第4話

 その日の営業が終了したが、大分飲んでいたこともありダルさを引き摺りながら後始末をしていると、先輩ホストが声をかけて来た。

「おい、蓮」

 それは、さきほど帰って行ったエリがついこの前まで指名していた優牙だった。

「何ですか?優牙さん」

 この時には、ユイトは一応仮面をまだ被っていた。

「エリさん盗ったの、お前だったのか」

ユイトは内心、『またか……』と思った。

以前にも、同じ様なパターンがあったからだ。

「え?盗ったなんて人聞き悪いこと言わないでくださいよ」

「おめぇが盗ったんだろ!?どうりでここんとこ指名ねぇと思ってたら…

おめぇに鞍替えしてたってわけかよ。

人の客盗ってんじゃねぇよ!」

 そこで、ユイトが仮面を取り素を見せた。

女性の取り合いなどのいざこざはあることだ。それに相手はナンバー1を競っているほどの先輩だったが、別に自分が盗ろうと思ったわけではない。いちゃもんを付けられるのは納得がいかなかった。

「俺が盗ろうと思ったんじゃなくて、エリさんが自分から替えたんだろ…

俺が悪いわけじゃない」

 ふてぶてしく言った。

「お前、生意気なんだよ!」

 優牙という先輩ホストがそう言った時、「まぁまぁ」と執り成すそうに他の先輩ホストがニ人のところにやってきた。

「客が指名替えることくらい良くあることだろう。そうカリカリすんなって、優牙」

 そういって、そのホストは優牙の肩をぽんぽんと叩いた。

「コイツの態度が生意気なんだよ!まだ新人のくせに……」

「あんたさぁ、一千万プレーヤーじゃん。客1人後輩に分けてくれてもいいだろ。

 まぁ、俺がエリさんに替えてくれって頼んだんじゃねえけど?」

 こんなことを言ったら、ここでの立場もますます悪くなる。それは分かっていた。

が、既に遅かった……。

 次の瞬間、ガッという音に続けてドサっという音が、閉店後の店内に響いた。

 ユイトは、優牙に頬を殴られ床に倒れていた。

「いって……」

 頬がじんじんと痺れるように痛い。

 執り成そうとしてくれた先輩は、優牙を抑えつけている。

「おい、優牙……殴るのはやめろって……」

「コイツは、初めから気にいらねぇんだ。

 何しろ二重人格だしな!」

「そう言うな。お客さんにはきちんと接客してくれてるし、評判いいんだ。

だから、蓮を指名したいって客もいるんだよ。まぁ、オープン時だけじゃなくて、

いつでも皆と仲良くしてくれりゃいいんだけどな」

 そう言って、先輩は苦笑した。

「俺、事務室で仕事してくる……」

 優牙は、ユイトを一睨みすると店の奥にある事務室に消えていった。

 ユイトは、先輩や同僚たちに「すいません」と謝り、さっさと片付けなどを済ませて長居は無用とばかりに帰宅した。

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