第10話 再会
「たっくん…? 本当に……?」
震えるこの唇から漏れたその名前は懐かしい響きをしていた。
“たっくん”と呼ばれた目の前の男はクスリと笑う。
「やっと思い出した?」
「!」
うそーーー……………
ただただ驚く私を満足そうに龍輝君は見ている。
だって、なんで?
あのたっくんは…………。
もう…………………。
「どういうこと……?」
“たっくん”こと龍輝君は私の髪をそっと撫でる
その手は大きくて温かくて…。
あの“たっくん”だとは想像つかない。
龍輝君は私の髪の毛を手でいじりながら、ニッと笑う。
「生きてるなんて思わなかった?」
「っ…。」
本当にたっくんなんだ。
私はその場にへたり込みそうになったが、龍輝君が私の腰を支えて受け止めた。
抱きしめられるような形となったが、今の私はそれを気にする余裕なんてない。
「そこまで驚くか?」
龍輝君は笑いを含めた声で私に囁く。
「そりゃ、そうか。お前にとっては、俺は死んだと思ってたんだもんな」
そう言って龍輝君は撫でていた私の髪をグッと引っ張った。
「いたっ…!」
引っ張られたことにより無理矢理、龍輝君と目を合わせさせられた。
その龍輝君の目はとても冷たい。
その目が怖くて、背筋がゾクッとしてしまった。
龍輝君…怒ってる…。
龍輝君はそっと私を離し突然、自分のシャツのボタンを途中まで開けた。
「た、龍輝君!? 何しているの!?」
はだけた状態の龍輝君に驚いて声を上げる。
そんな私をチラッと見て、龍輝君は左肩を出した。
それを見て私はハッと息を呑む。
左肩から腕にかけて、7~8㎝くらいの大きな傷があったからだ。
「それ…」
龍輝君はそのまま再び私に近付き、後頭部を掴み、引き寄せる。
龍輝君の整った顔が目の前にある。
服もはだけたままだから、直にその胸板が私に触れていた。
こんな状態なのに心臓は正直で……。
不覚にもドキドキと鳴り響くが、龍輝君は顔色ひとつ変えていない。
ひたすら戸惑う私をじっと見つめた後、龍輝君はニヤッと笑った。
「この傷はお前のせいでついたんだよ」
「龍……」
その一言に、血の気が引いた。
思い出される記憶。
「お前があの時、俺を置いて行かなければ、付くことはなかった傷だ」
「あ、あれは…」
「わかってるよ。ふざけてただけだって……」
“でも…”と龍輝君は不敵に笑った。
「俺はショックだった」
「ご、ごめんなさい……」
手が震えた。
龍輝君は、軽く首を傾げた。
「こんな俺とお前の過去を他の人が知ったら…どう思うかな?」
「えっ!?」
「俺はいいけど…お前は大変なことになるかもな」
龍輝君は意地悪くニッコリ笑った。
子供の頃の過ちとはいえ、人を傷つけていたなんて知られたら……。
なにより、人気急上昇中の龍輝君の傷が私のせいだなんて、他の(特に女子)人が知ったら…。
私かなりマズイ……よね!?
もちろん、平穏な高校生活なんて送れるはずがないじゃない。
「……言わないでほしい」
私は龍輝君の服をギュッと掴み、見つめて言った。
「何度でも謝るわ。本当に悪いことをしたと思っている。だから、このことは……」
「うん」
と、とても柔らかくニッコリ微笑んだ。
その表情の変化に私は戸惑いながらもホッとした。
「ありがとう」
良かった。
黙っててくれるなら、とりあえず安心だとホッと胸を撫で下ろす。
そして龍輝君には、きちんと謝罪をしないと……。
許してもらえるかはわからないけど……。
しっかり謝ろうと顔をあげると、龍輝君がソッと私の耳に顔を寄せた。
「えっ? ちょっと……、龍輝君!?」
ち、近い!
あまりの近さに自分でも顔が赤くなるのがわかる。
しかしそんな私にはお構いなしに、龍輝君は囁いた。
「バレたくなかったら俺の言うこと聞けよ?」
……え?
言うことを聞け?
って、それって………。
「まさか脅す気?」
「人聞き悪いこと言うなぁ」
龍輝君はクスクスと意地悪く笑い、そう囁いて龍輝君は私から離れた。
謝罪をしようとしていた私は、突然の展開に唖然とする。
そんな私に、龍輝君は面白そうに微笑んだ。
「宜しくね。楓ちゃん」
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