第3話
その日は太客、要するに大金を使ってくれる客であるエリが、“蓮”に会いに店を訪れていた。
「ねー、私もそろそろアフターして欲しいな」
エリが来店してから暫く経った頃、ユイトにくっついてねだってくる。
アフターとは、ホストが客と飲み終わった後に店外で食事をしたりカラオケをすることで、いつも世話になっている客への、ホストからのサービスとも言える。
「そう?まぁ、いいよ、じゃあ今度ね」
「えー?今日じゃダメなの?」
エリは不服そうに口を尖らせた。
「んー?エリさんに合ういい店見つけておくから、その時にしよ。それまで待ってて」
エリの耳元に口を近づけて甘く囁いた。
「わ、わかったわよ……期待してるからね」
「うん。任せて」
そう言ってユイトがエリの髪を撫でると、彼女は顔を赤らめてまたもユイトに見惚れている。
「あ、そうだ……蓮ってさ、枕しないって噂で聞いたんだけど、本当?」
枕とは、つまり客と体の関係を持つという意味だ。ホストの中には客と関係を持って繋ぎとめる者もいるとユイトも聞いたことがある。突然何を言いだすのだと、内心ユイトは思った。しかし、こんなことをあけすけに聞けるのは、付き合いが浅いながらもエリがユイトを信頼しているからか、エリがあまり気にしないタイプだからだろうか。
「え?どうしたの?急に。まぁ、確かに俺はしないけど」
「へぇ……そうなんだ……でも何で?」
「……ホラ、そういうのって大切な人とじゃなきゃダメでしょ?この人だって思った人とするのが一番だと思うんだよね」
この言葉も演技の中で出てきたセリフだ。こんな青臭いセリフは、ユイト自身には思いもつかないだろう。
「えー?それ本気?蓮って意外に純情っていうか……」
エリも流石に驚いたようだ。
「だって、誰とでもいいわけじゃないと思うんだよね」
「蓮……若いのに大丈夫?」
ユイトの年なら、血気盛んな年頃だ。しかし、それとは全く正反対のユイトのセリフに、エリも意表を突かれたのだった。
「俺は、誰かれ構わずできるタイプじゃないからさ」
エリは「そんな蓮もピュアで良い」と言って、その後も思う存分酒と会話を楽しみ帰っていった。
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