第13話 疑問と騒動
私の名前は高松香織(たかまつかおり)。
東京にある大企業の受付嬢。
昼は取引先の人に電話番号なんて聞かれて。
夜は未来のお偉いさんたちと合コン。
25歳で年収一千万越えのエリートイケメンに見つかって結婚。
子供を授かって、何不自由ない生活を送る……。
「なんて思ってたのが懐かしいわ」
現実はどこにでもあるチェーン店の社員。
アラサーになっても男っ気の一つすらなく、親には「いつ結婚するの?」と催促される始末だ。
現実はいつだって、思い通りにいかないものね。
仕事を終えて家に帰り、一人で韓国ドラマを見ながら晩酌。
そんな退屈な日々を過ごす私だが、最近気になることがある。
「伊与木さん、三番テーブルのオーダーお願いします」
「分かりました。ふふっ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
うちの店で働く高校生二人。
伊与木ちゃんは芸能界にいても頂点取れそうなほどに美人でオーラがある。
それに対し入明は……パッとしない? 真面目って感じ。
きっと教室に居たら、伊与木ちゃんはみんなの中心にいて。
入明は端で一人本を読んでそうね。
そんな対照的な二人が、こんなにも仲がいい。
「気になるわね……」
「高松さん? どうしたんですかボーっとして」
「あっ、入明?!」
「そんなお化けみたいな反応します?」
「ご、ごめんなさい」
「大丈夫そうならいいですけど」
少し首を傾げながら入明が戻っていく。
ふぅ、と胸を撫でおろして二人の姿を目で追った。
あの二人、シフトの時間が丸被りなのよね。
おまけに毎日終わったあと帰ってるみたいだし、付き合ってるのかって思ってたんだけど……。
「え? 俺と伊与木さんが? ないですないです。友達ではありますけど」
入明は普通の顔して否定するし。
「わ、私と入明くんが?! 付き合ってる……付き合う、うへへ」
伊与木ちゃんは明らかに好意持ってる感じだし。
……これ、明らかに伊与木ちゃんの一方的な片思いじゃん。
なんであんなに美人な子が、失礼だけどどこにでも居そうな子を好きになるんだろう。
そして、なんであからさまに好意を抱かれてて入明はそれに気づいてないんだろう。
なんだったら「友達、なんですよ」って頬を赤らめて言われたし。
友達の関係に満足しているような、そんな感じがした。
全く、うちの高校生二人組は甘酸っぱいラブコメをしてやがるというわけだ。
「若いっていいなぁ」
「たたた高松くん?! レジから煙出てるよ⁈」
「え。う、うわぁあああああ!!! 店長! どうすれば!」
「わからない、わからないよ!!!!」
……はぁ、ダメな年の取り方をしてしまったわね私。
気を取り直して仕事仕事――と、切り替えたのも束の間。
「おいこれどうなってんだよ! グラタンから芋虫出てきてんだけど」
「も、申し訳ありません」
最悪だ。
なんでこんなときに限って嫌な客に当たるのよ!
しかも店長は早上がりだし、今責任者は私じゃない!
全く、今日はついてない。
「ったく、どう落とし前つけんだこれはよォッ!!!」
「お、お代はいりませんので」
「は? こいつ舐めてんの? こっちは嫌な気分になってんだぞ。お代無しで済むほど世の中甘くねぇよなぁ?!」
「も、申し訳ありません」
「それしか言えねぇのかよクソババァが!!」
ダン! と男が机に脚を乗せる。
ケラケラと周りの男が怯える私を見て笑った。
ババァって、そんな面と向かって言われると傷つくじゃない。
……ほんと、どうすればいいのよこれ。
思考が止まりかけた――その時。
「足をどけていただけますか、お客様」
私の前に立ったのは、入明だった。
「誰だお前は?」
「ここの従業員です。机が汚れるので、足をどけてください」
「んだと? 俺はなぁ、このグラタンに芋虫入れられたんだよ!」
男が入明を威圧する。
しかし、入明に全く怯む様子はなかった。
「――お言葉ですが、当店で芋虫が入ることはありえないかと」
「あぁ?! んだとコラァ!!!!」
椅子を倒して立ち上がる男。
「こちらは衛生環境を徹底しています。それに、とてもじゃありませんが当店の厨房で芋虫は育たないかと」
「誰かが不注意で持ってきたかもしれねぇだろ!」
「確かに、その可能性はありますね」
「だったら!」
「――でも、その場合はあなたのズボンのすそのように、土で汚れていないといけませんね?」
「ッ!!!」
気づかなかった。
確かに男のズボンのすそにはところどころ土の汚れがある。
おまけに靴にも汚れがあって、まるで芋虫を探した後のように見えてもおかしくない。
「てめぇいい加減にしろよ!」
入明の胸倉をつかむ。
周りにいた男が立ち上がり、視線を合わせた。
「ちょっと表出ろ」
店内にはまだまだ人がいる。
それを配慮してのことか、男たちは続々と店の外に出た。
「い、入明?」
「すみません、少し出ます。すぐに戻りますので」
そう言って、入明は男たちについて行った。
……嘘でしょ?
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