第4話 凶悪殺人犯現る!

-アルテナ草原中央-


当ても無く広大な草原を歩く事、2時間余り。

のどかな風景と心地良いそよ風に誘われる様に私達は歩を進める。


普通ならピクニックの様な気分でいられたかも知れないが、ゲーム世界の中とか未だに信じれないと言う浮いた感覚が抜けない。

そしてこの犯罪者印どくろマーク・・・納得がいかない。


「ブツブツブツブツブツブツブツ・・・・」


「サクラ殿、気にする事ないでござるよ。ぷぷぷ!」


「こいつムカツク。」


ゲーム内ペナルティなんて受けた事の無いゴールド免許的キャラクターだったのに、今では犯罪者扱いで有る。


でも妙な感じがする。


確かゲームでは3人殺害した時点で犯罪者印どくろマークが表示されて、後は殺害人数に応じて犯罪数値カルマが上昇する使用だったはず。


不正に賞金を稼ぐ事が出来ない様に犯罪者印どくろマークの周囲の環境やログなど経営チームやGMに入念なチェックが行われていたとはずだけど、この世界は創造主の様な存在が居なくて世界法則自体リアルの日本の法律に順守した様な形に改変されているのだろうか?


まぁ最終的に全て攻略した状態では賞金など必要無く、レアアイテムを入手する事がこのゲームを続けていく目標になる訳だけども。

悪名と言う名で懸賞金額を上げる事をプレイスタイルとして名を馳せた有名人も居た位だ。


この場合PVPでの勝利はPKと同等な扱いになり、どんな法律で縛られているか分からないが犯罪と思われる行為を行った時点で犯罪数値カルマがカウントされていくのか?


不慮の事故で犯罪者になった挙句、本来被害者にあった人が目の前でニヤニヤしている謎の状況。

これは自分の行動に気を付けないと。

しかも私も今後命を狙われる!ヤバイ!


「・・・ってか他のプレイヤーもこの世界に来ているんだろうか?」


NPCにも狙われるのだろうか?色々な状況が脳内を過り、ついつい独り言を口にする。


「いつまでブツブツ言ってるでござるか、アルテナの街が見えたでござるよ!」


アルテナの中央都市はゲームのスタート地点の街だ、全てのクエストはこの場所から始まる。

暗黒神の復活が近いので近隣の草原に生息する生物が凶悪なモンスターへと変貌している。


その討伐が最初のクエストになる。

いわばチュートリアル的な簡単お使いクエストの数々が受けられるのだ。


-アルテナの街-


アルテナの街はゲームでNPCは50名程度の小さな街だ。

しかし、この世界では街のサイズが大きく土地の広さも広大で人口も200名以上は居そうな感じがする。

しかしNPCと言っても、どう見ても普通の人々に見える。


農作業をする人、街を駆け回る子供達。

田舎町の日常風景が目の前に広がっている。


ゲームスタート地点と言う事も有り出現モンスターも弱く比較的モンスター被害は少ない。

木造住宅が多く、ゲーム内では「ド」が付く田舎の部類に入るだろう。


「まずはゲームのスタート地点、労働組合ギルドからでござるな。」


労働組合ギルドとは冒険者登録や仕事の依頼を集約し斡旋してくれる場所だ。

現実的に平たく言うと総合派遣会社やハローワーク的な所だ。


冒険者にもランクが有り、より高額な報酬のクエストはそれなりのランクが無いと受ける事が出来ない。

メインクエストは基本的に労働組合ギルドクエストの依頼をこなす事で進む事が多い。


-労働組合ギルド前-


「て、手を放してください!」


「ちょっと付き合えよ」「いいじゃん!」「ぐへへ」


街の女性らしき人物が市販の安物装備を付けた冒険者3人に囲まれていた。

つーか、ベタな展開だなサブイベントなのだろうか?


ゲームではこんなイベント無かったけど、サブイベント的な感じだろうか。

序盤の街のイベントはWiki等の攻略サイトを見てイベントは網羅していたので、こんなイベントは存在しない。

むしろ何が起こるのか観察していたい気分だ。

助けますか?「YES」or「NO」みたいなヤツでYESを選ぶまでループするんじゃ?現実で行うと相手がキレてしまうはず。


「拙者、ああ言う輩は許せないでござる。」


「だね、助けよう!」


特殊技能スキル【抜き足】を使い静かに3人の背後に回り込み、手刀を構える。


一度やってみたかったんだよね!漫画とかアニメで良く有る、首の付け根を後ろから手刀で「トン!」ってやって気絶させるヤツ!

圧倒的な力量差を見せつけるカッコイイ技!やられた人間も「あ・・あ・・・」って感じで気絶するはず。

現実では危険らしいけど、ここはゲーム世界だから大丈夫だろう。


トン!トン!トン!


素早い動きの手刀で3人の冒険者はあっさりと気絶させる。

フフン!どんなものよ!


「お嬢さん大丈夫でござるか?」


「え?ええ?あ、ありがとうございます。」


3人の冒険者に絡まれていた女性は、サクラの声を聞いて戸惑った素振りをする。

見た目が美少女侍なのに声が男なのだから当然だ、その余りにも不釣り合いなギャップに戸惑っている様子。

若干「不審者」扱いを受けているサクラを見て、少し楽しい気分になっている自分が居る。


ザワザワ・・・


ザワザワ・・・


騒ぎを聞き付けて街の人々も集まってくる。


「最近迷惑している冒険者の3人組だぞ、うん?脈が・・・」


「ひぃ!し、死んでる!」


「おい!死んでるぞ!」「人殺し!」


「衛兵を呼べ!」「おい!見ろ!コイツ犯罪者だ!」


え?なんて?なんてなんて?ええええええええええええええええッ!


「シノブ殿!犯罪者印どくろマークが黄色に変化してるでござる!」


本来、犯罪者印どくろマークは①黒枠線透明→②白色→③黄色→④赤色→⑤黒色と犯罪数値カルマに応じて色が変化する性質がある。

黄色って10名以上じゃなかったっけ?え?って私が3人を殺したって事?すごく軽く首筋を叩いただけだよ?イベント?


いや、そんなイベント無いし!ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!アイツらってNPCじゃ?いわばプログラムじゃないのか?

NPCを殺せてしまうとか、もはや別のゲームじゃないか。

それにしても、LV100と一般人NPCって力量差がここまでとは・・・握手すら気を付けないとヤバイ。


「あわわわ、サクラどうしよう」


「とりあえず、シノブ殿は犯罪者なので逃げた方が・・・」


サクラは私から視線を逸らし、完全に他人の振りををしている。

おい!視線逸らしてるし!なんか余所余所しいぞ!


くっ・・・取り合えずこの場を離れないと衛兵に捕まってしまう!

一般人に捕まって下手に振り解いたら、あの3人みたいになっちゃうかも知れない。


「拙者が組合で依頼を受けてくるから、シノブ殿は一旦身を潜めて街の入口で落ち合うでござる。」


・・・っておい!こっち向いて喋れよ!話す時は人の目を見て話せと私は習ったぞ!


「くっ!とりあえず逃げる!」


おかしい!おかしい!おかしい!なんで私がこんな目に・・・そうだ!

これは夢だ!多分寝落ちして・・・そう!明日は日直だから少し早く登校しないと!

起きたら、まずシャワー浴びて、今日の朝食はパンとハムエッグにしてもらおう!


あは!あはは!あはははは!もう笑うしかない!涙がでてきた・・・


「私は、私は超善良なプレイヤーなのにぃぃぃ!」


この日・・・不可抗力で合計4名を殺傷してしまった私は6時間もしないうちに犯罪者印どくろマークを背負ってしまった。

有り得ない事故だ。こんなの私のプレイスタイルじゃない!


そして、私はお尋ね者から『懸賞金付き殺人者シリアルキラー』へと昇格したのだった。

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