第2話

 ある日、柴田が次の患者を呼ぼうとしたら、次の患者の名は阿部光輝といった。

『阿部……みつ、き……?』

 どこかで聞いたことのある名だった。

『まさか、な……』

 柴田は、ふと過去に関わりのあった人物を思い出す。

けれど、その人物がここに来るわけがない。

「あの、先生?次の患者さんお呼びしてもいいですか?」

 傍らで待機していた横田が尋ねてきた。二十五歳の横田は勤め始めてまだ数年だが、柴田を尊敬しており優秀な看護師だ。

 横田に呼ばれると、阿部という患者が診察室に入ってきた。

男はサングラスをかけていた、

彼を訝しく感じた柴田は、患者の男を観察した。何となく、どこかで見たことがある雰囲気だ。その点を、柴田は不思議に思う。

 そんなことを考えていると、目の前の男が口を開いた。

「俺のことを覚えてないの?寂しいなぁ」

 そう言いながら、男はサングラスを外した。

「あっ……」

 サングラスを外した男は、俳優としてドラマなどに出ている神崎蓮だ。

「神崎……蓮?」

 柴田が驚いていると、男は少し寂しそうに苦笑する。

「あぁ、俳優の神崎蓮。俺だよ、光輝」

「み、光輝?……神崎蓮は、お前だったのか?」

 柴田は驚愕した。光輝と会ったのは学生時代が最後だったのだから。光輝はすっかりとイケメン芸能人に成長していた。

 彼は、柴田がここの院長だということを分かって来たのだろうか。

「俺、アンタがいるからここに来たんだ」

 そう言うと、光輝は自ら患者用の椅子に座った。

「……しばらくだったな。元気にしていたか?」

 正直、柴田は気まずかった。後味の良い別れ方をしていないから。

まぁ、付き合っていたなどというわけではないが。

「まぁ。アンタも、元気そうだな」

「相変わらずだ。で、突然どうしたんだ?患者として来たのか」

「俺、アンタに手術をして欲しい」

 光輝の目が、柴田を真っ直ぐに見つめる。

「手術?お前は、いらないんじゃないのか?」

 光揮の顔は十分にかっこいい。一体、どこを手術するというのだ。

「いや。俺、鼻をもっと高くしたいんだよ。昔からコンプレックスでさ。今になって、やっとできるようになったってワケ」

「何で、俺のところに来た。あんなことがあったのに……」

「それは……アンタが腕の良い整形外科医だって聞いたからだ。それに、知ってる人だし……」

「お前、俺にもう会いたくないんじゃないのか?」

「まぁ、あの時はそうだったけど……」

 光輝は口ごもり、顔を少し赤らめた。その表情には、柴田へのマイナス感情は感じ取れない。

「も、もう時間もかなり経ったし、整形するなら、アンタに頼みたかったんだよ」

 そう言うと、光輝は顔を横に背けてしまう。柴田が良く見ると、光輝は耳まで真っ赤にしていた。

『なんだコイツ……』

 柴田は光輝の反応に動揺した。

「分かった。じゃあ、これから施術について話をしよう」

 柴田がそう言うと、光輝は心なしか目を輝かせたようだった。整形できるのが、そんなに嬉しいのだろうか。

 それから一週間後に、柴田は光輝の鼻の整形手術を実施した。

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