第10話 友達と嫉妬


 学園のアイドルと友達になった。


 正直実感の湧かないことだけど、間違いないことなのだ。

 俺に友達、か……。


「へへっ」


 おおっといけないいけない。

 思わずニヤけてしまった。


 まぁでもしょうがない。

 一人万歳とか言っておきながら、正直友達がずっと欲しかったのだ。

 今くらいはニヤけたっていいか。


 そんなこんなで気分よく自販機を探し求めて歩く。

 伊与木さんと話すようになって一か月。

 今や周りの視線や噂などは気にならなくなっていた。


 気にしてもしょうがない、の間違いか。


 ようやく探していた自販機を見つけ、物色する。

 って、夏も近いのにコンポタとか置いてあるよ。

 こんなの罰ゲーム用だよなぁ正直。


 俺はお茶でも買って、早く教室に戻ろう。

 あと十分で昼休みは終わるわけだし。

 

 なんて思いながら財布を取り出し、硬貨を投入。

 喉が渇いた。早く潤そう――


「あっ、入明くんっ!」


「あ」


 ガタン、と音を立てて品物が落ちる。

 不意に話しかけられて反射で適当にボタンを押してしまった。


 そしてこういうときに限って、


「こ、コンポタ……」


「ご、ごめんなさい。急に話しかけて」


「いいですよ。コンポタちょうど飲みたかったので」


「ふふっ、変わってますね。入明くんって」


「あはは……」


 今日も伊与木さんは美人だなぁなんて思いながらくいっとコンポタを傾ける。

 あ、あつ……。


 顔をしかめていると、伊与木さんが俺の頬に冷たいペットボトルを押し当ててきた。


「つめたっ!」


「これ、どうぞ。私こんなに量飲めないので」


「いいんですか?」


「はいっ」


「あ、ありがとうございます」


 ありがたくいただくことにする。

 乾いた喉に冷たいお茶が染み渡る。

 これだよこれ。


「それにしても、伊与木さんはどうしてここに?」


「適当にぶらぶらしてたんです。そしたら、入明くんの姿が見えたので」


「そうですか。ほんと、なんかよく遭遇しますね」


「ふふっ、そうですねぇ」


 もはや俺が教室を出るごとに伊与木さんに遭遇している気がする。

 ありえない遭遇率に慣れてしまっている自分が少し怖い気もするな。


 でもまぁ、意図的、なんてありえるわけないもんな。


「あっ、そろそろ五限の時間ですね」


「ほんとだ。戻りますか」


「ですね」




   ♦ ♦ ♦




 放課後。

 

 すぐに帰ろうと思っていたのだが担任教師に呼び止められ。

 ノートを社会科準備室に持って行けという雑用を言い渡されてしまった。

 それも、クラスの女子の佐藤さんと一緒に。


 まぁ日直の仕事なので仕方がないが、気まずいことこの上なかった。

 ノートの三分の二を俺が持ち、残りを佐藤さんが持って廊下を歩く。

 

 何を話せばいいんだろうと困惑していると、佐藤さんが「あのさ」と話しを切り出してきた。


「入明って、紗江様と仲いいよね」


「まぁ、友達なので」


 友達って言いたかったからわざわざ友達って言った。

 なるほど、これが友達か。最高だな。


「えっ友達なの?! 意外!」


「意外?! そ、そうですか」


 確かに伊与木さんと俺じゃ接点なさすぎるし釣り合ってない。

 けど面と向かってそう言われると、少しはへこむな。


「や、そういう意味じゃなくて、付き合ってると思ってたってこと」


「あぁーなんだ、そういう意味ですか。よかった……って、付き合ってませんよ?!」


「あはははっ、ノリツッコみいいね!」


「からかうのもやめてくださいよ」


 なんだか緊張が解れてきた。

 その後も程よく会話をしながら歩いていると、伊与木さんに遭遇した。


「あっ、伊与木さん」


 そういえば、ここ最近毎日登下校をしていたんだった。

 もしかしたら俺の教室に行ってくれてたのかもしれない。


「入明くん、その方は?」


「え? その方?」


 伊与木さんの視線が俺から隣の佐藤さんに映る。

 佐藤さんは伊与木さんから見られてビクッと体を震わした。


「クラスメイトの佐藤さんだけど」


「へぇ? それで?」


「え、え? そ、それで?」


「うん、それで?」


 なんだろう。

 いつもほんわかとしている伊与木さんの雰囲気が怖い。

 何か怒らせるようなことをしただろうか。


 どうしたもんかと考えていると、伊与木さんにじっと見られていた佐藤さんが慌てて口を開いた。


「こ、これ、日直の仕事で! 私と入明が今日の日直だったんで、社会科準備室に向かってるだけですよ!」


「ほんとにそうですか?」


「か、神に誓います! アーメン!」


 なんで救い求めっちゃってんの?


 今度は伊与木さんが俺の方を見てくる。


「そ、そうです」


 なぜこの確認が必要なんだろう。

 頭を悩ませていると、俺の回答に満足したのかいつも通りの柔らかい表情に戻った。


「そうですか。分かりました。じゃあ私は下駄箱で待っていますね」


「あっ、すみません。すぐ行きますね」


「じゃあ、頑張ってください、入明くん」


「ありがとうございます」


 伊与木さんと別れ、再び社会科準備室へ足を進める。


「いやぁそれにしても、この日直の仕事は大変ですね」


「……そ、そうだね」


「?」


 その後の佐藤さんは、なんだか歯切れが悪かった。




    ♦ ♦ ♦




「……私の入明くんなのに。なんで他の女が」



 

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