第19話 祝福
祝いの言葉が掛けられている中でオリビアは呆然とする。
「何よそれ……何でそんな事に」
「あんたらみたいな鬱陶しい者達がもうちょろちょろしないようにな」
ファルクはそう言うが実はこれはラズリーからの提案だった。
◇◇◇
「ファルク。私と結婚してください」
ある日、真剣な話があるとラズリーが訪ねてきたのだが、唐突にそう言われ動揺で椅子ごと倒れそうになったのが思い出される。
よくよく話を聞くと、もう他の令嬢に声を掛けられて、皆に迷惑を掛けたくないという思いからだそうだ。
婚約者という立場なのに軽く見られるというのであれば、もういっそ婚姻までしようという事らしい。
逆プロポーズを受けて言葉が出ないくらいに驚いたのだが、その内容に少し冷静さを取り戻した。
(その理由で俺と結婚して、本当にラズリーは後悔しないか?)
心配はするものの、ラズリーは至って真剣な様子である。ラズリーが本気であるのならば、ファルクに拒む理由はない。
ファルクにも、ラズリーが他の男性に惹かれてしまうのではという不安があったからだ。
護衛騎士は名誉ある肩書きではあるが、主の為に命を掛け、家庭を省みる事が難しい職業故に、妻となる者に苦労を掛けてしまう。
今は学生だからまだいいが、卒業し、本格的にその道に進めば一緒に居られる時間はより少なくなる。
寂しがり屋なラズリーのパートナーが、そんな自分で本当に良いのだろうかと頭をよぎったのは、一回や二回ではない。
この際だからとファルクは全てを話し合おうと、自分の懸念やラズリーが心配に思う事はないかと訪ねて、意見をすり合わせていく。
「大変かもしれないけれど、ファルクの事は応援したい。それに同じところで将来働くのなら、家で待つよりも顔を合わせる事は出来るでしょ?」
確かに二人は部署は違えど王城で働く予定だ。
「それに他の男性と一緒になりたいとは思わない。ファルクだから一緒になりたいし、離れて欲しくないの」
どうプロポーズしようか、結婚はいつくらいにしようか、指輪のデザインはどうしようかなどと考えていた計画は全て吹き飛んでしまったが、彼女が自分と離れたくないからと必死になってくれたのだと思うと嬉しい。
「一緒に住むとか色々な事は卒業してからになるだろうけど、それでもファルクがいいならお父様もお母様も許してくれるって」
実質学園にいる間は何も変わらぬ生活を送る事にはなるが、婚約と婚姻では大きく心構えが変わる。
(ラズリーが、妻に!)
その言葉だけで舞い上がりそうだ。
一緒に住めなくてもまだ手は出せなくても、その称号を手に入れただけでもう幸せだ。
胸の中がほわほわしてくる。
「それでもいい。ラズリー、俺と結婚してくれ」
ラズリーの手を握り、改めてプロポーズをする。
自分から言い出した事なのに頬を赤らめて頷くラズリーを見て、冷静さを保てなくなりそうだったが、何とか理性は保てた。
そのままラズリーには滞在をしてもらって、今度はファルクの両親の許可を得るために二人で話をする。
母であるフローラは驚きつつも了承してくれ、父のライカは眉間の皺を寄せつつ許可を出した。
「死ぬ気で守れよ」
とそう言って、何故か殴られた。これはいまだに理由が分からない。
そこから婚姻の許可を得るために両家は国王に話をしに行く。
「許可しよう、息子も世話になっているからな」
そう言って書類を用意してくれ、時期や承認の時間まで事細かに調節してくれた。
今も居なかったのはその最終の確認の為だ。
◇◇◇
「承認も先程されたし、ダンスが落ち着いた頃に父上から正式に発表されるよ。セシル様なんて既に泣いていたよ、娘がもうお嫁に行っちゃうって」
「お父様ったら」
実の父のそんな話を聞いて、別な羞恥で顔が赤くなる。
「良かったわね、ラズリー。また改めてお祝いに行くからね」
「卒業までにいっぱい女子会しましょ、ファルクばかりに渡さないからね」
アリーナ達の声掛けに嬉しくなる。
「おめでとう二人とも。改めてまた家族でお祝いに伺うよ」
「おめでとう。俺からも何か祝いの品を贈らせてもらうか、何がいいかなぁ」
ヴァイスやグルミアはも笑顔で祝ってくれる。
「そういうわけでオリビア嬢、もうラズリーに拘るのは止めた方がいい。これ以上は君が傷つくだけだよ」
リアムが優しく諭すのだが、オリビアはただ顔を醜く歪めているだけだ。
「なんでその女ばっかり。大した事ない癖に」
ぎりりと歯を軋ませ、握った拳を震わせている。その様子は優雅な令嬢の姿からは程遠いものだ。
(わたくしが持てなかった全てをこんな女が手にするなんて、この世界はおかしいわ)
子爵家の娘という低い身分でありながら、将来王家に仕えると決まっている婚約者を持ち、そして取り柄もないのに周囲には庇ってくれる友人で溢れている。
その庇ってくれる中には王子までもいるのだ、不公平にも程がある。
これは何かの間違いで、こんな女が甘受するものではない。寧ろ自分のような者に相応しいのに。
「取り巻きももういない。さぁ、帰りなさい」
再度のリアムの促しにオリビアは周囲を見る。
自分に付き従ってくれていた令嬢は、今は遠巻きどころか部屋中を見回してもどこにもいなかった。
とうの昔に気づいてはいたが、本気でオリビアの側に居ようなんて思わなかったのだろう。
「どうして、わたくしばかりがこんな事に……」
「ノブレス・オブリージュ。改心してくれる事を願うよ」
リアムの言葉にオリビアの自尊心が砕ける。
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