おいしい食卓

藤間あわい

ゆっくり朝ごはん

 アラームの音がぼんやりと意識を覚醒させる。あれ、今日って何曜日だっけ……? 昨日は華金だからと友達に誘われて飲みに行ったから、今日は土曜日のはず。休日なのにアラームをかけっぱなしにしていたみたい。もったいないことをしたなあ……と思いながら、ゆるゆると起き上がる。

 パジャマから着替えて、歯磨きをして……といったいつものルーティーンを済ませたら、キッチンに立つ。こじんまりとした家の中の、私のお気に入りの場所。

 休日の朝ごはんはいつもよりちょっぴり豪華にする。ちょっとした私の中の決まり事だ。今は短い時間でできるご飯や楽に作れるご飯が流行っていて。平日はそういったレシピにありがたく頼ってぱぱっとご飯を済ませてしまうけれど、やっぱり手間暇かけたごはんっておいしいし、作る時も食べる時も心が喜んでいる気がするから大切にしたい。それに、一日のはじめを彩ってくれる朝ごはんは素敵な食事にしたいしね。

 今日はアールグレイフレンチトーストを作る。この前ふらっと立ち寄ったお店でいただいたときにあまりのおいしさに感動したから、お家でも作りたくなって。

 そんなことをつらつらと考えていたらお腹がぐうとなったので、さっそく準備に取り掛かる。食パンを四等分したら、卵液を作る。牛乳とアールグレイの茶葉を沸騰直前まで弱火でことこと煮て粗熱を取ったら、卵とお砂糖を入れてかき混ぜて濾してバットに注ぎ入れる。そこに先程の食パンを浸けてしばらく待つ。

 料理をするときしばしば発生するこういった「待ち」の時間、私は嫌いじゃない。料理をしながら読書をしたり、音楽を聴いたり、SNSを眺めてみたり。生活の一部に料理が溶け込んでいく感覚が、なんだか好きだ。

 今日は新しく発売されたお気に入りのアーティストのアルバムを聴きながら時が過ぎるのを待つ。今回のアルバムも名曲ぞろいだなあと浸っていたら、予定していた時間を過ぎてしまったのはここだけの話。

 食パンがひたひたになったらいよいよフライパンで焼いていく。たっぷりバターを使ってじっくりじっくり火を通す。バターの香りってなんでこんなにも幸せな気持ちにしてくれるのだろう。不思議だ。

 両面がおいしそうなきつね色になったら火を止めて盛り付ける。食器はお気に入りの青い花々が精緻に描かれたお皿。ああ、おいしそう。

 せっかくだから紅茶を淹れて、野菜室に余っていた野菜とハムでサラダを作って食卓に並べたら、主役のアールグレイフレンチトーストをナイフとフォークでいただく。

「いただきます」

 一口大に切り分けたフレンチトーストを口に運ぶ。口の中でじゅわっと広がるバターの風味とたっぷりかけた蜂蜜の相性が堪らない。ほんのり香る紅茶の香りがお洒落な味。食べ終わってしまうのが寂しくてゆっくりと嚙み締める。ああ、幸せな朝。

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