第28話

店から入手してきたワインで、きちんと誕生日の乾杯もした。そのワインを奏一は気に入ってくれたようだ。そして、ユイトが作ったパスタも美味しいと言って食べてくれた。どうやら上手くいったらしい。自分でもこれなら大丈夫かと及第点が出せるくらいだった。

 そして、食後にプレゼントを渡すことにする。

「これ、もしよかったら……」

 そう言ってユイトが差し出した紙袋を、奏一は目を瞬かせて見つめた。

「お、俺に?」

「そうだよ」

「ありがとう。わざわざ用意してくれたんだ……」

 とても嬉しそうな顔をして奏一が紙袋を受け取った。

「たいしたもんじゃねぇし……」

「いや、君がくれたものはなんだって嬉しいよ。俺はプレゼントしてないのに……ありがとう。開けていい?」

「あぁ」

 ユイトのぶっきらぼうな返事を受けて、奏一は袋から包みを取り出した。小さめの小箱のようだ。開けると、中には黒くシックな印象のキーケースが入っていた。長く使えそうなデザインだし、気に入ってくれるだろうか。

「キー……ケース?」

 奏一はまたしても目を瞬かせている。

「あぁ。あんたさ、財布にカギ入れてただろ?」

「あー、見てたんだ」

 別に嫌がる風でもなく、奏一は苦笑した。

「悪い。別に変に盗み見てたわけじゃねぇけど、目についたから……カギはちゃんとしまった方がいいんじゃないかと思ったんだよ。まぁ、もしかしたらあんたは好きで財布に入れてんのかとも思ったけど……」

 ごもごもとユイトが言うと、奏一はくすりと笑った。

「ありがとう、気にかけてくれて。カギは、ただ何となく財布に入れるのが習慣になってただけなんだ。考えると、あんまり良くないかもな。ユイト君、案外きちんとしてるんだ」

「い、いや、そんなことねぇけど……俺がキーケース使ってるだけで……」

 ユイトは恥ずかしくて顔を真っ赤にした。

「ふふ。嬉しいよ、コレ。早速使わせてもらうから」

 奏一は満面の笑みを浮かべた。その笑顔を見ると、さっきの写真の件は忘れることができそうな気がした。


 実を言うと、告白をするには絶好のチャンスかもしれないとも薄っすら思った。傍にいられるだけで満足だと思っていても、いつの間にか愛されたいという欲も出てくるものだ。けれど、うやむやにできない事がある。今度、日を改めてでもきちんと浩一郎の事を聞かなければいけないのだ。


 奏一の誕生日は、何とか心を色々と抑えて楽しく時間が過ぎていった。



 その後の土曜日に、改めて浩一郎の事を聞こうと心に決めた。奏一には話があるからと家に行くことを了承してもらった。


 土曜の午後に、ユイトは緊張の面持ちで奏一の家に向かった。部屋で出迎えてくれた奏一は、当然だがいつもの様子と変わらない。

「いらっしゃい」

「あぁ……お邪魔します」

 靴を脱ぎ部屋に上がるが、今までよりも、廊下を歩いていく足取りはやっぱり重い。

「あ、これ使わせてもらってるよ」

 そう言って、奏一は先日プレゼントされたキーケースをポケットから取り出して掲げて見せた。ユイトに見せようと、わざわざポケットに忍ばせていたのだろうか。

「ありがとう。使ってもらえると、あげた方も嬉しいからな」

 内心照れも交じりそう言いながら、ユイトはリビングに入った。

「君がくれたものなら何でも嬉しいよ。さ、座って」

 奏一に促されたので、ソファに腰を掛ける。いつ来ても、奏一の部屋は落ち着く。

「あんたの家、なんかまったりできるよな」

 ふと呟くと、奏一は目を細めて笑み、「コーヒーを淹れてくるから」と言って、キッチンに向かった。

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