではないが、なるほど、これは、推奨はされまい。


 しかし、命令は、発せられたのである。


 行かなければ、家賊イエゾクとなるぞ。


 くまさんたちは、泣いているぞ。


 てなわけで、薄暮に乗じて出掛けたのだ。



 しかし、甘かった。


 似たような洗剤が、ずらりと並んでいる。


 いわく、あまーる、いまーる、うまーる、いりえーる、うりえーる、おりえーる、あまんじゃ、らまんじゃ………


 しかも、入れ物も似たり寄ったりだ。


 いや、そこで、写真が登場するのだ。


 スマホを横に並べながら、その顔を見聞する。


 慎重に見比べて行くのだ!


 『やた、これだ! う、ちと、高いな。』


 仕方がない。


 あと、バナナがほしいとの指令が来ていた。


 一番安いのを選ぶ。


 高いのと安いのと、ま、たしかに、大きさがちょっと違うのは分かるが、見た目はそう変わらない。


 むかしは、台湾バナナが主流派だったが、最近は滅多に見ない。


 あと、飲み物。 


 これまた、千差万別だが、極力お安く済ませたい。しかし、びーちゃんは、ある種の品種は、ふたを開けにくいから、いやだ、という。


 それが、一番安いのだが、避けなければならぬ。


 自分のは、一番安いのにして、びーちゃんのは、ちょっと高めのにする。


 冷たいのは嫌らしいが、まあ、多少我慢してもらおう。


 で、お弁当である。


 まあ、これについては、あまり文句は来ないから、毎日の事でもあり、一番安いのか、値引きの有るものを、とっかえひっかえ買うのだ。


 味は、それこそ、似たり寄ったりだ。


 で、明日の朝と昼とでぼくが食べる食パン。


 100円のね。


 やっと、レジを通過して、最後、ご褒美のつめたあい飲み物を、自販機で買う。ただし、安いのを。


 トマトジュースにした。


 レジ袋に突っ込んだ。


 ああ、しかし、注意したつもりなのに、なんと、レジ袋の淵から、転落したのだ。


 そうして、駐車場をころころと転がる。


 早い、早い。


 追い付かない。


 逃げるわ逃げるわ❗


 ころころころ  ➰➰➰➰

 

 ジュースかんは、な、なんと、ぴかびかの赤い自動車の下にまで潜り込む。


 手を伸ばしても届かない。


 こうなったら、カッコ悪いが、仕方がない。


 駐車場にしゃがみこんで探す🔍️👓️。


 覗き込んでみれば、はるかな、かなた、左前輪、タイヤの下に引っ掛かっているではないか。


 車がでかいから、やたら、遠いのである。


 さらに、深くしゃがみこみ、思い切り手を伸ばして、やっとの思いで引っ張り出した。


 さすがに、洗わないと飲みにくい。


 すると、となりの車の運転者さんが帰ってきた。


 もう、暑いし、恥ずかしいし、頭の中身が噴出しそうになりながら、なんとか、自分の流星5号に帰ったが、やはり、気が済まない。


 ばかみたいに、もう一本買いに戻り、なんとか、同じ品をご購入にした。


 ああ、世の中は、やはり、自分を潰しにかかっているなあ。


 ばかだなあ😀、と、嘲りながら、周囲から、じわじわといじめては、楽しんでいるのだ。


 職場でも、そうだった。



 冷たいジュースを頂き、涙が出そうな気分で帰宅した。


 すると、びーちゃん曰く。


 『ありがと。あ、パンは? 頼んでたのに。ま、いいか。で、先日の親戚のお中元代金、一万ドリム、払ってよね。』



 やましんのお財布は、空である。



        👝😵💨



 




 


 


 


 


 

 


 



 


 


 

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『おかいもの』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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