第4話 休日も一緒

 次の休日、二人は一緒に過ごす事にした。


「気分転換に少し外に出よう、久しぶりに薬草採りとかどうかな?」


「行きたいわ。学園に入ってから行ってないものね」


 浮き浮きとした表情でラズリーは応じる。


(良かった、少しは気が紛れるといいな)


 ファルクもまた笑顔だ。


 嫌な目に合ったラズリーの気持ちが落ち着けばとして提案したのだが、他にも理由があった。


 この前意地悪をした令嬢達に、更に注意を促す為に、それぞれの両親が話をするからと、ラズリーを家から離すように言われたのだ。


(令嬢達に今後は近づくなとは言ったが、家を通して更に忠告もするんだな。まぁラズリーの親も、俺の親も過保護だからな)


 ラズリーの両親は争いごとに慣れていないが、娘の為なら何でもする。


 ファルクの両親はまず父親が喧嘩っ早いので、将来嫁に来るラズリーの為ならどこへでも乗り込んでいくだろう。


 既にいくつかの制裁はアリーナとルールーの家からもされているはずだが。


 ただ皆ラズリーに嫌われたくない為、ファルクが表立って制裁をしたり、知られないように誤魔化したりする役である。


 味方ではあるのだが、自分だけを嫌われ役にするのはずるいとたまに思っていた。


(まぁこうして一緒に出掛けられる権利を貰えるのは嬉しいが)


 嬉しそうなラズリーの笑顔に癒される。



 ◇◇◇



 二人はそう遠くない場所にある森に来た。


 ファルクは剣を携え、ラズリーはお弁当を持っている。


 町からも近く、街道沿いなので、そこまで危険な所ではないが、魔物が出ることも稀にあるため、ファルクが護衛兼移動を担う。


 ラズリーは馬に乗れず、馬車では道を塞いでしまい邪魔になる為、ファルクが馬に乗せて連れて来てくれるのだけれど、有り難い事だ。


 ファルクとしては魔物が出る様な場所にラズリーを連れて来たくはないが、ラズリーがいないと薬草の見分けがつかない。


 その為に協力して臨むのだが、これが二人にとってのデートである。


「いつも思うけど、嫌じゃない?」


 ラズリーは助かるけれど、ファルクはただついてくるだけで、楽しい事なんてあるのだろうかと心配になる。


 本当は鍛錬などしてきたいのではないかと気にしていた。


「嫌じゃない、ラズリーと二人ならどこでも楽しいよ」


 ファルクの言葉と笑顔にラズリーは照れてしまう。


「ありがとう」


 気遣いの言葉だとラズリーは思っているが、ファルクとしては本心だ。


 二人で馬に乗れば自然と密着するし、乗馬の腕や魔物避けとしての存在でも、頼られて悪い気はしない。


 ラズリーの護衛として、こうして一緒にいられるのは自分だけという特別感も嬉しい。


(お昼もラズリーの手作りだしな)


 シェフと共に用意したとはいえ、彼女が手をかけたなら彼女の手作りだ。


 とても楽しみにしている。



 ◇◇◇



 二人きりのお出掛けはとても嬉しい。


 学園で変な絡まれ方をしたが、これだけでもう帳消しだ。


(ファルクは人気だもの。私が嫉妬されるのも、ある程度はしょうがないわよね)


 ラズリーはある意味仕方ないと割り切っていた。


 将来第二王子の護衛騎士になるなんて、周囲からしたらエリートにしか思えないだろう。でもラズリーはそれが華やかなものではなく、命がけの仕事と言うのを知っているから、たったそれだけの理由でファルクの婚約者の座を離れるつもりはなかった。


(私が誰かを助けるために勉強する事は、ファルクを助ける力になる。例えファルクが怪我をしたり、命を落としそうになっても、絶対に私が助けるんだから)


 ファルクがラズリーを助けたいと思う気持ち同様、ラズリーもまたファルクの力になりたいのだ。


 今でこそ平和な世の中だが、ほんの十数年前まではこの国では戦があった。


 その頃の話を両親から聞かされていたラズリーは、またそのような事が起きない事を祈りつつも、いざという時の為にと勉強をしてきたのである。


 学園の制度も先の戦を教訓にして作られ、将来有望な人材を育てるのに一役買っていた。


 その為に他を不必要に蹴落とそうとする者は、要注意人物だ。向上心からの競争ならば良いが、野心も強すぎると国を傾かせかねない。


 その為、リアムなどの王族も共に学園に通い、密かに監視をしている。リアム自身もまた王族としての資質を見られているために、気は抜けない。


 学園には他国からの留学生も多数通っていて、疑似的な社交の場であった。勉学以外の交流を目的としている貴族も多くいる、そういう事もあり、ファルクに近付きたいというものは存外多いのだ。


 出来ればより良い条件の者との縁談を願っているのだろう、人のものは良く見える。


 交流についてはラズリーは苦手で自信がないけれど、社交界デビューしたら頑張るつもりだ。


 ファルクに恥をかかせるわけにはいかない。



 ◇◇◇



 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、もうお昼となった。


 適当な木に馬を繋ぎ、軽く草を切り払って敷布を置く。


 その上に二人で座り、ラズリーが準備を手伝った昼食を食べた。お腹いっぱいになったラズリーは、ファルクに寄りかかる。


「今日はありがとう、おかげでいい薬を作れそうよ」


 商品としては出せないけれど、試作を重ね、鑑定でも良い結果が出るようになってきた。何とか学生のうちに、売れるレベルの薬を作れるよう頑張るつもりだ。


 卒業してからでは、ファルクにいざという事があった時に役に立てないから。


「役に立てて良かったよ。ご飯も美味しかった、ありがとう」


 ファルクはラズリーの肩に手を回し、もっと寄り添うようにと促す。


 その気遣いに甘え、体の力を抜いて休んでいると、段々と眠気が襲ってくる。


 体力のないラズリーにとって、薬草採りは結構ハードだ。


「少し休んでいいよ、何かあれば起こすから」


「うん……じゃあ少しだけ」


 ほんの少し、とラズリーは目を閉じる。


 ガサゴソとファルクが体を動かす様子に薄っすら目を開けると、虫よけの香まで焚いてくれていた。


(準備がいいなぁ)


 自分には勿体ない人だなと思いながら、ファルクの体に手を添えて再び目を閉じる。


 けれど、うとうととした心地よい雰囲気は、森の奥から聞こえてきた嬌声により、一気に吹き飛んでいった。




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