本が消えた!

彩霞

第1話 本が消えた!

 大学に入って初めてのテストが終わった日、美優みゆは本棚の前で絶句した。

 テスト期間中にお預けにしていた、ライトノベルの本を読もうと戸のついた本棚を開いたのはいいが、肝心の本がなくなっていたのである。


(え……何で?……どういうこと?)


 美優はもう一度本棚を見る。

 自分の腰より少し高いくらいの木製の本棚は、上下二段に区切られ、縦に三つに分かれている。つまり、本が入るところは六つに区切られているということだ。そしてほこりが入らないように全て戸が付いている。

 彼女が読もうと思っていた本は、左から二番目の上段(つまり真ん中の上の棚)に入っていたはずだった。だが、やっぱりない。


(ない……ない……)


 本棚にないということは、部屋の別のところに置いたのだろうかと、机の上や、教科書等が重なっているローテーブルの上を見てみる。だが、見つからない。


(……ない。……そんな)


 美優はショックでふらふらとした足取りでベッドのへりにたどり着くと、そこに座り込んだ。テスト前には間違いなくあった。それなのに、どこに行ったというのだろう。


(まさか本に足が生えて歩き出して「ここは住みにくいところだぜ。さよなら!」と言って出て行ったとか? それとも床下に住む小人が持って行ったとか?)


 絶対にそんなことはないと分かっているが、本の紛失が衝撃的過ぎて、人知の及ばぬ力や存在のせいにしてしまいそうになる。


(折角『乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと分かったので、スローライフを目指そうとしましたが、主人公が消えたから一緒に探してほしいとヒロインに頼まれたので、探す旅に行く羽目になりました』を読もうと思っていたのに……!)


 美優は、虚しさと悲しさがないまぜになった気持ちを抑えるために深呼吸をする。すると、「そうだ!」とあることを思いついた。


「私がなくしていないなら、家族の誰かがこっそり持って行って読んだに違いない!」


 彼女はそう言うや否や、部屋を出て二つ年上の兄・優隆ゆうきの部屋へ向かった。


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